噂はどこまで本当なのか
最近、噂の美人姉妹が更に美しくなったと学校では評判だった。
ただでさえ美しいのは周知のことだが、ある時期を境に更にその美貌に磨きが掛かったようだと囁かれるようになった。
「……やっぱり美人だよな二人とも」
そしてここにも、そんな二人に淡い想いを抱く男子が居た。
彼は彼女たちに比べて一つ後輩になり、残念なことに同じ学年でもないので話をしたことも一度もない。出来ればお近づきになりたい、そんな誰でも抱くような気持ちを彼は抱いていた。
「……あ」
そんな中、彼の前を彼女たちが……亜利沙と藍那が歩いていた。
二人仲良く歩いているその姿に多くの生徒たちが目を向け、話しかけようとしては断念するように足を止める。多くの視線を集める魅力、男を誘うフェロモンを撒き散らしていてもそれ以上の何かが近づくことを拒ませるのだ。
「本当に綺麗だ……それに、雰囲気が凄く……」
エッチだ、とは言わなかった。
今学校内で囁かれている噂の一つに彼氏が出来たのではないか、そんなものがまことしやかに噂されている。二人の雰囲気が変わったことの理由の一つがやはり、男の存在があるのではないかと言われているのだ。
「……まさかそんな……全然聞かないしな」
噂なだけであり真相は誰にも分からない。
だからこそ多くの男子が彼女たちの心を射止められる幻想を抱く。伸ばした手を引っ込めて諦めるその先に行けた者が彼女たちに告白し玉砕していく。告白された回数は数知れず、だがそのどれにも頷いたと話を聞かない。
それとなく景色に同化するように彼は二人を眺め続けていた。
すると、そんな二人に近づく男子生徒の姿があった。美しすぎる二人に比べてその顔立ちは平凡であり、全く釣り合うことはないと彼は鼻で笑った。
「あ~あ、近づくのやめた方が良いと思うけどな」
身の程を知れよ先輩、そんな風に思っていた彼にとって衝撃的な光景が広がった。
「……え?」
なんと、あの男子と彼女たちが仲良く話をしているのだ。
決して見たことがないほどの笑顔で、彼女たちは本当に嬉しそうに男子と話をしていた。ただの世間話、同じ学年なら話をするくらい普通か……そう思っていると藍那が男子の手に自身の手を伸ばす。
「はっ?」
藍那は愛想が良く笑顔の多い美少女として知られている。けれどもあまり男子と進んで話をする姿は少なく、ましてやあんな風に男と手を繋ぐ姿すら今まで見たことはなかった。
「なんだよあいつ……」
小さな嫉妬心が心の中で芽吹く。
更にムカついたのが、あの男子は決して恥ずかしがることはなく困ったように藍那の手を受け入れているのだ。亜利沙はそれを微笑ましく見つめ、藍那は嬉しそうに手を握りながら話し続けている。
「……そう言えばもう一つ噂があったっけ」
それは亜利沙と藍那が一人の男子生徒と共に登下校をしているという話だ。
ただそれは随分前から見られた光景で最近では特に珍しいものでもない、だがそうなってくるとまさかあの男子がどちらかの彼氏なのではないかと考えてしまう。
「いやでも……嘘だろ?」
自分の方がイケメンだし人間として優れている、そんな誰も求めない見栄を彼は心の中で張った。あの手を繋ぐ男子よりも俺の方が、そんなことを彼は考えながらやり取りを見つめていた。
ただ見るだけで何も行動できない自分の弱さに気付かずにずっと。
「えへへ、隼人君を捕まえたぁ♪」
昼休み、今日は友人たちと昼食を済ませた。相変わらず色とりどりの弁当に彼らが羨ましそうにしていたが、確かに美味しかった。いや、美味しいという感想以外思い付かないのがもはや当然だった。
「捕まっちゃったな」
「うんうん。姉さんはいいの?」
「するに決まってるでしょ?」
さっと手が伸びて空いていた手を握られた。
別に会う予定を立てていたわけではないが、二人を見て俺が今回は話しかけようと思って近づいたのだ。前までは変な目で見られていたものの、やはりある程度時間が過ぎると普通になるらしい。
「?」
ただ、一人凄い驚いた顔でこっちを見ている生徒が居るけど……あれは後輩か?
