やっぱりあったぞこのテンプレが
「やあ、ちょっといいかい?」
「ちょっと来いよ」
それはある休み時間のことだった。
軽くトイレを済ませて教室に戻ろうとした際に声を掛けられたのだ。誰かと思って振り向いたら……思いっきり覚えがある顔だった。
二人とも同学年であり、それぞれ亜利沙と藍那に告白をした男子だった。
「堂本君……」
「先行っててくれ」
「……分かった」
俺は偶然トイレで一緒になったクラスメイトにそう声を掛けた。何となくこの二人の用は分かるし、逆にやっとかって感じだった。足早に歩いて行ったクラスメイトを見送り、俺は二人に付いていく。
「次の授業もあるし早くしてくれるとありがたいんだが」
「分かってる」
そうして連れていかれたのは人通りが少ない階段の踊り場だった。
昼休みとかならここでもある程度人の通りがあるものの、やはり授業合間の休憩時間ともあって人の通りは少ない。
「それで? 何の用だ?」
ぶっちゃけるとめんどくさかった。俺の声音からそれを感じ取ったのか、二人は僅かに眉を吊り上げた……たぶん生意気な陰キャにでも見えたんだろう。二人は俺に何の用があるのか、それは思った通りのことだった。
「簡潔に言うよ。君は新条さんに何をしたんだ?」
「弱みでも握ってるんじゃないのか?」
「……はぁ」
やっぱり思った通りのことだった。
溜息を吐いた俺だが、彼女たちのことに関して明確なことは伝えなくとも言えることはちゃんと言うつもりだ。
「何もしてないよ。俺と彼女たちは本当に仲が良いから傍に居るだけだ」
「嘘を言うなよ。新条さんたちは今まで誰か特定の男と一緒に居ることはなかったんだよ。それなのにいきなりお前が現れておかしいと思わないわけないだろうが」
……頭ごなしにそんなことを言われてもな。
これ、俺が何を言ってもこの二人は納得しないだろう。二人から見る俺は完全に彼女たちに近づく悪い虫に見えてるだろうし、俺が何を言っても認めないって顔をしている時点で平行線だろう。
「君に言いたいことは一つだけだ。彼女たちを困らせるのはやめてくれ」
……流石にイラっとくるな。
「困らせているつもりはない。少なくとも、彼女たちが大変な目に遭った翌日に空気を読まずに告白したり、断られたのに諦め悪く縋るような迷惑を掛けてないしな」
「なん……だと!?」
藍那に告白をした男子が掴みかかってきたが、俺はその手を逆に掴んだ。
「俺は真剣に彼女たちと向き合ってる。それは今までも、そしてこれからもそれは変わらない」
俺は絶対に彼女たちを手放さない。
俺もそうだし亜利沙も、藍那も咲奈さんも俺のことを想ってくれている。それなのに周りに何か言われて距離を取るようなアホなことは絶対にしない。それで傷つくのは俺だけじゃない、三人も同様だからだ。
「離せよクソッタレが」
「離してもいいけど話はお終いでいいよな?」
「いやダメだ。君が新条さんたちから離れると約束するまで――」
こいつ……っ!
ついつい握っている手に力が入ろうとしたその時だった。俺たち以外の声が響き渡ったのは。
「そんな約束する必要ないよね」
「えぇ。どうしてあなたたちにそんなことを言われなければいけないの?」
「……あ」
「新条さん……」
現れたのは亜利沙と藍那だった。
後ろに友人たちも二人控えており、どうやらあのクラスメイトが知らせてくれたのかもしれない。階段をゆっくり降りてきた二人は俺の傍で立ち止まった。そして亜利沙が俺の手を取った。
「手を離して大丈夫。ありがとう隼人君……さっきの言葉ちょっと聞こえてたわ。凄く嬉しかった」
「うんうん! しきゅ……こほん、キュンとしたよ凄く!」
俺を見つめ二人は笑顔でそう言った。
突然の二人に登場に相手二人は唖然としていたが、すぐに亜利沙と藍那に対してそれぞれが口を開いた。
「新条さん、俺たちはただ――」
「こいつから救おうと――」
その瞬間、亜利沙は少し表情を変化させただけだが藍那は大きな舌打ちをした。だがすぐに深呼吸をして気持ちを落ち着け、ゆっくりと振り返った。
「君たちが何を言っているのか理解に苦しむよ。私と姉さんは心から隼人君の傍に居ることを望んでるの。私たちを救う? 寝言もいい加減にして」
「あ、藍那さん……」
「名前を呼ばないで」
キッと視線を鋭くした藍那に片方の男子は委縮したように肩を震わせた。藍那の強い言い方に驚いたのは俺もだが、それは亜利沙も同じだったらしい。
「私たちのことに口を出さないでちょうだい。迷惑よ」
「俺はただ……」
「いい加減にして。私、あなたのこと嫌いだわ」
「っ……」
ついに二人とも下を向いてしまった。
これで話は終わり……かな? ふと後ろにチラッと視線を向けると、友人二人も亜利沙と藍那の迫力にビビっているみたいだった。
……まあ確かに、俺もちょっと怖かったけど。
初めて見た二人が怒った瞬間だが、俺も何かやって二人を怒らせないようにと強く誓った瞬間でもあった。
「ほら帰りましょう」
「いこ、隼人君」
「あぁ」
二人に手を引かれ歩こうとした時、まだ男子二人は言いたいことがあったのか口を開こうとした……けれど。
「ちゅっ」
「ぅん……っ」
亜利沙と藍那がそれぞれ俺の頬にキスをするのだった。
今の行動に驚いたのは俺もだが、俺なんかよりも更に衝撃を受けたのは男子二人だったらしい。
「な……なにを……」
「お、おい……なにして……」
それっきり、俺たちは彼らの前から立ち去るのだった。
まさかあの場面で頬とはいえキスをされるとは思わず、俺もかなり驚いていたが二人は笑顔だった。
「見せつけてやったね姉さん」
「えぇ。教室でもジロジロ見られて不愉快だったからいい薬になったんじゃないかしら?」
二人に想いを寄せる彼らからすれば薬は薬でも劇薬な気がするけれど。
まあでも、俺もちょっとあの二人に対していい気味だと思ってしまう辺り結構イラついていたのかもしれない。
俺は決して二人を困らせるつもりはないし、迷惑を掛けるつもりもない。
色々あって……色々なことを考えて答えを出したのだ。その俺たちの関係についてあることないこと言われるのはやっぱり鬱陶しかった。
「二人が怒るとあんな風になるんだな……」
「……隼人を揶揄うこととかやめたほうがいいか?」
「揶揄う?」
「あら、それは何の話?」
「ひぃっ!?」
「お助けえええ!!」
ササッと教室に走っていった二人に亜利沙と藍那はクスクスと笑っていた。
「さて、俺たちも急がないと。それじゃあ昼休みに」
「えぇ。行くわよ藍那」
「うん……っとその前に。隼人君!」
「え……っ!?」
目の前に来た藍那が背伸びをして俺の唇にキスをした。
驚く俺を見つめながら、藍那はニカッと笑みを浮かべて離れるのだった。こうなると当然、亜利沙も対抗心をむき出しにするように近づいてくるがそれを止めたのが藍那だった。
「ほら姉さん、急がないと授業に遅れるよぉ? キスはまたの機会にね?」
「ず、ズルいわよ藍那! 隼人君……隼人君~~~~~!!」
「あ、あはは……」
どうやら藍那の方が亜利沙より一枚も二枚も上手なんだろう。
藍那に引っ張って連れていかれる亜利沙に苦笑し、俺もクラスに戻るのだった。
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