藍那の囁き
奏を交えてのやり取りだが、藍那だけでなく亜利沙もかなり打ち解けており雰囲気はとても和やかだった。相変わらず奏は俺の隣から動かないが、妹に甘えられていると思えばとても微笑ましい。
「そういえばなんですけど、以前に藍那さんがお兄さんは恋人が三人居ると言っていましたけど……亜利沙さんもですよね?」
「えぇ。その通りよ♪」
奏の言葉に亜利沙は笑顔で頷いた。
あの時、藍那を交えて会った時にこの話をしたはずだ。正直普通の人が聞けばえっと首を傾げてしまう事実なのだが、奏はあの時と同じように一切の疑問を口にすることはなかった。
「亜利沙さんもとても綺麗で素敵な人ですから当然ですよね。ふふ、お兄さんは本当に凄い人です♪」
「……ありがとな」
内容が内容なだけにその純粋な瞳で見つめられるのは背中が痒くなりそうだ。ニコニコと本当に楽しそうなその様子に俺としても頬が緩みそうになるが、亜利沙たちではない誰かとここまで距離が近いのは若干の戸惑いがあるのは確かだ。
「……あの、お兄さん」
「どうした?」
っと、そこで少し奏が表情を曇らせた。
ここに来て初めての表情の変化がその悲しそうな顔だったため、俺だけでなく亜利沙と藍那も気になったように奏を見つめた。
奏は俺から少し距離を取って口を開いた。
「祖父と祖母がお兄さんと、お兄さんのお母さまにとても許されないことを口にした事実を知りました。本当にごめんなさい」
まるで自分が罪を犯してしまったかのように、奏は俺に頭を下げた。奏がそのことを知っていたことにも驚いたが、そんなことよりも俺は奏の肩に手を当てて無理やりにでも顔を上げさせた。
「知ってたことはビックリしたけど奏が謝ることじゃない」
「……ですが、私はずっとそれを知りませんでした。仕方のないこととは思いますけど、それでも祖父と祖母がしたことは許されないことです」
許されないこと、そう呟いた奏の瞳は暗く濁っていた。思わず身震いしてしまいそうになるほどの深淵を覗かせた気分にさせられたが、やっぱりそれは奏が気にすることでも謝ってもらうことでもない。
「もう何年も前のことだし済んだことだよ。いいか奏、そんな顔すんな」
「むぎゅ!?」
その目はやめてくれ怖いから。
そんな意味も込めて奏の頬に手を当ててムニムニと揉んでやった。驚いた様子の奏だったが、またさっきみたいに笑みを浮かべてくれた。
「……でもやっぱり気にしてしまったんです。お兄さんにそんなことを言ったのが許せなくて、つい電話でもう二度と会いたくないって言ってしまいました」
「……おうふ」
昔の記憶だから薄れているが、あの性格の悪そうな顔をした人たちでも孫の奏はとても可愛い子だろう。あの顔が悲しみに歪むのは少しざまあみろと思わなくもないが随分思い切ったもんだな。
「後悔はしてませんよ? 今の私にとってお兄さんの方が大切ですから。あんな人たちよりも、お兄さんのが大切なんです」
真っ直ぐに見つめられそう言われた。
……ま、あの人たちのことはいいかこの際。俺は奏の言葉が嬉しくてついつい手を伸ばして頭を撫でた。
「本当に兄妹って感じだね」
「そうね。見てて心地良いわ」
二人にジッとみられているのもそれはそれで恥ずかしいんだけど。
そんな風に奏の頭を撫でていると藍那が立ち上がって俺の隣に腰を下ろした。
「ねえ奏ちゃん、もっと隼人君中毒になりたくない?」
中毒って俺は何かの依存症誘発剤なんですかね。
「なりたいです!!」
「奏!?」
胸の前でグッと握り拳を作った奏に俺は将来が心配になった。
藍那はともかく、亜利沙は俺たちのやり取りを楽しそうに見つめているだけで止める気は一切なさそうだ。さて、何をどうやって中毒と表現したのかそれはとても簡単なことだった。
「見ててね奏ちゃん。隼人君♪」
「おっと」
胸元に顔を押し付けるように藍那が抱き着いてきた。
そしてそのまま大きく息を吸うように深呼吸をした藍那が顔を上げると、何とも言えない恍惚とした表情となって呟いた。
「この匂いがクセになるのぉ……隼人君キスしよぉ?」
「……奏が見てるからな?」
「……はっ!?」
目をとろんとさせていた藍那だが、奏の名前に我に返った。まあこうすると藍那が興奮するのは分かっていたが……俺は恐る恐る奏を見ると、物凄く羨ましそうに藍那を見つめており、次いで俺に期待するようにキラキラとした目を向けてきた。
「……つまりはそういうこと?」
