どこまでも溶ける、甘い愛の中で
学校のない休日のことだ。
天気が良く青空ではあるものの、冬が近いこともあって風が吹けば少し冷たい。そんな休日に俺と新条家の彼女たちは揃って出かけていた。
「ここがそうだよ」
亜利沙、藍那、咲奈さんを案内した場所は数多くあるうち一つのお墓だった。父さんと母さん、二人が眠っている場所だ。
以前藍那が二人に会いたいと言ってくれたことがあり、それならばと亜利沙と咲奈さんも挨拶がしたいということでこうして時間を作ってここに来たというわけだ。
「ここに隼人君のお父さんとお母さんが眠ってるんだね」
「あぁ」
ここには咲奈さんの運転する車で向かったけれど、車の中で亜利沙と藍那が恥ずかしくなるほどに俺への好意を口にしていた。寒さが吹き飛んでしまうほどに照れさせられたが、まあ嫌な時間でなかったのは確かだ。
そんな風に和やかな空気をずっと醸し出していたが、墓の前ということもあって二人は静かに二人が眠る場所を見つめていた。
「綺麗にされてるんですね。お花も新しいですけれど……」
「……あぁ」
咲奈さんが言ったように墓は綺麗に掃除されている。毎年祖父ちゃんと祖母ちゃんと一緒に掃除していたのもあるけれど……この新しい花はたぶん、祖父ちゃんたちではないはずだ。
「たぶん父方の家族だと思う」
いくら勘当同然の扱いだとしても、あちらの家族からすれば息子が亡くなったのだから当然か。
「……昔に会ってからもう会ってないのよね?」
「そうだな。父さんの両親もそうだし、父さんにも弟さんが居るみたいだけどそっちとは一度も顔を合わせたことはないかな」
本当に父さんの家のことに関しては知らないことが多い。父さんの家に関して俺との間にここまで溝が空いている事実、それが彼らからの嫌われっぷりを表しているんだろうなぁ。
「それじゃあお参りをしましょう。亜利沙、藍那も」
「うん」
「分かったわ」
線香に火を付けて墓前に置く。
手を合わせてお参りをしてくれた彼女たちに感謝をしつつ、俺は改めて二人が眠る墓に目を向けた。
「……久しぶりだな。ってそこまでじゃないか。元気にしてた?」
父さんと母さんは二人で幸せに天国で暮らしてるのかな? それなら息子としては凄く嬉しいよ。父さんが先に亡くなってから母さんはとても悲しんでいた。その後を追うように母さんが亡くなって俺は悲しかったけど、二人が天国で幸せにしているのならいいかなとも思ったんだ。
「……っ……くそっ」
でも、でもやっぱり寂しかった。
家に帰っても誰も居ない、声を掛けても返事はなくて……ずっとずっと寂しかったんだ。もう慣れたつもりではいたけど、やっぱりここに来ると涙が出てきてしまって幼い子供の様に泣いてしまいそうになる。
何とか涙を流さないように踏ん張り、俺は立ち上がった。
すると、合わせていた手を下ろしてまず藍那が口を開いた。
「初めまして、新条藍那です。まだ十七年しか生きていない小娘が何を言ってるんだって思われるかもしれないですが言わせてください。私は隼人君が大好きです。これからもずっと傍に居ますから寂しい気持ちはさせません。だから安心してください」
藍那に続くように亜利沙も口を開く。
「新条亜利沙です。藍那が言いたいことをほとんど言ってくれたので私も簡単に言わせていただきます。これから先、私は隼人君を支えていきます。決して一人ではないんだと、頼れる人は傍に居るんだって少しでも安心してもらうために。ですからどうか安心してくださいね」
藍那、亜利沙と来れば最後を締めるのは咲奈さんだった。
「新条咲奈です。二人の後ですから私も簡潔に。隼人君のこと、どうか任せてください。本当のお母さんになれなくても、彼の寂しい心を埋めてみせますから」
それはまるで三人がそれぞれ宣言してるようにも見えた。
俺にとってはもう十分すぎるくらいに三人から愛を受け取っている。こういう場所に来ると少しセンチメンタルな気分になってしまうが、それでも彼女たちと知り合い親しくなってからは本当に毎日が愛おしくて楽しいんだ。
俺は最後にもう一度墓に近づいた。
「……はは、こんな感じだけど俺は大丈夫だから。大好きな人が出来て、本当に幸せだから」
だから安心してくれ、その言葉を最後に俺たちは墓に背を向けるのだった。
これで今日の墓参りは終わったけど正月になったらまた来ることになりそうだ。その時は祖父ちゃんたちも居るだろうし、その時はちょっと騒がしい墓参りになるのかもしれない。
「それじゃあ帰りましょうか。今日は何かご馳走を作りますね♪」
「本当ですか?」
「手伝うわ母さん」
「姉さんが手伝うなら私は隼人君とイチャイチャするぅ!!」
「うおっ!?」
ぴょんと跳ねて背中に抱き着いて来た藍那を何とか支える。
ズルいと言って藍那を引き離そうとする亜利沙、そんな二人を見て微笑ましそうにしながらも、少しだけ羨ましそうに見つめる咲奈さんが印象的だった。
父さんと母さんを思い出した墓参り、その日の夜はある意味強く記憶に刻まれることになった。
咲奈さんが言ったように豪華な夕飯をご馳走になった。夜の時間帯に新条家に居るということはこちらに泊まるということで……俺は今回咲奈さんの部屋に向かった。
すると、なんと三人が勢揃いしていた。
「……えっと?」
亜利沙と藍那、咲奈さんという人間離れした美貌を持った三人がパジャマ姿で俺を迎えたのだ。ベッドではなく敷布団を敷いているのは一体……それにそこに三人が居るというのはつまりそういうことなのか?
