006 勇者ってどいつもこいつも脳筋

「魔王様! 勇者が来ました!」


 またか……。

 最近勇者を名乗る奴がしょっちゅう来る。


「で? 今回の勇者は?」


「筋肉ムキムキのいかにも強そうな、見掛け倒しです」


 また男か……まあ、現実はそうだよな。

 女勇者なんている訳ないか……。


「一応、俺を訪ねて来た客だからな……会おう」


 俺はそう言って玉座の間に転移する。


 遠くから剣戟の音がする。

 といっても部下からすればチャンバラごっこでしかない。

 一応幹部には、勇者は漏らさず俺に通せと言ってある。

 だから適当に戦ってもらって、負けたフリしてもらってる。

 なんでそんな事するかって?

 だって、魔王暇なんだもん!


「はぁはぁ、ついに辿り着いた」


 扉の前で声がする。


「僧侶回復を頼む」


 フフフ……魔王の部屋の扉の前で回復とか呑気だよな勇者たちって。

 毎回このパターンだから、今回は玉座から魔法を封じてやった。

 勇者たちはメッチャ焦ってた。

 こっちの皆はメッチャ笑ってた。


 で、一応入ってきたんだけど、戦う前からすでに死んだ目してた。

 爆笑したら、女僧侶が泣きだした。

 今度はこっちがメッチャ焦ったわ。

 流石に罪悪感を感じたから、転移で近くの町に飛ばしてあげた。

 これ以降、回復の邪魔はしないことにしたよ。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 別の日にまた勇者がやって来た。


「お前が魔王だな!」


 馬鹿だよなー勇者って。

 扉開けた瞬間に全力攻撃かませばいいのに、いっつも聞いてくる。

 正義って辛いよね……。


 前に、扉開けた瞬間にギリギリ死なない程度の魔法ぶつけてみたことがある。

 勇者たちはめっちゃビックリしてた。

 皆で大爆笑した。


 っていうか、警戒くらいしとけよ。

 魔王が正々堂々とか、普通ありえないよ?

 そんな良い奴なら、友好関係簡単に築けるっしょ?


 俺も最初の頃は勇者様御一行を歓迎しようとしたんだけどなぁ。

 何故かこいつら怒り出すんだよなぁ。


 あ、やばいやばい、ボーっとしてたら勇者が喚き始めたわ。


「おいっ、無視すんなっ! お前が魔王かって聞いてるんだ!」


 この勇者も脳筋みたいだな……。

 ってことで、筋肉奪ったらどんな顔するかな?


「リバウンド」


 これ、筋肉を脂肪に変える魔法ね?

 今作った!

 本日のビックリドッキリチートマジック!


「なんだ急に体が重く……」


「勇者お前!」


 戦士が驚いてる。


「おいっ、エリー! 鏡を見せて差し上げろ!」


 俺がエリーに言うと、エリーが姿見を作り出す。

 鏡に映った自分を見て、唖然とする勇者。

 てか、デブすぎ……どんだけ筋肉付けてたんだよ。


「フッフッフ、そのような肥え太った姿で戦えるのか?」


 勇者がガタガタと震え始める。


「俺の……俺の正義が……」


 お前の正義って筋肉かよ!

 はあ、思ったより面白くなかった……。

 まあいいや、サヨナラー。


「なっ……体が……」


「俺も……」


「何この光……」


 ただの転移魔法だよ……。

 そんなことも分からないのか……。


 そして、勇者一行が光の中に消えていった。 


 そういえば、勇者を転移させてる町の人間ってどんな気分なんだろうな。

 希望の町って名前だったっけ?

 勇者が魔王城に来る前に寄る場所だけど。


 最近は心の折れた勇者が送り返される場所として有名かも。

 もしかして絶望の町とか呼ばれてたりして……。

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