005 その日、味方が2人増えた

 食事を終え、場所を謁見の間に移す。

 改めて、チビコの話を聞くためだ。


「それで、チビコはお父さんの形見が欲しいんだったな……」


 こうして親を失った幼子を前にすると途方もない罪悪感に襲われる。


 魔人になってから生き物の命を奪うこと自体にどうこう思う事は減った。

 だが、人の感情の機微を読み取って同情することはできる。

 まあ、元が人間だからそこまで非情にはなれないってことかな?


「うん……いや、はい! できれば骨が良いのですが……身に着けていた物でも

構いません。私に探させてください!」


「どうしても遺品が欲しいか?」


「ママが前に進めない……って毎日泣いてるの。ママを助けたい!」


 ええ子やぁ……本当にええ子やなチビコちゃんは。

 よし、おいちゃんがその想い叶えたるでー!


「そいつは無理だな! 骨も残さず魔王様に燃やされてしまったモー!」


「えっ? ふぇっ?」


 ちょっ、牛!

 なんで今それ言っちゃうの?


 バカー!

 お前マジでバカー!

 部下の豚と同レベルだよ!


「すごい魔法だったな……とてつもない炎の魔法で一瞬の内に蒸発してしまった」


「びぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 おいトカゲ!

 お前マジふざけんな!

 どうすんだよ……って手遅れだよ!


「お前ら黙ってろ!」


 俺が2匹を睨むと、真っ青な顔をして震え始める。

 若干魔力込めてるからな。


「ふぇぇぇ、ごほっ! ごほっ! げひゅっ! ひゅっ! ひゅはー!」


 やべぇ、チビコがショックの余り過呼吸や!


「おい、エリー袋持ってこい! チビコの口に袋当てろ!」


 エリーが慌てて紙袋を持ってきてチビコの口に当てる。

 徐々にチビコの呼吸の音が落ち着いてくる。


「あぁ……えっとチビコ落ち着け……お前の父上の魂は俺の中にある」


 いや、お前の父親は俺の中で生きてる的なカッコいい奴じゃないよ?

 現実的に魂を俺が持ってるって意味ね。

 俺に殺された人間は、生贄と同じ扱いなのよ。

 だから俺の中で予備のエネルギーとして蓄えられるんだよね。


「だから、お前が本当に父を思うのであれば蘇らせることができる」


 今日のビックリドッキリチートマジック!

 その名もハイリザレクション!


 えっ、蘇生って聖属性じゃねえの?

 魔族は聖属性使えないって?

 誰がそんなこと決めたの?

 某有名ゲーム……竜の冒険シリーズでは魔物だって蘇生呪文使えるぜ?


「本当?」


 まあ、体が無いから魔力で1から作るんだけどね。

 チビコの記憶を頼りに体を構成してそこに魂と記憶を放り込むだけです。


「ああ、本当だとも! チビコちゃんの思いが強ければ、パパは生き返るよ」


「分かった! チビコ頑張る!」


 チビコは涙を拭う。

 強い子だ……。


 俺はチビコの頭に手を置いて、チビコの魂と繋がりのある魂を見つけ出す。

 あれ……3つもあるぞ?

 まあ、叔父さんとかかな?


 一番繋がりが強い魂を選び、そっと取り出す。


「よし、あとはお父さんの姿をできるだけ鮮明にイメージするんだ」


「鮮明?」


「はっきりとって意味だよ」


 俺がそう言うと、チビコは頷いて目をぎゅっと瞑って強く父親をイメージする。


「ふむ、これがチビコの父親か……」


 俺はチビコのイメージを読み取って、そのイメージ通りに父親の身体を作る。


「よし体はできたな。あとは魂をここに移して、結合すれば……」


 俺の掌から青白い火の玉が現れる。

 火の玉はたったいま作ったばかりの身体に吸い込まれていく。


「成功だ!」


「この童貞インポ野郎!」


 お前かああああ!


 次の瞬間、俺は蘇った男の頭を弾き飛ばしていた。


「ふぇっ?」


「えぇぇ……」


「うわぁ……」


「いくら魔王様でも、これは軽蔑します……」


 ちょっ……ちょっと待って。

 これは違うんだよ……。


「びぇぇぇぇ! パパを生き返らせて目の前で殺すとか魔王すぎるよおおおお!」


「チビコちゃん、こっちにおいで。あっ、魔王様は近付かないでください!」


 エリー……その目やめてくれるかな?


