聖夜に降り立った三人の女神
「……あぁこうやってみんなで食べるケーキは美味いねぇ」
「隼人君おじいちゃんみたいだよ言い方が」
そう言いたくもなりますとも。
あれから新条家に帰り、クリスマスの締めとして買ったケーキを食べている。イチゴが大量に乗ったショートケーキなのだが、これは正にカロリーの暴力だった。
亜利沙と藍那は美味しそうにパクパクと食べているが、反対に咲奈さんはちょっとお腹周りが気になるのか食べるペースが遅い。咲奈さんは別に太ってはおらず、二人に比べて肉付きは確かに良いがその程度だ。
「大丈夫ですよ咲奈さん。そんなに気にしなくても」
「……そうですか?」
不安そうに見つめられたので俺は頷いた。
あんまり大きな声で言えることではないが、少しぷよぷよしている方が抱きしめた時の感覚としてはとても気持ち良い。もちろん世間一般で言うぽっちゃりではなく、比べる対象が亜利沙と藍那ってだけで咲奈さんは全然痩せているのだ。
「どんな咲奈さんでも綺麗ですから」
「……隼人君♪」
むしろもうちょいお肉が付いても全然……おっと、想像するのはこの辺にしておこうか。
「今年の冬は寒いけど暖かいわね。これも全部隼人君が居てくれるからよ」
「そうだよね。本当に隼人君に出会えて良かった♪」
亜利沙と藍那が俺を見つめながらそう言った。
その言葉に嬉しくてつい下を向いてしまったが、そう思っているのは俺も同じことだった。友人と過ごすかそうでなければ一人で過ごしていた寒い冬、でも今年は傍に彼女たちが居てくれた。
「それを言うなら俺もだよ。亜利沙も藍那も、咲奈さんにも本当に感謝してる。俺と出会ってくれて本当にありがとう」
その言葉に三人は嬉しそうに頷いてくれた。
でも……よくよく考えたら本当に不思議なことになったよな。誰か一人とそういう関係になるならまだしも、同学年の女の子二人とその母親って……本当に俺は前世でどんな徳を積んだんだろうか。
「……ま、普通じゃないけど幸せならいいか」
幸せならオーケーです、つまりはそういうことだ。
三人という大切な人が傍に居るだけでなく、俺が視線を向けた先には彼女たちからもらったプレゼントが並んでいた。
亜利沙からは手袋、藍那からはマフラー、咲奈さんからは少し高めのコートだったけど凄く嬉しかった。俺に気を遣わせないためかあまり高くないものを選んでくれたようで……まあでも、逆に俺の方が色々と考えることになったわけだが。
「でも今年は色々とプレゼントの用意が大変だったかな。女性にプレゼントの経験はなかったから」
亜利沙と藍那には色違いにはなったけど似合うと思った服、咲奈さんには大人ということで少し背伸びをしてネックレスをプレゼントした。まあでも、三人とも本当に喜んでくれたようで俺としても凄く安心した。
そんなこんなで外で美味しい寿司を食べて綺麗な景色を見て、雪が降る幻想的な中でみんなで写真を撮って、そして帰ってきてこれまた美味しいケーキを食べて、その全てを彼女たちと過ごすことが出来たクリスマス……うん、大変満足だ俺は。
「隼人君凄く満足そうな顔してるね♪」
「まあな。今日は本当に良い日だったよ。これから正月とかもあるし、クリスマスが終わってもまた楽しい日が来そうでワクワクしてる」
そう言った俺だったが、何故か三人が意味深に笑っていた。
結局その笑みの理由は分からないままだったが、それから色々と片づけを終えて俺はリビングで時間を潰していた。
「……へぇ、浮気が暴露ってやべえなぁ」
スマホでSNSを漁っているとこの聖夜に芸能人の浮気がすっぱ抜かれていた。かなり人気の俳優だったと思うし、俺には全く関係ないことだけどこの人には強く生きてもらいたいものだ。
「……何か準備するって言ってたけど何なんだろうな」
藍那に待っててと言われてこうしているのだが……っと、そうこうしているとリビングに繋がるドアの前に誰かが立った。
「隼人君、お待たせ。ちょっと目を瞑ってもらえるかな?」
