003 魔王被害者遺児が健気

「魔王様、子供が迷い込んだようです」


 深夜だというのに、慌てた様子でエリーが部屋に入ってきた。


「ふぁぁ……種族はなんだ?」


 ついさっき寝入ったばかりで頭がうまく働かねーよ。

 種族によっては子供でもキモいのいるからなー。

 いや、子供に罪は無いけど……。


「人間の子供です!」


「なんだとっ!」


 俺は慌てて飛び起きると部屋の外に出る。

 廊下に出たら、警備が軒並みアンデッドだった。

 ゴースト、レイス、ソンビ、ミイラに、ソンビドッグを連れた奴もいる。


 ちなみに扉の横にいたのはスカルナイトだった。

 扉開けて横見たら骸骨とか、どこのホラーだよ!

 目が合った瞬間に思わず悲鳴あげちゃったよ!

 あっ、彼に目は無かったけどね!


「すぐに着替えて向かう!」


 俺は部屋に戻ると黒いマントを手に取って……投げ捨てた!

 こんなん着て子供に会えるかボケっ!


 ということで、魔法で服を作り出す。

 本当に魔力無双チートやな……。


 今日の魔王コーディネート!

 水玉のズボンに白いシャツ!

 星柄のマント!

 頭には某ネズミ王国の主人公の耳!


 着替え完了!

 レッツラゴー!


「さあ、行こうか?」


 俺はエリーにそう言った。


 何その目?

 文句あんの?

 思いっきり子供に媚びてますが何か?


「まっ……また、今日は一段とオシャレ……ですね?」


 なんで疑問形?

 っていうか、目を見て言おうか?

 照れてるわけじゃないよね?

 イタイ子とか思わないで……エリーに嫌われたら魔王のハート傷付いちゃう!


「うむ、子供はやっぱり第一印象が大事だからな」


 俺はそう言うとエリーを連れて応接室へと向かう。

 廊下ですれ違う部下たちの視線が痛いぜ!


「あれ……魔王様だよな?」


「ちげーよ! きっとピエロでも雇ったんじゃねーの?」


「だよね……あれが魔王様なら俺この仕事やめるわ……」


 妙に人間臭いこと言うのね……アンデッドだから元は人間なのか?


 しかしあまりにも周りの視線や、ひそひそ話が冷ややかで辛い……。

 なので指をパチンとならして、エリーと一緒に応接室前に転移しました!


「きゃっ! 転移されるなら、先に言ってくださいよ! もうっ!」


 エリーちゃんのふくれっ面頂きました!

 怒ってほっぺた膨らます女の子なんて今時いるのな。

 いや、ここの時代設定分かんないから今時とかないか。


「お待たせ……ってうわぁ!」


 俺がノックして中に入ると、目の前にアルファブラッドがいた。


 こえーよ!


 お前、顔が接客向きじゃねーんだから、来客対応とかしてんじゃねーぞ!


 ちなみにアルファブラッドにはスッピンと名付けた。

 本人はこれはまた強そうな名前だと喜んでた。

 スッピンっていう意味は伝わっていないらしい。


「きゃあああああ!」


 俺の顔を見るなり、小さな女の子が泣きながらスッピンにしがみ付く。

 ……どうしてなの?


「大丈夫だから……こちらが魔王様だよ! 見た目は怖いかもしれないけど、

とても寛大な心をお持ちな方だから安心して」


 てめえが言うなよおおおお!

 スッピンミイラより怖いとかヤメテ!

 スッピンが女の子の背中を優しく叩いて落ち着かせる。

 少し落ち着いたかなと思ったら、女の子はスッピンの背中に隠れる。


 もうやめて!

 魔王のライフはゼロよ!


「ほら……そんな恰好してたら、普通子供は怯えますよ」


 えっ、エリー……それ先に言ってくれないかな?


 っていうかこのマントとか……耳とか……子供受け抜群じゃないの?

 世界観の違い?


「ところで、貴女お名前は?」


 エリーが、しゃがみ込んで子供の目線に合わせて話しかける。

 手には飴を持っている。

 主と違って、有能な側近だぜ!


「チビコ……」


 親御さん……。

 そりゃ生まれた時は小さいかもしれないけど、子供はすぐ大きくなるよ?

 もっとちゃんとした、名前考えたげて!


「チビコちゃんね。良い名前ねー」


 嘘つけエリー!

 白々しいにも程があるぞ!


 チビコもまんざらじゃない顔しないで……。

 ああ、俺の価値観が音を立てて崩れてく。

 俺……この世界でやっていけるのかしら?

 誰か……教えて……。


「うんっ、パパが付けてくれたの!」


 良い笑顔ね。

 なんか、どうでも良くなってきた。


「そう、それでパパかママはどこにいるのかな?」


 エリーがチビコちゃんに優しく問いかける。

 今度は手にオレンジジュースを持っている……。

 ちょっと、それ俺1回も飲んだことないんだけど?

 俺、普段は美女の生き血やら龍の血とか飲まされてるんだけど?

 オレンジジュースとかあったのね……辛い……。


「パパ……死んじゃった……。魔王に殺されたの……お祭りで……」


 はい、お約束ですね……。


「あらあら、それは辛かったわねぇ……。じゃあ、そんな所にチビコちゃんは

なんで来たのかな? もしかして復讐かな?」


 エリー、グイグイ攻めるな……。


「あのね……パパの形見を探しに来たの。もしあったら、欲しいの」


 そのために、こんな森の奥深い魔王領まで来たのか……ええ子やー。

 よく見たら体中擦り傷だらけだし、あまり食べてないのかやつれてる感ある。

 魑魅魍魎が徘徊する魔王領をよく無事に通り抜けたもんだ。


 おいちゃん、涙出てきたよ……。


 スッピンなんて号泣してるよ!

 っていうか、その目から出てる水分は体のどこに蓄えられてたのかな?

 魔族って……本当に不思議。


「とりあえず、その子に食事と部屋を与えよ! 明日改めて詳しい話を聞こう」


 こんな憔悴しきった状態で、このまま話を続けるのも酷だからね。

 疎外感とか、眠気が理由じゃないよ。

 彼女のためだよ。


「かしこまりました……それでは、軽食と部屋を与えましょう」


 エリーは部屋の外にいる見張りのレイスに何やら告げる。

 食事と部屋の手配だろう。

 人間のご飯作れる奴、うちに居るのかな?

 まあ、オレンジジュースが出るくらいだし大丈夫か。

 ……俺もそれ飲みたいなぁ。


「今日は疲れてるでしょうから、明日詳しく話を聞くわよ。一人で寝れる?」


「うん……でも本当は怖いから……眠るまでスッピンさんと一緒……ダメ?」


 そんな上目遣いでお願いされたら断れませんよ!

 てか、そこでなんでスッピンなのかな!

 そこは普通エリーやろ!

 この世界の子供の感性が分からない……。


「私で宜しければ、今日は警備は部下に任せて彼女に付いてあげようかと」


 おまわりさんコイツです!


「スッピンなら、女の子同士だし安心ね」


 ええええ!?

 スッピンってメスなの!?

 アルファブラッドって名前だから、男だと思ってた……。


 この世界感に付いていけなくて辛い……。

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