「ふふ、偶にはこういうのもいいんじゃないかな?」
「そうね。思えば私たちが揃って隼人君と寝ることはなかったし」
確かにそうだけど……咲奈さんの部屋に入るのは初めてじゃない。何なら彼女と眠るのも当然初めてではない。今まで何度か入ったことはあるけど、なんというか今この部屋に充満する女性の香りが強烈に伝わってくるようだった。
強烈とは言っても決して変な匂いではなく、とても甘く脳を痺れさせるような香りだった。
「ほら隼人君、諦めていらっしゃい~♪」
「ちょっと藍那――」
動きを止めていた俺の腕を引っ張るように藍那が中央に連れて行く。そしてトンと背中を押され、気を抜いていた俺は簡単に彼女たちの元に腰を下ろすことになった。
「捕まえました♪」
背中から咲奈さんが抱きしめてきた。
ちょうど首の後ろに咲奈さんの胸が来るような位置で、彼女が口にしたように逃がさないと言わんばかりに腕が回された。
「咲奈さん……って!?」
咲奈さんに捕まった俺に亜利沙と藍那もそれぞれ抱き着いて来た。
ありとあらゆる方向から三人に抱き着かれ、とんでもなく柔らかい三人の感触が俺を襲ってくる。しかも意図しているのか、三人とも胸を押し付けてくるようで急激に理性が削がれていくようだった。
「あまり固くならないでいいわよ隼人君」
亜利沙さん、それは無理な話なのでは……。
「隼人君、楽にして良いんだよ?」
……楽にしたらもう食われる気がするんですがそれは。
「隼人君、食後のデザートをどうぞ召し上がってくださいね♪」
……取り敢えず一言よろしいか。
もう既に溶かされているとは思うけど、この家族の中に居たら本当にダメにされてしまいそうな気がする。ダメ男製造機と言うつもりはないが、本当にこうやって毎日愛情表現をされてしまっては洒落で済まなくなるぞマジで。
「……あの三人とも?」
「なに?」
「どうしたの?」
「なんですか?」
まるでリアルASMRのように耳元で囁かれ、背中がゾクゾクした。
三人の美女、それこそ獲物を決して逃がさない蜘蛛が擬人化したような彼女たちを前に俺はこう言うのだった。
「……逃げるのは……ダメ?」
そんな俺の問いかけに三人はとても綺麗な笑みを浮かべ、絶対にダメと口にするのだった。
甘い罠に捕らわれ、逃げることも許されない底なし沼……でも、そこに自ら飛び込んだのが俺なのは間違いない。
「隼人君、敢えて言わせてもらうね」
「そうね。これはもう決意表明だわ」
「そうですね。ね、隼人君」
『絶対に逃がさないから』
少しだけ怖く、けれども甘いその罠に……俺は捕らわれ続けることを望んだ。
それが彼女たちの優しさと温もりに浸りたいと思ったからこそ、今に幸せを感じたからこその選択だったのだ。
【あとがき】
っと、いうことで一旦の区切りとなりました!!
続きとなるとこれ完全に甘々ハーレム生活になってしまうのでどうかなとは思いますが、ちょっと色々と考えてみます。
改めまして、ここまで続くことが出来たのはみなさんのおかげです。
星での評価、応援コメントなど本当にありがとうございます!
もしここまで読んでいただいた方で面白かったと思ってくださった方は是非評価などをお願いできればなと思います!
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