「目を……分かった」
この声は藍那のモノで、俺は言われたとおりに目を閉じた。
ガチャっと音を立てて藍那が傍に近寄り、ゆっくりと俺の手を握って歩き始めた。
「えっと?」
「そのまま目を開けないで私に付いてきて。お母さんの部屋までそのままね」
……何だろう、このまま付いていくととんでもないことになりそうな予感がビシビシと背中に感じるんだが。でも人間怖いもの見たさというものはあって、俺はそのまま藍那に誘われるように咲奈さんの部屋まで連れていかれた。
「お待たせ、まだだよ。まだ目を開けないでね」
「……おう」
扉が閉まり鍵も閉められた。
こうして咲奈さんの部屋に来たのは初めてではない、それどころか何度もあるようなものなのでどこに何があるのかある程度は分かる。
「当然亜利沙と咲奈さんも居るんだよな?」
「いるわよ」
「いますよ」
やっぱり勢ぞろいしているみたいだ。
それにしても咲奈の部屋は相変わらず良い香りが漂っている。そんな場所に全員が勢ぞろいしているからか更に甘い香りを感じてしまう。
咲奈さんの部屋にあるベッドはそれなりに大きく、横になると当然狭くなるがただ上に乗るだけならかなり余裕がある広さをしている。相変わらず藍那に引っ張られるようにベッドの上まで移動し、壁を背中にすることで腰を下ろした。
「はい、どうぞ目を開けて?」
「あぁ……っ!?」
甘い香りに包まれる中、俺は目を開けて……そして驚きのあまり言葉を失うことになった。何故なら当然目の前に現れたのは彼女たち、だけどその姿があまりにも異様すぎたのだ。
さっきまで着ていた私服ではなく、三人ともが露出の激しすぎるサンタ服に身を包んでいた……っていやいや、こんな胸元と下半身しか隠していないものをサンタ服と言っていいのか疑問はあるが。
「びっくりしてるわね」
「ふふ、まだまだ聖夜は終わりませんよ?」
「そうだよ隼人君。最後にもう一つ、私たちのプレゼントを受け取ってほしいな」
そりゃビックリするでしょうよ。
驚き固まる俺を見てクスクスと笑みを浮かべながら、亜利沙が俺の左腕を取り藍那が右上を取った。密着することで更に強くなった甘い香り、そして情欲を誘う至高の柔らかい感触に脳みそがクラクラしてきそうだ。
そして、そんな耐久がギリギリの俺にトドメを刺すように咲奈さんが正面から迫ってきた。
「せっかくのクリスマスですから用意したんです。恥ずかしかったですけど、隼人君に喜んでほしくて♪」
「お母さん、最初は似合わないんじゃないかって不安に思ってたんだよ。でもどうかな隼人君、お母さんすっごくエッチじゃない?」
「……それは……はい。とてもエッチです」
思わず敬語になってしまうほどエッチです。
ちゅっと音を立てて亜利沙が頬にキスをしてこう囁いた。
「もう逃げられないわよ隼人君。今日はもう私たちに溺れないと終わらないわ。それに隼人君も正直だしね?」
……もうね、何度も言うけど頭がクラクラしてるんだよ。
まるで聖夜の夜に三人の美しいサキュバスに魅入られたような……どこかでありそうな物語を体験しているような気分だ。
「何も怖くなんてないよ♪ 私も姉さんもお母さんも、隼人君を愛で包んであげるだからだから」
「そうですよ。ドロドロに溶けて気持ち良くなりましょうね?」
亜利沙と藍那ももちろん振りまく色気が半端ないが、それ以上に下唇をペロッと舐める仕草をした咲奈さんが凄まじかった。
高校二年生のクリスマス、俺は今まで経験したことがない時間を過ごすのだった。
ただ……ちゃんと三人とも俺のことを気遣ってくれていた。
事あるごとに大丈夫かと不安そうに聞いてくれるその姿が、決して自分の欲求を優先しない思い遣りもあって……もう貪りに来る美しい女神にしか思えなかった。
って、それ女神じゃないか……まあなんにしても一生消えない思い出になったことだけは確かだった。
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