久しぶりだな諸君、カボチャのジャックだ

「……冷静になって考えてみると色々と凄いことになってしまったな」


 翌日のことだ。

 ベッドから起き上がった俺の視線の先には亜利沙と藍那が眠っている。二人ともとても幸せそうな寝顔をしており、そんな顔を見れるだけで俺は嬉しかった。


『隼人君、私たちがご奉仕してあげる』

『やっとだぁ……やっと隼人君と繋がれる!』


「……ええい思い出すな!」


 昨日あの後に起きたことを思い出すと頬が熱くなる。

 それもそのはずでそういうことをしたからだ。まさか人生における初体験が二人を相手することになるなんて絶対に過去の俺は思わないだろう。


「……もう、後戻りはできない……いや、するつもりもない」


 俺はもう彼女たちを受け入れ、そして受け入れてもらった。

 彼女たちの温もりに溺れ生きていくことを決めたのだ。まあ溺れるとは言っても頼り切りになるわけじゃない。ただ想われるよりも想い、俺自身も彼女たちを支えていくことを誓ったのだ。


「むにゃ……えへへ……隼人君ぅん」

「……隼人……さま……ぁ」


 彼女たちの夢の中には俺が出ているのだろうか、一体どんな夢を見ているのか気にはなるけれどそれを知る術はない。


「……本当に昨日は凄かったなぁ」


 ……ってだから思い出すなっての。

 頬が熱くなる感覚と共に、下半身にも熱が集まってくる。思い出すな、忘れろって思ったけどそれは到底無理な話だった。だって亜利沙も藍那も積極的で、藍那に至っては本気で子供が欲しいと懇願していたくらいだから。


「……?」


 そんな風に眠る彼女たちを眺めながら考え事をしていると、棚に飾られたカボチャ頭が目に入った。相変わらずニヤニヤと笑っているように見えるのは気のせいだと思いたい。


「お前はずっと笑ってて気が楽そうだな」


 手に取ってそう言ってみるが当然答えは帰ってこない。

 ある意味心を落ち着けるためだとして、俺はあの時以来にこいつを被るのだった。


「……ふぅ」


 視界が狭くなり息がくぐもる。だが不思議と安心した。やっぱりこうしていると何故か気持ちが落ち着いてくるのだ。立ち上がって鏡を見ると、そこに映るのは美しい容姿の美女二人を見つめるカボチャ頭の男……これは完全に通報案件だった。


「取り敢えず暖房を入れておいてっと」


 朝は冷えるからな。

 俺はリモコンを手に暖房のスイッチを入れてからリビングに向かった。するとちょっとだけ予想外だった光景が広がっていた。


「え?」

「あら、おはようございます……え?」


 お互いに目を丸くして固まってしまった。

 リビングで朝食の用意をしていた咲奈さんと鉢合わせた。今までは基本的に誰か一人が来るというのが普通だったので、亜利沙と藍那の二人が居る以上ここで咲奈さんと会うとは思わなかったから驚いたのだ。


「……あぁこれですか?」

「はい……その、どうしましたか?」


 そりゃいきなり俺とはいえカボチャを被ってたらそうなるよ。

 一旦手を止めた咲奈さんと一緒にソファに座り、俺は昨日のことを話した。流石に二人と行為をしたことは隠し、想いを伝え合い、そして一日経って急激に気恥ずかしさが出てきて落ち着くためにこいつを被ったことを口にした。


「そうだったんですね。ふふ、可愛いです♪」


 可愛い……のか? そうか可愛いのか。

 まあそれはともかくとして、やっぱり咲奈さんは二人とのことに何も文句のようなものは言わなかった。それどころか歓迎している様子で俺は安心したのだ。


「……あの」


 そうなってくると、俺が思い出すのは二人の言葉だった。


『母さんも淡い想いを抱いてるわ』

『うん。お母さんも隼人君のことが大好きなんだよ』


 大好き……か。

 俺は咲奈さんをどう思っているんだろうか。二人の母親として、全てを包み込むような温もりを持つ彼女に好意は持っている。でもそれは……たぶん恋情のようなものではない。ただ傍に居てほしい、子が母に求めるそれのような気がする。


「隼人君、私は隼人君が大好きですよ? 一人の男性として、一人の子として、私はあなたを包み込む支えで在りたいのです」


 それは一人の女として、一人の母として、一人の支える者として、そんな存在でありたいと咲奈さんは言った。

 咲奈さんが手を伸ばし俺が被るカボチャを取った。暖房の効いているリビングとはいえ残った僅かに冷たい空気が頬を擦る。だが俺はすぐにとてつもなく柔らかく暖かい胸元に導かれた。


