やっぱり二人はモテている

「……ふわぁ」


 今日もやっと学校が終わった。退屈な日々を送っているわけではないが、終礼を終えた後はどうも最近肩が凝っている気がする。首を回すとゴリゴリ、肩も回すとゴリゴリ音がなるのはよっぽどだ。


「今日もお疲れだな隼人」

「んだなぁ。あぁ眠てえ」


 友人たちも思ったような反応だった。

 それにしても……終礼が終わってからすぐこっちにやってくる亜利沙と藍那だけど今日は遅かった。こういう時はおそらく……そう思って俺が立ち上がると、友人たちも付いていくぜと言わんばかりに立ち上がった。


「ほんと、いつも悪いな」

「全然良いってことよ。あの二人の雷が落ちるのは周りも怖いからな」

「雷って……」


 俺としてはあの二人に本気で怒られた経験はまだない。なので本気の怒りというのがどんなものかは分からないけれど、以前俺に絡んできたあの二人に対しては本当に凄かったからな……。


「別に口説くとかそういう意図はないんだがよ。やっぱあの二人は隼人と一緒に居る時が幸せそうだ。羨ましい限りだぜこの野郎!」

「いてて……やめろって」


 バンとそれなりに大きな音を立てるように背中を叩かれた。

 まあでも、本当に贅沢で幸せな日々を送らせてもらっているよ。そのことを感謝しつつ俺も彼女たちを思いやることは決して忘れない。些細なことでもお礼は言っているが、それで向けられる笑顔を見てしまうとそう言った一言の大切さを良く理解できるのだ。


 それから友人たちと共に彼女たちの教室に向かうと、案の定というか二人は男子に話しかけられていた。いつぞやの同級生ではなく、アレは……って後輩か?


「やっぱ下級生にも人気なんだな」

「上級生の教室に来る勇気はすげえけど」

「確かに」


 わざわざ上の教室まで来る行動力を他のことに使ってくれると良いんだが……俺たちが教室に来たことに気付いた亜利沙と藍那が不機嫌そうな表情から一転、誰をも魅了する笑みを浮かべてすぐにこちらにやってきた。


「隼人君!」

「ごめんね。すぐに行こうと思ったんだけどウザいのが来ちゃってさ」


 藍那がここまで言うって相当だけど……。

 ちなみに、二人の友人たちは下級生の二人を睨んでいて……彼らも彼らで居心地の悪さを感じるくらいには思っているらしい。


「あ、あの先輩!」

「俺たちは生半可な覚悟で――」


 ……まあ気持ちは分からないでもない。

 もしも亜利沙や藍那に憧れたとして、クラスが違うだけでなく学年も違えば接する機会は本当に少ない。となると親しくなるためには誰かを介して連絡先等を交換すればまだ分からないが、基本的に男子とは交換しない二人だからこそそれも無理だ。


 となると当たって砕けろの精神で取り合えず、みたいな感覚もあったのかもしれない。


「覚悟とかどうでもいいんだよ。私と姉さんはあなたたちと付き合うつもりはこれっぽっちもないの。いきなり教室に来て迷惑なんだよ本当に」

「そうね。もう一度言うわ――二度と目の前に現れないで」


 藍那よりも更に鋭い亜利沙の言葉に、後輩二人は泣きそうな顔になって教室を出て行った。あそこまでキツイことを言われると可哀そうに思えてくるが、ただただ相手が悪かったとしか言えない。

 それから俺たちは揃って下駄箱に向かい、そこで友人二人とは別れた。


「あ~あ、一分一秒でも出来るだけ多く隼人君の傍に居たいのにさぁ」

「本当にね。彼らが教室に来た時点で嫌な予感はしてたわ」


 本当に清々しいほどの嫌われっぷりだなあの後輩たちは。

 あぁでも、そう言えばあの以前に俺に絡んできた彼らはどうなんだろうか。俺はそれを二人に聞いてみた。


「彼らとはもう話してないよね」

「そうね。目が合うと気まずそうに逸らしていくから」

「……なるほど」


 何と言うか、こんな風に徹底してくれるのを見ると俺自身凄く安心する。本当なら異性であってもクラスメイトである以上仲良くした方が良いに決まっている。けれどどこまで行っても亜利沙と藍那は俺しか見ることがない……それに対して喜ぶ俺が居るのも確かだった。


