全て覚えています。あなたのことは
「ふふ、平日の学校終わりに二人で出掛けるのはやっぱりいいね」
「そうだな。俺としてはみんなが居ても良いんだけど」
「それはそうだけどさ。やっぱり今傍に居るのは私だけだし、私だけを見てほしいなって」
当然分かってるよ。
俺は藍那と手を繋ぎながら街を歩いていた。放課後デート、やっぱりこうやって好きな人と気ままに外を歩くのは気持ちが良い。
今日は藍那に譲ると言って亜利沙は先に帰ったが、咲奈さんも今日は早いらしいので二人で過ごしていることだろう。
「カラオケでも行かない? 思いっきり歌いたい気分なの♪」
「分かった」
思えば藍那とカラオケに行くのは初めてだ。
というかこうやって二人でデートするのも回数としてはそんなにない。やっぱり亜利沙も一緒なのが当たり前だったからだ。
藍那に手を引かれるようにカラオケ店に向かい、二人で小さなボックス部屋に入ることになった。
「この狭さ……なんか興奮するね」
藍那がそういうことを言うから意識してしまうんだよな。
にししと可愛らしく挑発的な笑みを浮かべたが、ここに来たのはあくまで歌うためなのでデンモクを手に曲を選んでいく。
「隼人君はこの曲知ってる?」
「二人組のやつだっけ? 聞いたことはちょっとあるよ」
「それじゃあデュエットしよっか。ね?」
「全然分からないけど……よしやろう!」
カラオケに来ることは初めてではないので緊張はそこまでだが、やっぱり傍に彼女が居るとかっこいい声で歌いたいだとか、裏返ったりしたらどうしようかって不安が先行してしまう。
それでも、藍那が終始楽しそうにしてくれるものだから俺も音痴だろうが関係ないという気持ちで歌うことが出来た。
「藍那もアニソンとか歌うんだな」
「うん。でもその歌を知っててもアニメ自体は知らないってことが多いけどね」
「よくあるやつだな。よし、俺ももっと歌うぞ!」
「うんうん! 楽しもうね!」
学校終わりということでそこまでの時間は取れない。なので一時間ほど藍那とずっと歌い続けていた。藍那は本当に歌が上手で、聞いていてとても耳が心地よかった。
「姉さんは……こう言ったら何だけど歌下手なんだよね」
「そうなの?」
「うん。凄いよ本当に。だから姉さんはカラオケには来たがらないんだ」
「へぇ」
亜利沙に欠点らしき欠点はないと思っていたけど、そうか歌があまり得意ではないんだな。それなら俺の前で披露してくれることはなさそうだけど、いつか機会があれば悪気はないけど是非聞いてみたい気もする。
カラオケ店から出たら後は帰るだけ、でももう少しゆっくりしようということで露店でアイスを買うことにした。
「いただきます」
「いただきます♪」
俺がチョコ、藍那がバニラのアイスクリームを買った。
二人で隣り合いベンチに座って食べていると、俺のチョコアイスを藍那が見つめていた。
「いる?」
「いいの?」
「いいよ」
全然いいよ、そう思って藍那の方に向けるとこんなことを言われてしまった。
「口移しがいいなぁ?」
「……………」
それは……どうしよう。
別にキスをすることと同じなのでいいんだけど、流石に外ということもあって二の足を踏んでしまう。俺は辺りをキョロキョロと見渡し、あまり目が向いていないことを確かめてアイスを口に含んだ。
「えへへ、ありがと♪」
アイスをくれることもそうだし、その要求に応えてくれたことへのお礼だった。
頬を少し赤く染めた藍那が顔を近づけキスをしてきた。そのまま舌を入れてチョコレートを舐めとる藍那の姿……どんな風に見えるんだろう。
「ぅん……ぺろ……おいひぃ」
このくすぐったさがクセになりそうだと思う辺り俺も大概だよな。
顔を離した藍那は満足した笑みで美味しかったと言い、バニラの方もどうかなと聞かれたが流石に遠慮した。だってめっちゃ見られてるし。
「きっとあんなかっこいい彼氏を持って羨ましいって思われるんだよ♪」
「いやいや、あんな綺麗な彼女が居て羨ましいって思われてるんだって」
俺のことはともかく、藍那が美人だから目を集めるのは確かだろうな。集まる視線を感じながら、俺は藍那の肩に腕を回して抱き寄せる。
「……えへへ、なんでこれだけでこんなに嬉しいのかな?」
「分からん。でも……ほんとこれだけなのに幸せだな」
しっかし……今こうして抱き着いてくる藍那はとても可愛い。だが反対にさっきの口移しの時は表情も仕草も全てが扇情的だった。綺麗さ、可憐さ、エロさを極限までに溶かしてバランス良く同居させた奇跡の集合体……ってそれは亜利沙も咲奈さんも同じか。
「よし、それじゃあ帰るか」
「うん。早く帰らないと二人に嫉妬されちゃう」
そうして立ち上がり少し歩いたその時だった。
「あの! すみません!」
背後から可愛らしい女の子の声が聞こえた。
どこか聞き覚えがあるような……そう思って振り向くと、そこに居たのは一人の女の子だった。そう、数日前に俺がお面を被って助けたあの子だった。
「え? 俺?」
「はい! あなたです!」
……あの時お面は外してないし、少し話をしただけで離れたんだけどもしかして俺だって分かったのか? 確かに制服は一緒だけどそれだけだし……って待てよ、なんだかデジャブを感じるのは気のせいか?
「知り合いなの?」
目を丸くした藍那に俺は首を振った。
まだただの人違いの可能性もあるし、何なら全く別のことかもしれない。
「えっと……何か用なのかな?」
「はい! あの時はありがとうございました。あの時は私動けなくて……」
……はい、どうやら完全に気付かれているみたいだ。
まだ状況を飲み込めていない藍那にお面を被ってこの子を助けたことを伝えた。すると隼人君らしいねと笑われたがどういうことなんだろう。
「この子……私と似てるね」
「え?」
似てるってどういう……。
見た目は全く似てないけど、確かにある意味一つの部分は似てるかもしれない。俺はそうじゃないだろと頭を振って改めて話しかけた。
「でもよく分かったな? お面を被ってたし、あまり話もしてないのに」
そう言うと女の子は顔を上げた。
そしてどこか興奮冷めやらぬ様子で言葉を続けるのだった。
「私、あれからずっとあなたに会えるのを待ってたんです。もしかしたら会えるかもしれない、そう思ってずっと最近はここで見ていました」
「……そうなんだ」
え、ちょっと怖いんだけど。
「それでようやくあなたを見つけました。お面から少し見えていた瞳、後ろから見た背中、肩幅も息遣いも喋り方も声質も全部覚えてましたからすぐに分かりました」
「……………」
キラキラした瞳だけど言ってること凄いぞこの子!
女の子は俺を見つめ、その大きく実った胸元に手を添えるように呟いた。
「……あぁ、心臓がとてもドキドキしてます。また会えて嬉しいです」
紅潮した頬と少しばかり潤んだ瞳に見つめられた。
そんな女の子の様子を隣に居た藍那は楽しそうに見つめ、そしてこんな提案をするのだった。
「ちょっとそこのお店で話でもしよっか。どう?」
その問いかけに女の子は頷き、俺も仕方ないかと諦めて頷くのだった。
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