やっぱり従妹なのでそれは変わらない
ツイスターゲームというものを知っているだろうか。
床に敷かれたマットの上、そこに描かれた色んな色のマットに手足を指示通り置いていくゲームだ。
主にパーティゲームとして盛り上がりを見せるゲームだとは思うのだが、当然俺は今までやったことはなかった。さて、どうしていきなりこんなことを言い出したのか答えは簡単だ。
何かみんなで遊べるものがないか、そういって亜利沙が持ってきたのがツイスターゲームだったわけだ。
「懐かしいねこれ。結構前だけど隼人君と絡み合える遊びだからってネットで頼んだんだよ。その必要がないくらいに日々イチャイチャしてるから忘れてたなぁ」
「本で見たことはありますが実際に目にしたのは初めてですね」
……藍那の絡み合う発言に全くうんともすんとも言わない奏に俺は心の中で感謝しかないよ。とはいえこうしてこれが用意されたということはつまり、今からみんなでこれをやるってことでいいのか?
「それじゃあ私がゲームマスターだよ! 三人ともぐんずほぐれつ絡み合うがいいよフフフッ」
……もうね、不安しかない。
とはいえ未知のゲームということもありどんなものかは気になる。実際にやったことがないからこその楽しみというか、まあそんなものだった。だが……実際にこのゲームを始めて思ったこと、それはこれがとても恐ろしいゲームだと知ったのだ。
「……これ、めっちゃしんどいんだが」
「そうね……こら藍那! ニヤニヤしないでちょうだい!」
「……ふぅ……ふぅ……っ!」
マットの上で必死な形相の俺たちを嘲笑うような藍那に亜利沙が噛みつく。自分の番が来るまで体勢を維持しないといけないからこそ、変な姿勢になったら相当に体力を消費してしまう。
「奏は大丈夫か?」
「は、はいぃ……」
うん、相当にしんどそうだな。
冬とはいえ額に汗を掻いてるレベルだし……それは俺もだけどさ。亜利沙は汗を掻く以上に藍那を睨んでるけど。
「はい、じゃあ隼人君は右手を緑に置いて」
「……よし」
その指令でかなり楽な姿勢になった。
四つん這いみたいな体勢でかなり恥ずかしいが、それでも一休み出来ることに関してはかなり大きい。
「姉さんは左手を青だよ」
「青ね……あ」
何気なしに俺の足元に亜利沙は手を置いた。するとその顔の位置がちょうど俺の腰の位置、つまり俺の大事な部分の真正面に来てしまったのだ。まるで猫が瞳孔を細くするように見つめると、俺の顔を一度見てからもう一度視線を戻した。
「……すんすん……はぁ♪」
って匂いを嗅ぐんじゃないよ!
厳しい姿勢で精一杯の奏が傍に居るというのに、亜利沙は頬を赤く染めてこんなことを口にするのだった。
「隼人君、ちょっとこの体勢厳しいから許してちょうだい」
「え、全然楽になったんじゃ――」
そう言った瞬間、俺の腰に亜利沙は顔を押し付けた。そのまま匂いを嗅ぎながらも息遣いをしているものだからズボン越しにかなりくすぐったい。というか声を出さなかった俺を褒めてほしい。
「姉さんそれはどうなの?」
「あなただってやるでしょ絶対に」
だからその状態で喋るのはやめてくれって!
確かにねと笑った藍那は次の指示を奏に飛ばす。
「奏ちゃんは右足を赤だよ」
「はいぃ……あ」
っと、そこで俺の体を跨ぐ形になりそうだった。
俺はどうにか奏がより楽な姿勢になれるようにと何とか体勢を低くした。すると奏の体が俺の体の上に来るようになったのだが……ちょうど俺の顔の前に奏の豊かな胸元が到来した。
「っ……辛いですぅ!」
「……俺も色んな意味で辛いんだが」
顔面に奏の胸、股間に亜利沙の顔……何だよこの状況!
「次だね。隼人君は右足を緑だよ」
「……くぅ!!」
右足を動かすと必然的に腰も動く。
亜利沙の顔にモゾモゾと腰を押し当てるこの恥ずかしさに死ねる。取り敢えず亜利沙のことは置いておくとして、腕も少し伸ばすようにして足を伸ばす。するとどうにか指示通りに足を置くことが出来た。
「……ふぅ! ……ふぅ!!」
やばい……もう限界かもしれない。
足が攣りそうな状況に陥ったその時だった。
「ご、ごめんなさいお兄さん……っ!」
「え――」
俺の顔面は物凄く柔らかな物体に押し潰された。
マットはとても柔らかい質感なので後頭部は全く痛くなかったが、息も絶え絶えの奏の下敷きになる形だ。辛かったのは俺も同じなので奏同様にちょっと息をするのがしんどい。奏の柔らかさと甘い香りに包まれながらもなんとか息を整えた。
「大丈夫ですかお兄さん!?」
「だ、大丈夫だ……」
体を退けてくれたことで俺は起き上がった。
さてと、これって誰が負けになるんだろうか……普通に考えると奏か?
