悪戯をしたいお年頃

 朝、頬を撫でる冷たい空気に咲奈は目を覚ました。

 冬ということもあってしっかりと暖かい寝間着に身を包んでいるが、その胸元は暴力的なまでの主張をしていた。目を擦りながら体を起こすと、すぐ隣で眠っている藍那の姿が目に入った。


「……うぅん」


 掛け布団が捲れあがってしまい、寒そうな声を出して藍那は体を丸めた。咲奈は一言ごめんなさいと呟き、藍那が寒くないようにと布団を掛けた。


「……あぁそうか。昨日は亜利沙に負けたのよね」


 昨夜のことを思い出して咲奈は苦笑した。

 そんな咲奈の視線の先には急遽用意した敷布団に仲良く抱き合って眠る隼人と亜利沙の姿があった。


 事を終えた後、疲れ切って先に眠った隼人の隣に誰が寝るかのジャンケンをして勝ち上がったのが亜利沙だった。三人の中で一番初めに色々な意味でダウンしたのが亜利沙だっただけに、隼人の隣で眠る権利を勝ち取った様子はとても嬉しそうだった。


「いつも隼人君の隣で寝ているのに、他に私たちが居るとみんな張り合ってしまうんだから」


 困ったものだと咲奈は苦笑した。

 もちろん亜利沙だけでなく、藍那と咲奈もそれは同じだった。出来ることなら隼人と一緒の夜なら眠るときは彼の隣で眠りたい。咲奈の場合はしっかりと抱きしめ、その豊満な胸元に隼人を誘って眠りたいといつも考えている。


「……マズいわね」


 そう呟いたのは自分の体を見てしまったからだ。

 昨日の夜、クリスマスということもあって本当にはっちゃけてしまった。その名残が当然残っており、隼人の顔を見るとその時の記憶が鮮明に蘇ってくる。


 主張する二つの膨らみと、じんわり内側から滲み出てくる感覚、その二つに咲奈は自分がどれだけスケベな体と性格をしているんだと考えコツンと頭を叩いた。


「さてと、お母さんだもの朝の支度をしないとね。亜利沙と藍那も、それに隼人君だって私の家族だわ。恋人でもあり息子でもある……あぁダメ、息子と恋人ってなんて背徳的な響きなのかしら♪」


 熱い吐息を溢すように咲奈は頬を赤く染めた。

 あの時、寿司屋で女性の店員を狂わせようとしたフェロモンが垂れ流されるが当然亜利沙と藍那には通用しない。それは眠っているからという理由だけでなく、彼女たちもまた咲奈と同じ感覚をそれぞれ持っていて耐性が出来上がっているからだ。


「今日はどんな日になるかしら。娘たちと彼が居る日々はいつでも幸せでとても刺激的な日々なのは確かだけれどね♪」


 隼人と新しい恋をしたことで、長年夫を失い寂しい日々を送っていた咲奈は本当に変わった。職場でもその変化が囁かれたが、やっぱり近所でも恐ろしいほどに美しく魅惑的な女性だと評判だ。


 そんな彼女は今日もまた愛する娘たちと彼のために母として生きるのだった。





「……?」


 朝、俺は何かが口の中に入る感覚で目を覚ました。


「隼人君……隼人君……っ」

「……っ!?」


 目を開けた俺の目の前に見えたのはドアップの亜利沙だった。亜利沙は目を閉じて一心不乱に俺とキスをしていた。唇に触れるだけのキスではなく、もっと深いキスに夢中な様子だ。


 俺が目を覚ましたことに気づかないようだったが、俺が背中をトントンと叩くと亜利沙はハッとするように俺から顔を離した。


「亜利沙?」

「おはよう隼人君。今日はとてもいい天気ねお日様が眩しいわ♪」

「雪降ってるけど」

「……………」


 可愛らしい笑顔のまま亜利沙が固まった。

 そんな様子の亜利沙に苦笑し、俺はさっきの続きをするわけではないが亜利沙を抱きしめて布団の上に倒れこんだ。そのまま胸元に抱え込むようにして思いっきり抱きしめる。


「あ……ふふ♪」


 流石にこうすると亜利沙もキスを忘れて喜んでくれたみたいだ。

 亜利沙にしても藍那にしても、咲奈さんもだけどこうやって抱きしめるのが俺は好きなのだ。抱き枕を抱きしめているような感覚だが、その人としての体温と柔らかさがあってとても良い。


