温泉、それは淫魔の巣窟(違う
「……ふぅ。いい湯だなぁ」
全身を包む少しだけ熱いなと感じるお湯に浸かりながら俺は呟いた。
一年の終わりでもある年末、最後の思い出作りとして俺は新条家の女性たちと温泉にやってきた。以前に藍那がみんなで混浴にでも行きたいと言っていた言葉が実現されたわけだ。
「本当にねぇ」
「うんうん。最高に気持ちいいね」
両隣で俺の腕を取るようにお湯に浸かっている亜利沙と藍那が呟いた。
「ふふ、いきなりだったし一日しか取れなかったのが少し残念ね」
もちろん亜利沙と藍那だけでなく、正面には咲奈さんも居た。
今咲奈さんが言ったように今回の温泉は元から予定を組んだものではなかったのもあって一日しか取れなかった。まあそれでもみんなと思い出を作るということに関しては十分であり、こうして温泉を楽しめていた。
「冬に温泉に来たのは初めてだけど、この肌に当たる冷たさと熱いお湯がたまらん」
「あはは、ちょっと年寄り臭いよ隼人君」
いやいや、これはそう思ってしまう気持ちよさだって。
というか温泉もそうだし両腕に当たる胸の感触も……って以前クリスマスの時にも思ったけど、こうやって背中を岩に預けながら両サイドから美女に抱き着かれるのはどこの王様だよって感じだ。
「隼人君も色々と慣れましたね。こうやってみんなで裸で居てもあまり動じなくなりましたし」
「……まあそれだけ濃すぎる時間を過ごしたってことですよ」
「確かにその通りですね♪」
家で一緒にお風呂に入ることも少なくないし、体の交わりだってそれなりの回数を熟している。それこそ四人で、なんて世の男に知られたら殺されてしまうようなこともしているのだから慣れはするってものだ。
「……あ~」
空を見上げれば漆黒の夜空の中に多くの星が見えている。
露天風呂というのは本当に久しぶりだったけど、こうやって景色を楽しめるからこそ人気なんだろうなぁ。
「極楽極楽♪」
景色を楽しみながら、亜利沙と藍那の柔らかさを堪能する。
腕に感じるのは彼女たちのスベスベの肌、そして手の平に感じるのは押し返してくる豊満な弾力と……うん、本当に贅沢すぎる。
「あはは、隼人君ったら湯気であまり見えないからって私たちのおっぱいで悪戯しちゃって♪」
「本当にね。でも、隼人君だから何でも許してあげるわ♪」
「……ちょっと隼人君! 私は仲間外れですか!?」
ちょっと殿様気分が過ぎましたごめんなさい!
咲奈さんがグッと距離を詰めるようにそう言ってきたので、俺は腕を上げるようにして二人から手を離した。
「隼人君、寂しいよ」
「そうよ隼人君」
「……………」
俺はどうすればいいんだ……。
なんて、どうやら俺を少しだけ困らせたかった演技らしく三人は笑っていた。俺はやられたなと思いつつも、彼女たちに釣られるようにクスっと笑うのだった。
「でも隼人君、本当にしなくていいんですか? 凄く元気になってますけど」
「……一応色んな人が使う場所なので」
咲奈さんに囁かれてやっちゃいなYOと語りかけてくるそれにうるさいと叫びつつ俺は我慢した。混浴を利用するのは基本的に親子か、あるいは俺たちのように恋人同士というのがあるはずだ。なのでハッスルしてそういうことをする人も居るとは思うが、やっぱり他の人も利用する場所だし俺は踏みとどまった。
「……ふぅ」
心を落ち着けるように深く息を吸い込んで吐いた。
咲奈さんの声音は本気だったし、俺がその気になれば亜利沙と藍那も絶対に乗ってくるのは分かってる。だからこそ俺が耐えなくてはいけない……嫌いではないがやっぱり場所は考えないと。
「仕方ないね。それじゃあ大人しく温泉を楽しも!」
うん、藍那の言葉に賛成だ。
それからは特に刺激的なことをすることはなかったが、やっぱり傍に彼女たちが裸で居るとある程度は意識してしまう。
