その後の日々、溶かされる日常

甘すぎる日々にコーヒーを所望

 数週間後にクリスマスを控え大分寒い時期になった。

 まだ雪は降ってないが温度は低く、朝起きた時などはすぐにベッドから出たくないほどには寒かった。


「……さむっ」


 そして今日も寒い朝の目覚めだった。

 時計を見ると普段起きる時間よりもまだ早い、なので二度寝でもしようかと俺は改めて布団を被るのだった。


 すると、パタパタとスリッパで歩く音が扉の向こうから聞こえた。


「隼人君、起きていますか?」

「……………」


 もう家に居ることが普通とも言えるようになった彼女たちの存在、これは咲奈さんの声だ。その声に応えないといけないのに、まだやっぱり眠たくて動きたくない。寒くなるとこれだから困ってしまう。


「隼人君、入りますからね」


 ガチャッと扉が開いて咲奈さんが入ってきたようだ。

 寒さから逃げるように布団に包まる俺を見てクスッと笑った様子の咲奈さんはゆっくりと傍に近寄ってきた。


「もう朝ですよ? 寒いですけど起きてください」


 優しく甘い声、大人の魅力をたっぷりと兼ね備えた咲奈さんに起こされるというのは本当に贅沢だ。でも時折見せる亜利沙や藍那に似た表情も可愛くて、その時はつい彼女たちのお母さんであることを忘れるてしまうこともある。


「……………」


 ちょっとだけ寝たフリをしてみようかと思い俺は起きなかった……すると。


「隼人君が寝ているのなら、少し悪戯をしましょうか」


 楽しそうに声を弾ませ、咲奈さんは俺の足元の方へ移動したようだ。そうして俺の布団を少しはぐるようにして体を入れてきた。僅かな隙間から入ってきた冷たい風に体が震えたものの、それを我慢するように俺は声を出さない……というかこれ、完全に咲奈さんのスイッチが入っている気がするのだが。


「……はぁ。この香り……男の子の匂い……隼人君の匂い♪」


 気付かれないように布団から頭を出した。俺の視線の先にはちょうど下半身を覆う布団の部分が盛り上がっている。間違いなくそこに咲奈さんの顔があるわけで、大事な部分の匂いをスンスンと嗅いでいるようだ。


「今日も気持ちの良い目覚めをさせてあげますね♪」

「起きてま~す!!」

「きゃっ!?」


 咲奈さんから発せられた甘すぎる誘惑を秘めた言葉に俺は飛び起きた。ガバッと掛け布団を退かすと、俺の腰の位置に顔を近づける咲奈さんの顔があった。目が合った俺を見て嬉しそうに笑ったが、次いで視線を再び腰の位置に向けて残念そうに溜息を吐いた。


「残念です。もう少しだったのに」

「……いや、流石に起きますから」


 ちなみに一度だけ経験があったのだが、あの時は凄かった……その、俺マジで異世界転生して寝起きをサキュバスに襲われたと思ったほどだ。

 フェロモンを垂れ流す美女の誘惑を跳ねのけ、俺はようやくベッドから出た。


「隼人君」

「はい……っ」


 名前を呼ばれ振り向いた瞬間、頬にキスをされた。


「さあ降りましょうか。二人も待っていますよ」

「あ、はい……」


 部屋から出て行った咲奈さんを見送り、俺はキスをされた頬に手を当てた。

 寒さは残っている……けれども頬はやっぱり熱を持っていた。彼女たちと知り合ってから二カ月になるかならないかくらいだが、本当に俺の日常の中に彼女たちの存在は大きくなった。いや、そんなものではないか。


「本当に甘々な生活だよな……これ、クラスの男子に知られたら殺されそう」


 割とシャレにならない考えに背筋が寒くなりそうだ。


「っと、そういや待たせてるんだった」


 咲奈さんを追うように俺は急いでリビングに向かった。

 美味しそうな朝食の匂いと共に温かな空気が俺を出迎える。そして、テーブルに座っている三人の姿に俺は頬を緩ませた。


「おはよう隼人君」

「遅かったね? もしかしてお母さん?」

「ふふ、惜しかったですね隼人君♪」

「あ、あはは……」


 咲奈さんだけでなく、亜利沙と藍那も既に席に座っていた。

 今までは誰か一人が家に来てくれることが多かったけど、最近はこうして四人が揃うことが多くなった。むしろそっちの方が普通と思えるくらいで、誰か欠けているのが珍しいくらいか。