「うんうん♪」
藍那に促されるように、俺は一つ息を吐いてから奏に体を向けた。
「お兄さん……奏、参ります!」
さっきの藍那よりも少し強い衝撃が胸元に襲い掛かった。
胸元に顔を押し付けた奏だったが、そのまま動かなくなってしまい俺は困惑する。
「奏?」
「……………」
何も喋ってくれなかったが、奏はゆっくりと顔を上げた。
藍那のように頬を赤くしながらも、しっかりと俺を見据える眼差しは強かった。
「お兄さん……これ、クセになりますぅ」
「あはは、だよねぇ。私も姉さんもこうされると隼人君には勝てないんだぁ」
「不思議よね。まあそれだけ隼人君の香りが……こほん、隼人君に抱きしめられると安心するってことでしょう」
再び胸に額を押し当てて奏は動かなくなった。
そのまま動かなくなった奏の頭を撫でていると、亜利沙が何か遊べる道具がないか探しに行くと言ってリビングから出ていき、藍那は俺と奏を微笑ましそうにずっと見つめていた。
「……私の読んだ漫画でも、お兄さんが妹にこんなことをしてました」
「へぇ」
「それで、こんな風に甘えられる人に憧れていたんです。まさかそれが現実になるなんて夢にも思いませんでした」
そんな憧れるシチュエーションを提供できるような人間ではないんだけどな。まあでも菫さんとも話をして従妹という認識になったし、これからいくらでも会う機会はあるだろうしこうやって甘やかせる機会も多いと思う。
「ま、これからもこうやって甘えてくれると嬉しいよ。奏が俺のことを兄だって思ってくれるみたいに、俺も妹みたいに思ってるから」
「はい!!」
うん、笑顔が可愛くて大変よろしい。
さてと、そこで俺はトイレに行きたくなったので立ち上がった。体を離した瞬間に奏の切なそうな声が聞こえたが、申し訳ない気持ちを抑えてリビングを出た。
「……お兄さん」
トイレに向かうためにリビングを出ていった隼人の背を奏はずっと見つめていた。彼の腕に抱かれ、胸元に額を押し付けて匂いを嗅いだ瞬間に凄まじい何かが奏の中を駆け巡った。
「……っ……!」
心臓の激しい鼓動が止まない、もっと隼人からの愛が欲しいと求めてしまう。
体をモジモジさせる奏に近づき、その耳元で囁くのは残っている藍那だった。
「隼人君って凄いでしょ? 凄く安心して、凄くドキドキするの。この人に甘えたいって、この人に愛されたいって心が叫ぶの」
「……はい」
熱に浮かされた様子の奏に藍那はクスっと笑った。
甘えたい、愛されたい、その全ての感情が手に取るように藍那には分かる。以前に奏と会った瞬間、直感的に自身に似ていると藍那は感じた。そしてそれは今の奏の様子を見ると何も間違いではなかったのだ。
「ねえ奏ちゃん、あなたは私と似てる。とっても似てるの」
「私が……藍那さんと?」
「うん」
いくら隼人の従妹であっても、そこまでの感慨はないつもりだった。しかし、どこまでも自身に似ている奏を見ているととても他人とは思えない。似ている部分を除いても単純に可愛さと素直さを兼ね備えた奏のことを藍那は気に入っていた。
「気になってる人が傍に居てこうなることは変なことじゃないんだよ?」
「……あ」
藍那の手が奏の胸に添えられた。
大きく柔らかな弾力の先にあるそれに指が触れて体が震えた。背筋をツーっと指の先が這うと何とも言えないゾクゾクとした何かが駆け抜けた。
「ほら、私だって隼人君と抱き合っただけでこんなになっちゃった♪」
藍那もまた、奏と同じように体に変化が起きていた。
同じ女だというのにドキドキさせられるその姿に奏は頬を赤くし、気持ちを落ち着けるように水を飲んだ。冷たいものが喉を通り、先ほどまでの熱くなっていた頭が急激に冷めていった。
「……あの……藍那さん」
「ありゃ……ふふ、その意思の強さって堂本家特有のモノなのかな? まあ何にしても覚えておいて。隼人君が傍に居て我慢できるほど、奏ちゃんは絶対に我慢強くなんてないって私が保証してあげる」
その囁かれた言葉は奏の心に刻まれた。
「奏ちゃんは私と同じで……とってもエッチな子なんだよ」
【あとがき】
このギリギリ想像できる範囲を書くのが最近大好きです。
ところでみなさんは、
エッチな双子の姉
エッチな双子の妹
エッチな双子の母
エッチな従妹
どれが好きでしょうか。
自分は全部好きです。
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