まあ別に気にする必要はないか。昼休みが終わるまでもう少しだけど、俺たちは残った時間を一緒に過ごすことにするのだった。
「そろそろクリスマスだけど……何を用意しようかなぁ」
「そうね。う~ん……ねえ隼人君」
「なんだ?」
ニコッと笑った亜利沙がこんなことを口にした。
「プレゼントは私たちよ、なんて言って体にリボンを巻き付けて現れたら嬉しい?」
それは嬉しいでしょうよ、流石に変態かなとは思ったがそんなことは言ってられない。というか、もう俺にとって彼女たちは掛け替えのない存在なのだ。ならそういうことを考えても別に罰は当たらない……よな?
俺は頷いた。
「あはは、いいねえそれ。でもそれだと聖夜が性夜になっちゃうよ」
「……良いと思ったのだけど。だって隼人君とエッチなことが出来るってそれはもう最高のプレゼントだし」
「それはそうだけどさ。流石にもう特別感はないじゃん?」
「……確かにそうね」
この会話が何を意味するのか、俺は黙秘権を行使させてもらう。
だけどプレゼントか……何か形に残るモノを用意した気持ちはある。亜利沙と藍那だけでなく、咲奈さんもどんなモノが嬉しいんだろうか。
「……プレゼントかぁ」
「隼人君?」
「どうしたの?」
改めてプレゼントと考えると……もういいかなとも思えてきた。
何故か、だって俺の手元にはもう掛け替えのない存在が居てくれるからだ。これ以上を何を望む? それこそ神様に怒られるだろ。
「しばらく欲しいモノはないかな。亜利沙と藍那、咲奈さんにもらい続けてるから」
「……そっか」
「ふふ、嬉しいわねそう言ってくれるのは」
二人が徐々に顔を近づけようとして、途中でハッとするように顔を離した。すると藍那が何かに耐えるように低い声を出す。
「早く帰りたい早く帰りたい早く帰りたい早く帰りたい! 早く帰って隼人君とイチャイチャしたい!!」
藍那の様子に俺と亜利沙は揃って苦笑した。
こうして一緒になることは増えたが、流石に学校の敷地内でキスなどと言ったことは隠れた場所でないとすることはない。亜利沙はある程度自制が効くものの、藍那の場合はタガが外れると本当に危ないことになる。
『私、隼人君と子作りしたいよぉ……』
切なそうな声で、とにかく藍那は俺との子供を望んでくる。学生の身で流石に子供を作るつもりはないのだが、藍那の甘すぎる求めに踏ん張って耐える試練がいつも俺に降りかかってくる。
甘い……甘い日々だ本当に。
家でも学校でも、彼女たちが傍に居ることでどこにでも幸せが溢れている。
今日は帰って何をしようか、どんなことをして過ごそうか、寂しくはないからこそそれを最近はずっと考え続けている。
というか、近々祖父母の元にみんなで行く予定を立てているけどなんて紹介すればいいんだろうか。……う~ん、最近の悩みの種は正にこれだった。
「あ、そろそろ戻らないと」
藍那の言葉に俺たちはサッと立ち上がった。
ただ、その教室に戻る途中でジッと俺たちを見ていた後輩が話しかけてきたのだ。
「あ、あの!」
彼は俺を見ていたが、すぐに二人に視線を向けた。また告白とかそういうのか、そう思っていた俺だが亜利沙と藍那は全く目を向けることはなかった。
「ごめんね~」
「ごめんなさい」
それだけ言って二人は俺の手を引いていく。
少し不憫には思ったけれど、諦めてくれという意味も込めて俺は二人の手を強く握るのだった。
「……えへへ♪」
「ふふ♪」
そうして強く握り返されたことに、俺たちは三人揃って笑みを浮かべるのだった。
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