「おはよう亜利沙、藍那」


 こうして俺の一日は彼女たちと出会うことから始まる。

 それはあの日の出来事が齎した未来ではあるけれど、俺は今の彼女たちが居る日常に掛け替えのない愛おしさを感じていた。





「あぁ寒いねえ!」

「冬だもの。隼人君、体調の方はどうかしら?」


 新しい日々の光景として、こうやって二人と登校するのも当たり前だった。

 少し前までは時間をズラすようにして登校していたがそれももう必要ないとして一緒に行くことになったのだ。


 ……ただ二人と登校するのはいいのだが、周りをすれ違っていく会社員の男性方からの視線が痛いのなんの……その理由は言わずもがなだが。


「温かいね」

「そうね」


 両サイドから二人に腕を取られているからだ。

 顔立ちが似ている二人、髪の色と僅かに藍那の方が胸が大きいことを除けば色々なモノが似通っている。だからこそ、こうして二人がほぼ同じ体勢で俺に抱き着いていると結構不思議な光景だ。


 まあそう感じるのは俺くらいで、周りから見れば二人の超絶美少女に抱き着かれている碌でもない男にでも見られてるのかな。


「ねえ隼人君」

「なんだ?」


 藍那に呼ばれて視線を向けると、チュっと音を立てて唇にキスをされた。


「好き」


 ……っ。

 あれ、今夏だっけ。そう思わせるくらいに急激に頬が熱くなった。悪戯っぽく笑っている藍那に見惚れていると、今度はクイっと亜利沙に引っ張られた。


「……隼人君」


 ただ、亜利沙の方は藍那のようにキスをしてくることはなかった。ただ顔を近づけようとはしても踏み止まり、物欲しそうに見つめてくるだけだった。


「亜利沙」

「あ……ちゅ……ふふ♪」


 亜利沙は藍那のように積極的ではない。まあ比べる相手が藍那なだけで十分亜利沙自身も積極的だが、こういった時は俺から行動をすることが多かった。


「隼人君も結構慣れてきたよね」

「慣れる以外ないんじゃないか? 常に誰かが傍に居てくれるから……本当に温かくてさ」


 手を伸ばせば誰かが居てくれる、その安心たるや凄まじかった。

 こう……何て言うのかな? 懐が寂しい時にぬいぐるみとかを抱き寄せる癖がある人は分かるかもしれないけど、そんな風に誰かを抱きしめられるのは幸せだ。


「ふふ、私たちはぬいぐるみなの?」

「いいじゃない。隼人君に抱きしめられるだけで私たちは嬉しいんだから」


 どうやら口に出ていたらしく俺はやっちまったなと恥ずかしくなった。

 それから学校に向かう途中まで腕を抱かれ、そこからは体を離して学校に向かうのだった。


「むぅ、この短い距離がもどかしいよぉ!」

「本当よね。催眠術でも使えたら世の中を洗脳してやりたいわ」

「姉さんちょっと怖い……でも、そうすると学校でもエッチとか出来るのかな」

「やりたい放題ね!」

「素敵!」

「二人ともちょっと声を抑えません!?」


 取り敢えず色々と関係が進展した今だが敢えて言わせてほしい。

 この美人家族が本当にエッチすぎる。ただエッチなだけじゃなくて優しくて可愛くて、とにかく愛おしくて……もう毎日同じことを思っている。


「……寂しくない」


 そう、もう寂しくはなかった。

 これからどんな日々が待ち受けているのかは分からないが、甘い日々が待ち受けていることだけは分かる。というか本当に耐えないとダメになりそう。必死に崖っぷちで耐える俺を亜利沙が、藍那が、咲奈さんが全力全開で堕とそうとしてくる。


 もう堕ちてる? いや俺もそう思ったんだけど全然勢いが変わらないのだ。


 これ、贅沢な悩みかな?




【あとがき】


続きとなるとこんな感じです。

なのでのんびりと書かせていただきます。どうかお付き合い下されば幸いです。

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