「魔王様が、魔王様たる所以を見た……」


「魔王とは常に非情でなければならぬのか。ならば吾輩は魔王にはなれんな」


 牛もトカゲもやめて……。


「あー、えっとほらパパだよ?」


 俺は死体の頭を復活させて、再度取り込まれた魂を器に戻す。


 今度はサイレントの魔法をかけて。


「おいっ、お前の娘が来てるからな……余計なこと言うなよ!」


 それから、耳元で覇気を当てながら囁く。

 男が高速で頷く。


 とりあえず大丈夫かな?

 サイレントを解除するとそっと男の背中を押す。

 男が走って娘の方に駆け寄る。


「チビコ、どうしてこんな危ない所に!」


 男がチビコを叱りつける。


 まあ、まさかこんな小さな子が魔王城なんかに来るとは思わんわな。


「だって……パパは魔王に殺されちゃったから」


「えっ? だって俺生きてる……」


 娘の言葉に男が困惑する。


「それは魔王様が蘇らせたのだモー」


 モー太が若干怯えた様子で男に教える。


「魔王が蘇らせたというのか? ということは俺はアンデッドに……」


「安心しろ、完全な状態で生き返らせてある。」


 俺が安心させるように言うと、男が自分の身体をペタペタと触る。

 やたら顔を触る。

 とにかく顔を触る。


「どうした? 何か違うのか?」


 俺が男に尋ねると、男が鏡を見せてくれと言い出した。

 手鏡を魔法で創造して渡す。


「誰だこれ? どっかで見た気が……」


「ママがね、いつもこの顔の絵を見せてくれるの! でね、これが本当のパパの姿なのよって教えてくれたの……」


 男がすごく微妙な顔をしてる。

 どういうことだろうか……?


「これ今流行ってる流れの演劇一座の花形の顔です……」


 おいおいお母さん?

 あんた娘になに言っちゃってんの?

 子供は純粋だからすぐに信じちゃうのよ?


「俺……この顔で生きてくの?」


 男はすごく微妙な顔をしている。

 こんな事実知りたくないだろう……。


「あー、お前自分の顔をイメージしてみろ」


「えっ? あっ、はい」


 男が目を瞑ってイメージを始める。


 俺はそのイメージを読み取り、さらに記憶も読み取って忠実に顔を作り変える。


「あっ、パパだ!」


 チビコが嬉しそうに父親に抱き着く。


「そうですこの顔です……あれっ? もっと鼻が高かったような。あれっ?」


 この短時間でゲシュタルト崩壊させんな!

 それが紛れもないお前の顔だよ!


「ああ、それがお前の顔だ! 2~3日もすれば慣れるさ……それと」


 俺がそう言って男の頭を見つめる。

 男が俺から目を反らしながら頭を押さえる。


「本物を生やしておいた……これは頑張ったチビコちゃんへのご褒美だ」


「えっ?」


 俺が男の耳元で呟くと男が心底驚いた表情をする。

 男は自分の髪の毛を引っ張り始める。


「っていうかお前、口と足臭いな……」


「えっ?」


 これはチビコちゃんのイメージ通りのままか……。


「うん、パパの臭いだ! いつも帰ってくると足が臭いの! それと口も!」


「ちょっ、足の臭いは1日中靴を履いてるせいだから。……口も臭いの?」


「うん! パパがチューしてくれるの嬉しいけど……ちょっとイヤ」


 こっ、これは酷い……。

 父親って辛い……。

 思春期に、パパの下着と一緒に洗わないでって言われるパターンや!


「ファブリーズ」


 俺はたったいま、持てる魔法の知識を使って消臭魔法を作り出した。

 チート万歳!


「あれ? パパすごく良い匂いがする!」


 男がこっちを見つめてくる。

 俺はそっと人差し指を口に当てた。


 男の父親としての尊厳が守られたところで俺は2人を転移で送った。

 男とチビコは仲良く国に帰っていった。

 めでたしめでたし。

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