「ルールは先に体が落ちちゃった人が負けだから隼人君の負けで、その次が姉さんで見事生き残ったのが奏ちゃんだよ」
「え、私ですか?」
どうやらそういうことらしい。
というか亜利沙はいつまで俺の腰に顔を押し付けているつもりなんだろう。確かに恥ずかしいがこの体勢も今となっては珍しいことでもないし……ってこほん、変なことを考えるのは止めよう。
「……ちょっとおトイレに行ってくるわ」
サッと立ち上がってトイレに亜利沙は向かった。
その背中を見送った藍那は奏にこんなことを言うのだった。
「奏ちゃんは何か隼人君にしてほしいことはある? 勝者の特権だよ♪」
「してほしいこと……」
あ、やっぱりそういうのがあるんだね……。
ある意味負けたといっても勝った以上に幸福な時間だったような気もする。しばらく考えていた奏は膝枕をしてほしいと俺に頼んだ。
「そんなことでいいのか?」
「はい。憧れてたんです」
それならと、俺はソファに座って奏を手招きした。
こういうことへの憧れ、つまりは兄に対して甘えることへの憧れかな。なんにせよこれで奏が喜んでくれるなら全然してあげられる。
「……ふわぁ」
「眠たいか?」
「あ、すみません……いつもよりはしゃぎすぎたんですかね」
奏はあまり運動をするようなタイプじゃないし、それにここに来て緊張もある程度はしていたと思うから疲れが出たのかもしれない。
頭を撫でながら話をしているとすぐに奏は眠ってしまった。
「寝ちゃったね」
「あぁ。というか終始ノリノリだったな藍那は」
「あはは♪ 見てて本当に楽しかったもん。でも運動にはなったでしょ?」
まあ確かに……色々と大変な目にはあったけど。
「それにしても奏ちゃんってスタイル良いよね」
「……だな」
藍那にそう言われるといやでも奏の体に視線が向く。
邪な気持ちを抑え込むように頭を振ると、そんな俺を顔を近づけて藍那はキスをしてきた。しかもただ触れ合うだけのキスだけでなく、しっかりと舌を絡めてくる激しいキスだった。
「……ぷはぁ♪」
口を離した藍那はその瞳に俺しか映していない。糸を引くように伸びた唾液が重力に従うように落下し、それが奏の頬に落ちて垂れていく。その唾液を指で拭き取った藍那はこんなことを口にした。
「奏ちゃん、すっごく隼人君のことが大好きなんだよ。それこそ、何をされたって嬉しいって思っちゃうくらいなの。それは私と凄く似てるね♪ 私だって隼人君にならなんだってされたいし」
自然と奏の顔に目が向いた。
何度見ても可愛らしさと大人になろうとする魅力が抜群のバランスで同居している顔立ちだ。気持ちよさそうに眠っているその姿に微笑ましく思う。
「……奏は従妹だからな。そこは変わらないよ藍那」
やっぱりドキドキすることはあるのだ。それでも、この子は俺にとって接した時間は短いが大切な従妹になるのにそう掛からなかった。たとえこの子に魅力を、体に反応してしまったとしてもそれは絶対に変わらない。
眠る奏の頬を撫でるとどこか嬉しそうに頬を緩ませる。何か良い夢でもみているのかもしれない。
「俺にとって藍那たちがあまりに大切すぎるだけなんだよ。それは藍那だって分かってるだろ?」
「……あ」
今度は俺から顔を近づけて藍那にキスをした。
藍那は一瞬で目をとろんとさせてしな垂れかかってきた。
「……えへへ、そうだね。私ったら何を考えてたんだろ」
その考えはある程度予想できるけど、実際にそうなったらと思うとどうなるのかちょっと怖いかもしれない。
「でも、もっと大人になって魅力を増した奏ちゃんがあんな風に接してきたらどうなるのか興味はあるよねやっぱり♪」
「うぐっ……」
そうなったら菫さんを含めて旦那さんに殺される気がするよ俺は。
結局、その後奏は迎えの車がやってくるまで目を覚まさなかった。せっかく遊びに来たのに眠ってしまったと残念がっていたが、そこはまた会おうと約束をして何とか笑顔に戻ってもらった。
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