「おはよう亜利沙」

「おはよう隼人君」

「いきなりキスをしてたのは驚いたけどな」

「ごめんなさい。昨日を思い出してしまって」


 ……あ、そういうことか。

 腕の中に居る亜利沙は照れたように笑っていたが、思い出してしまったのは俺も同じだった。それだけ昨日の記憶はとても強烈であり、それだけ濃厚な時間を過ごしたことの証でもあった。


 ドスケベなサンタ衣装を身に纏った三人がそれぞれ俺の体に触れている時間の方が遥かに多かった気がする。特に咲奈さんは二人に比べて色々と欲が強いのか、最後まで咲奈さんだけは俺との時間を楽しんでいた。


「母さんは本当に凄いわね。私も見習わないと」

「……あれを見習われると俺死んじゃうけど」


 もしも亜利沙と藍那が咲奈さんみたいになったら俺は割とマジで死んでしまうかもしれない。いやそもそも三人を相手する時点で死にそうなんだから勘弁してくれとは贅沢かもしれないけど思ってしまう。


「ふふ、見習うとはいっても母さんの技だから。私と藍那も隼人君に喜んでもらいたくて色々と調べたけど、母さんの方が参考になるもの」

「あぁ……確かに凄いもんな」


 以前に藍那が咲奈さんは床上手なんて話をしていたけど本当に凄い。言葉を濁さないと恥ずかしいのでこんな言い方だが、咲奈さんは少しの反応で相手の弱い部分を瞬時に見極める目を持っているかのようだ。


「母さんはあれで天然なのよね。普段はとても頼れる母さんだけど、好きな人と迎える行為の時だけいつもは眠っている女の顔を見せる……隼人君と恋人になってそんな母さんの顔を知ったけど、娘の私から見ても怖いくらいにエッチだから」

「うん。心から同意する」

「でしょう?」


 咲奈さんはエッチだ。エッチすぎて困る。

 そんなことを話してお互いに笑い合い、しばらく抱き合ってイチャイチャしていると藍那が目を覚ました。寝惚けた状態の藍那だったがすぐに抱き合う俺たちを見て目を見開き、混ぜてと言って抱き着いてきた。


「って寒い寒い!!」


 暖房が利いているとはいえ、雪が降っているくらいなので当然寒い。なので俺たちは三人で抱き合いながら掛け布団を被るのだった。


「……最近さ」

「うん」

「どうしたの?」


 天井を見つめながら呟いた俺に二人が反応した。

 今俺が腕を広げて左右から二人の肩を抱くというどこぞの王様かよって感じのスタイルになってるのだが、この際それはどうでもいい。こうやって二人を抱いていて少し悪戯をしたいと思ってしまうのは……俺が染まっただけなのか、それとも……。


「いや、何でもない」

「そう?」

「ふ~ん……っ!?」


 ジッと見つめてくる亜利沙とは別に藍那が体を震わせた。何をしたのかはとっても簡単なことで、亜利沙には何もしておらず藍那だけ少し胸に手を当てたのだ。そのまま少し指に力を入れるのだが、藍那は嫌がる素振りは見せずそのまま俺の手を受け入れていた。


「隼人君……ぅん……大胆だね♪」


 耳元で囁かれるが亜利沙にバレるので俺は反応しない。こうやってどちらかに気づかれずにエッチな悪戯をしたりとか……ほんと、変わってしまったなって感じがするけどこれもまた彼女たちと付き合っているからこそ出来ることでもあるのかな。


「……あぁ♪」


 手の動きに合わせて嬉しそうな声を出す藍那に、流石に亜利沙も瞬時に気づいたらしくぷくっと不満そうに頬を膨らませた。


「隼人君! なんで私にも悪戯してくれないの!?」

「そこまで怒る!?」

「怒る! だってズルいじゃない! 私も隼人君に悪戯されたいわ!」


 ……っとそんな風に言われたので亜利沙にも悪戯をすることに。

 結局その後、三人で少し汗を掻いてからリビングに向かった。朝から元気ねと咲奈さんが笑っていたが、二人がその言葉に噛みつくのは当然だった。


「母さんに言われたくないわ」

「お母さんに言われたくないね」

「え!?」


 なんで咲奈さんが驚くんですかね。俺は訝しんだ。





【あとがき】


前回の戦の前と、今回の戦の後はどっちがエッチですかね。


自分的にはやっぱり後から思い返したりする感じがエッチだなと思います(笑)

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