「隼人君、安心しますか?」

「……はい。とても」


 本当に安心する。

 だから俺は隠すことなくそう伝えた。


「ならもっと安心してください。いつでも甘えたくなったら言ってください。私が何でもしてあげますから。精一杯のご奉仕で隼人君を溶かしてあげます。だから二人だけでなく私にも溺れてくださいね?」


 耳元で囁かれ背筋がゾクッとした。

 亜利沙とも藍那とも違う強烈な甘い香りが鼻孔をくすぐりその奥の脳を溶かしてくるようだ。昨日の一件があったせいか、俺は素直にこの温もりに甘えたかった。

 彼女の背中に腕を回すように抱き着くと、咲奈さんは嬉しそうにクスッと笑った。


「隼人君、色々と戸惑うことはあると思います。ですが何も気にすることはありませんから、これからもいつものように過ごしてください。そこに私たちが加わるだけの些細なことです」

「それは……些細なことなんですかね?」


 どう考えても些細なことではない気がするのだが……。

 そんな風に咲奈さんに抱きしめられながら話をしていると、藍那がリビングに降りてきた。


「あ、ここに居たんだね隼人君……ってお母さんもおはよう」

「おはよう藍那」


 藍那だけ? 亜利沙はまだ寝てるのかな。


「姉さん凄く幸せそうに寝ちゃっててさ。あれはたぶんしばらく寝たままじゃないかなぁ……ってカボチャ様!?」


 咲奈さんにおっぱいサンドイッチされている俺の隣に藍那が座ったのだが、やっぱりテーブルに置かれたカボチャを見て驚きを露わにしていた。藍那が来たことで咲奈さんは朝食の準備に改めて取り掛かることになり、ようやく至高の弾力から俺は解放されるのだった。


 頬から離れたその感触を残念に思うあたり結構染まってしまっている気がしないでもないが……そう苦笑して藍那に目を向けると彼女はカボチャに祈りを捧げていた。


「何してるの?」

「いやぁ……これを見るとあの時を思い出して思わず頭を下げちゃうの」

「……そうなんだ」


 心なしかカボチャが崇め奉れと言っているような感じがする。

 取り敢えずテーブルに置いておくと邪魔なのでカボチャは隅に置いておく。すると昨日の続きというわけではないが、藍那が腕を抱くようにして抱き着いてくるのだった。


「昨日のは夢じゃなかったんだね……好きだよ隼人君」

「……俺もだよ藍那」

「っ……ねえ隼人君……私子供が欲しいよぉ」


 マズい、そういう台詞が出てくると昨日を思い出す。

 でも流石に藍那も今のは冗談みたいなものだったのか、頬を赤くして目を潤ませ体をモジモジとさせながら言ってみただけだよと俺を安心させてくれた……安心したということにしておく。


「隼人君、私たちの愛は重いかな?」

「……う~ん」


 確かに重たいとは思うけど、俺は素直に嬉しいと感じているからなぁ。俺の様子を見て安心したのか、藍那はホッとしたように息を吐いた。


「隼人君が気にしてないならいいの。あのね、愛が重たいとはいっても別に隼人君を束縛したりはしないから安心してね? もちろん離れられないくらい私たちに溺れてもらうつもりだけど、決して隼人君に酷いことはしないから」

「そっか……はは、俺は本当に優しい人たちに想われてるなぁ」

「そうだよ。これからもっと浸ってよ……逃がさないから♪」


 この愛の中から逃げられるものなら逃げてみろ、そんな挑発にも似た目を向けられたが参ったなと俺は手を上げた。


 間違いなく、俺の生活はこれから一変していく……そう確信できた。





「ねえねえ隼人君」

「なに?」

「お母さん物凄い床上手らしいんだよね。ある意味私たちにも遺伝してると思うんだよなぁ」

「っ!?」


 つい飲んでいた飲み物を吐き出すところだった。

 でも……昨日を思い出して納得できたのは俺だけの秘密だ。




【あとがき】


ヤンデレって人によっては色々な解釈があると思いますが、自分が思うヤンデレってとにかく特定の相手を愛し慈しむという考えです。重い愛は決して相手を傷つけるのではなく、相手をズブズブに溶かし尽くすものを念頭に書いていました。


なのであなたを殺して私も死ぬ!とかはありません(笑)

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