「……ある意味生き地獄だよなぁ。なんで三人ともそんなに素敵な人たちなんだ?」
「そ、そう真正面から聞かれると照れちゃうね」
「……好きよ隼人君」
「あ、私もするぅ!!」
亜利沙が頬にキスをしたと思ったら藍那も頬にキスをしてきた。
「……むぅ!」
頬をぷくっと膨らませて咲奈さんが弱弱しく睨んでくる。
咲奈さんを受け止めるように腕を広げると、パッと表情を明るくして正面から抱き着いてきた。ただ二人とは違いキスは頬ではなく唇だった。咲奈さんの場合はすぐに舌が侵入してくるが、ここではしないと俺が言ったことを守ってくれたのか触れるだけのキスだった。
「焦る必要はないですよね。寝る前にお部屋でいくらでも♪」
「……やっぱりそうなるんですね?」
「当たり前だよ!」
「それも含めて思い出よ!」
……っということらしいです。
さっきまで二人が俺に身を寄せていて不満が溜まっていたのか、咲奈さんは抱き着いたまま俺から離れてくれない。三十代後半の女性が大好きホールド……この響きは少しエロすぎるが、やっぱり恋愛に年齢なんてそこまで気にならないんだなと改めて理解できる。
「……亜利沙、藍那、咲奈さんも本当にありがとう」
唐突に俺はそんなお礼を口にした。
俺たちの出会いは何度思い返しても偶然と偶然が重なった結果だ。どう転ぶかによって出会わなかっただろうし、誰かが欠けていた未来もあったかもしれないから。
「俺と出会ってくれて……俺を好きになってくれてありがとう」
そう伝えると咲奈さんが足を解くようにして離れた。離れたとはいっても間近に彼女が居るのは変わらない。咲奈さんは俺の手を取って自身の手を重ねるようにした。
「お礼を言うのは私たちですよ。隼人君に出会えたからこそ、こんなにも毎日が充実しています。あなたに出会えた奇跡に感謝を、私たちを好きになってくれたあなたを一生を懸けてお世話します♪」
「……っ」
お世話って……恥ずかしいけど嬉しくて泣きそうだ。
俺はもう一人じゃない、何度目か分からないがそう実感する。そして咲奈さんだけではなく、亜利沙と藍那もそれぞれ両方から抱き着いてきた。
「私も一緒だよ。隼人君に出会えて良かった……これからもいっぱい甘えてもらうしいっぱい甘えるからね♪」
「母さんと被ってしまうけど、私も一生を懸けてあなたを支えるわ。だから隼人君、絶対に私たちの元から逃げないでね?」
逃げないで……か、少し圧を感じた言葉だけど必要ないだろうそれは。絶対に逃げることはないし、何より逃がしてもらえなさそうだ。
だけど、ふと思うことがあった。
俺たち四人の関係性は世間から見れば異常だ。間違っていると分かっていても俺たちがそれを望んでいるからこの関係が保てている。もしも……本当にもしもの可能性だけど、この中から誰か一人を選んでいたとしたら他の二人は……って、それを考えても仕方ないか。
「……ちなみにさ」
でも気になったので聞いてみることにした。
「俺がもし誰か一人を選んでいたとしたら……どうなってたのかな?」
その問いかけに対する返事の間はなかった。
「死んでたかな」
「死んでたわ」
「死んでましたね」
……その返事に俺は心から安心した。
とはいえ世の中には色んなタイプの女性が居るとは思うのだが、最近になって有名になってきた言葉から俺はもしかしたら三人はこのタイプではないかと思ったのだがどうだろうか?
「……ヤンデレ?」
「え?」
「うん?」
「どうしました?」
キョトンとした三人の表情に苦笑しつつ、現実世界でそうそうヤンデレというものに出会うことはないかと俺はそう思うのだった。
【あとがき】
もう少しで完結します。
十万文字で終わる予定でしたが、ここまで頑張ることが出来ました。あと少しですがぜひともお付き合いください!
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