「……ふふ」

「亜利沙?」


 ふと、俺の顔を覗き込んでいた亜利沙が笑った。


「あんなふうに遠ざけない方がいい、でも私たちがああいう風にしたのが嬉しいってところかしらね?」

「……あ~、分かる?」

「分かるわよ。隼人君のことならなんだって分かるもの」


 ニコッと笑みを浮かべた亜利沙に対抗するように、藍那も隣で声を上げた。


「私だって隼人君のことは良く分かるもん!」

「……あはは、分かってるよ藍那」


 どうやら亜利沙とのやり取りに若干の嫉妬をしたらしい。正面から俺に抱き着いた藍那の頭を撫でると、彼女はすぐに笑みを浮かべてくれた。そして、亜利沙の方に視線を向けて舌を出して挑発した。


「べーっだ」

「……子供じゃないんだから」


 そんな藍那に亜利沙は呆れたように苦笑した。

 やっぱりこういう部分で亜利沙は姉なんだなって分かる。まあ藍那も本気ではないし亜利沙もそれが分かっているのだろう。亜利沙もこちらに近づき、藍那の頭を優しく撫でた。


「本当に藍那は可愛いわね。私なんかと違って感情表現が豊かだもの」

「……そんなことないでしょ。姉さんも大概だと思うけど」

「そうかしら……」

「俺もそう思うな。むしろ、二人っきりの時の甘えようは凄いぞ?」

「……そうなのかしら」


 俺や藍那、咲奈さんと接する以外だと確かに無表情は多いかもしれないが、二人きりだと亜利沙はリミッターが外れたように感情を露にする。というか、最近クセになりつつあるメイドさんごっこの時の亜利沙ときたら……。


「亜利沙はエッチだよ」

「いきなり!?」

「うん。姉さんはとてもエッチ、流石お母さんの血を引いてるよ」

「……藍那、その言葉あなたにそのままお返しするわ」


 ……まあ確かにエッチなのは藍那もだよなぁ。

 そんな風に俺たちは賑やかに話をしながら帰り道を歩く。藍那がずっと引っ付いていて亜利沙は離れていたが、チラチラとこちらに視線を向けていたのは分かった。なので亜利沙もどうかと視線を向けたのだが、今だけは藍那に遠慮したらしい。


「それにしても今日のは本当に面倒だったね。私たちも私たちでさ、少しでも隼人君に変な気を遣わせないようにって努めてるのに」

「そうなのか?」

「うん」


 頷いた藍那はこう言葉を続けた。


「そんなつもりはないし隙も見せないけど、どんな理由があっても他の男子と二人っきりっていうのは避けてるの。隼人君が疑うことはないと思うけど、そんな小さなことでも変な誤解に繋がりそうなことは嫌だから」


 藍那の言葉に亜利沙も続いた。


「そうね……まあ私たちが隼人君以外の男性に対して嫌悪感を抱いているのもあるのだけど、そういう小さな部分から心掛けることでもっと強く隼人君と繋がっていられると思うから」

「……そっか」


 何と言うか、本当に愛されているなと実感する。

 俺は嬉しくなって藍那だけでなく、離れていた亜利沙にも腕を伸ばして抱き寄せた。


「本当に大好きだよ二人とも!!」


 果たして、俺はどんな顔をしていただろう。

 たぶん……いやきっと、子供のような笑顔を浮かべていたに違いない。それだけ今と言う瞬間がとても嬉しかったから。

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