年越しをみんなで

 十二月三十一日、年末最後の日だ。

 日付が変わった段階で初詣に行くかどうかの話をしていたが流石に深夜に向かうことはしなかった。明日の朝、改めてみんなで年始を迎えた挨拶をしてから神社に向かうことにした。


「……もう、隼人君ったら気持ちよさそうにしちゃってさ」


 少し拗ねたように藍那がそう言った。

 時刻は二十二時を過ぎたくらいだが、既に隼人は眠りに就いていた。咲奈に膝枕をしてもらう形で眠っており、とても気持ちよさそうな寝顔をしていた。


「ま、朝から掃除とか色々したし疲れが溜まってても仕方ないか」


 拗ねたとはいってもそこまでではない。率先して重たい物などを運んだ隼人を労わるように、藍那は腕を伸ばして隼人の頭を撫でた。


「可愛い寝顔よね本当に」

「そうね。そんな表情も全部私たちは好きだものね」


 咲奈の言葉に二人は頷いた。

 本当なら年末最後の思い出として少しエッチなことだが、また四人でというのも考えてはいた。しかしこうやって隼人が眠ってしまったのなら我が儘を言うわけにもいかず、かといって起こしたらきっと応えてくれるとは思うがそこまで無理をする必要もない。


「亜利沙に藍那も。最近隼人君を無理させすぎだと思うのよ。少し間を開けるのも大事だとは思うわ」


 魅力的な女性としての輝きを一層増し、フェロモンを凄まじいほどにまき散らす咲奈に亜利沙と藍那はジトッとした目を向けた。まるで咲奈にだけは言われたくないと言わんばかりの顔だ。


「いざ始まるとお母さんが一番凄いじゃんか」

「そうよ。本当に盛った大学生みたいよ母さん」

「……娘たち、それは少し酷いんじゃないかしら」


 いや、娘たちの言い分は何も間違っていない。

 三人の中でもやはり一度始めると凄まじいのが咲奈だ。凄まじいとはいっても乱暴とかではなく、あくまで隼人を無理させない範囲で止めている。時に隼人に激しくされることを望み、時に逆に隼人をリードし、時に少しだけ過激なやり取りをしながら興じる……咲奈は本当に色んなやり方で隼人を楽しませているのだ。


「……色んな形で隼人君を幸せにしてあげたいね」


 藍那の言葉にたくさんの思いが込められていた。

 亜利沙も咲奈もその言葉に頷いた。明日には新年を迎えるわけだが、今年は正に三人にとって多くの変化を齎した。隼人との出会いが全てを変え、今の幸せを送り届けてくれた。


「姉さん、お母さん」

「どうしたの?」

「何かしら」

「私……子供が欲しいなぁ。隼人君との子供が」


 藍那は慈愛に満ちた目を隼人に向けてそう呟いた。

 好きな相手との子供が欲しい、それは別に間違った感情ではない。しかし咲奈はそんな藍那に苦笑し、亜利沙にとっては呆れたように溜息を吐いた。


「藍那ねぇ……隼人君がちゃんと線引きをしてくれるから何もないけれど、もう少しだけ我慢しなさい」

「……はぁい」


 まだ高校生なので子供を作るつもりはない、そんな意識を藍那もちゃんと持っているとはいえ愛し合えばそんな抑制は一瞬のうちに砕け散る。それだけ藍那の内側が求めるのだ……早く欲しいと、早く形を成させろと。


「分かってるんだけどなぁ……隼人君と愛し合うと私、ダメになっちゃうから」


 てへっと可愛く舌を出したが、やっぱり隣で亜利沙は呆れていた。

 そんな娘たちのやり取りを咲奈も微笑ましく見つめている。自分と同じで夫以外の男性に対しての嫌悪感、それを引き継がせてしまったことは当然気づいている。だがそれでも隼人という男性を好きになり、こうして異性とのやり取りに関して話をしている姿は本当に感慨深かった。


「二人とも、来年はどんな風に過ごすの?」

「隼人君と一緒に過ごすわ」

「隼人君と一緒に過ごすよ」


 そういうことではなく目標みたいなものを咲奈は期待していたのだが……まあそれで良いかと笑みを浮かべた。


「……来年はどんな年になるかしらね」


 隼人と娘たちが居てくれるなら、きっと楽しく幸せな年になるんだろうと咲奈は確信していた。それからしばらく三人で話をしていると、隼人が目を覚ました。目を擦りながら起き上がり、ずっと膝枕をしていた咲奈に頭を下げる。


「……あ、寝てたのか。ごめんなさい咲奈さん」

「いいえ、全然大丈夫ですよ」


 隼人が起きたのは二十三時三十分、年越しまで後僅かだった。

 ここまで来たらあと少しはみんなで起きていようということになり、テレビで年越し番組を見ながら雑談を楽しむ。


 そして、ようやくその時がやってきた。

 時計の針が十二を差し、そして針がその先へと動いた。


『明けましておめでとう!!』


 四人の声が重なり、ついに新年の到来を告げた。

 去年のことに関してはほぼほぼ後半にイベントが凝縮されていたようなものだが今年からは違う。その一番初めの時間からみんなが一緒だ。


「……いい年になりそうだな本当に」

「そうだね♪」

「隼人君が一緒だもの♪」

「きっといい年になりますよ♪」


 美しすぎる三人の美女にそう言われ、隼人は頬を緩ませて笑みを浮かべた。

 それから当然朝に備えて寝ることになるのだが、厳正なジャンケンの元隼人と一緒にベッドで寝ることになったのは藍那だった。

 

「……えへへ♪」

「ご機嫌だな?」

「そりゃあね。隼人君が傍に居るもん」


 体を横に向けて隼人に藍那は抱き着く。

 実を言えばジャンケンで決まり不平不満はなかったが、こういう時はやっぱり少しだけ亜利沙と咲奈に対して申し訳なく思ってしまう。だが、これも戦なので仕方のないことなのだ。


 にへらと笑みを浮かべた藍那を見つめながら隼人はこんなことを口にした。


「……思えばさ、藍那がああやって俺に絡んでこなかったらきっと俺たちの関係は生まれなかったと思うんだ」


 隼人は自分からカボチャを被って彼女たちを助けたことを言うつもりはなかった。藍那が隼人に気づき声を掛けてアプローチをしたからこそ三人との繋がりが生まれたのだ。だからある意味、みんなを繋いだ立役者は藍那ということになる。


「今となったらファインプレーをしたなって思うよ。もしかしたら、奏ちゃんが一人勝ちしてた未来もあったかもね」

「あぁ……」


 確かにそんな未来もありそうだなと隼人は苦笑した。

 まあたとえどんなことがあったとしても、今隼人と特別な関係なのは藍那たちであり隼人を独占しているのもまた彼女たちだけである。


「隼人君、今年もよろしくね? もっともっと愛してね? もっともっと私も隼人君を愛するから♪」

「あぁ。それはそれで疲れそうだけど頑張るしかないよな」

「うんうん♪ 疲れても幸せで気持ち良い疲れ方だからいいんじゃん♪」


 ギュッと隼人に抱き着いて藍那はそう言った。


 隼人と彼女たちが出会ったのは偶然でもあり必然でもある。

 新たな年を迎えても四人の関係に変化はなく、もっと深くもっと抜け出せない愛の螺旋に隼人が閉じ込められるのは諍いようのない事実だ。


「隼人君♪ する?」

「しません。二人と約束しただろ?」

「ぶぅぶぅ! まあでも仕方ないっか」


 今年は最初からスパートを掛けるように、幸せでエッチな日々を送り続けることは容易に想像できるのだった。

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