第31話 ~対~

僕は野良だ


好きにだらける

好きに毛繕う


僕は今日も

川原で寝っ転がって

キラキラした水面を眺め

草むらの虫を追いかける


気が済んだらカフェに行って

お水やミルクを出してもらう


はぁ~、良いお天気だなぁ

のどかな一日で良き良き


住宅街の方に行って

ゴミ置き場から空き地へ


変な石やお花を見つけて

ゴロゴロと戯れる

塀に登ってダランとして

そんな時だった


空き地のとなりの空き家で

ヘルメットをした数人が

書類みたいなのをチェックしながら

話をしていたのが見えた


人間は働いてて

ほんとに偉いなぁ~


…ん? あれ?

あの姿は!


数人の中に一人

見た事のある姿があった


わーーーい!

メガネスーツさんだー!


僕は思わず近寄って

数人に向かってひと鳴きした


「おや? こんな所で」

「まさかお会い出来るとは」


書類から目を離して

メガネスーツさんは

こっちを向いて

ニコニコとした


お仕事頑張ってるねー!


にゃあにゃあ鳴く僕の頭を

メガネスーツさんは撫でた

急に現れた僕に

周りの数人はクスクスと笑った


それまで緊張してた人間達は

緩んだ雰囲気になって

そろそろ、なんて言いながら

散り散りになっていった


「話が長くなっていた所です」

「ありがとうございますね」


いえいえ、どういたしましてー!

こんな所で会えるとはねー!


僕がたくさん話しかけると

メガネスーツさんは

時計をチラリと見て

周りを見渡した


「少し時間が余っていますね」

「どこかで休憩しますか」


少しだけ休む気になったのかな?


僕は思いついて

メガネスーツさんの足元を

グルグルと回った


それならカフェに来なよ!

大きい人が飲み物を

出してくれるよー!


カフェの方に歩き出して

案内するみたいたに振り向くと

察してくれたのか

メガネスーツさんは付いてきた


ポテポテと歩く僕と

その後を行くメガネスーツさん


なんだか面白いなぁ

そう思いながら

カフェに到着した


僕が窓に飛び乗ると

メガネスーツさんは

キチンと入口から入った


大きい人がいらっしゃいませと

穏やかに声をかけて

メガネスーツさんを

席に案内した


大きい人ー!

僕が来たよー!

この人になにか

飲み物を出してよー!


僕がにゃあにゃあと鳴くと

大きい人はお水を出してきて

僕の前に差し出した


いや、僕じゃなくてね…

メガネスーツさんにね…

まあいいや、いただきます~


僕がお水を飲み出すと

大きい人はメガネスーツさんに

メニュー表を出していた


カフェオレを頼んだ

メガネスーツさんは

店内を見回して

大きい人に話しかけた


「ほう、この黒猫さんは」

「ここの猫さんなのですか?」


大きい人は振り向いて

メガネスーツさんに答える


「いや、ここが気に入ったのか」

「何かあると立ち寄るようです」


メガネスーツさんは何故か

いつものニコニコとは少し違う

邪悪な笑顔になってきていた


「へえ、飼っているわけではない?」

「確かに黒猫さんは野良のようですが」

「面倒をみられているわけでは?」


大きい人がカフェオレを置きながら

メガネスーツさんに答えた


「まあ… 面倒をみてると言うか」

「勝手に懐いてくるんで」


メガネスーツさんは

スっと目を細めた


「ほう、懐いて勝手に来るとは…」

「随分と無責任ですねぇ」


大きい人は横目で

メガネスーツさんを見た


「無責任、ですか」

「こいつは野良でこそ輝く」

「それを助けてるだけで」

「そういう貴方は?」


メガネスーツさんは

更に邪悪に笑っている


「まあ、以前に駅前で何度か」

「おやつを差し上げたくらいですね」

「危ない狩りをなさってたので」

「それを止めさせて頂きました」


大きい人は後ろを向いて

メガネスーツさんに話しかける


「貴方はこいつを」

「飼いたいのか?」


メガネスーツさんは

やれやれとカフェオレを飲んだ


「野良の方が素敵に見えますから」

「しかし体調管理などは」

「親しくする人間がみるべきかなと」

「それができればとは思います」


大きい人は後ろを向いて

洗い物をし始めた


「あんたも俺と似たようなもんだ」

「俺もそうしたいのはやまやまだが」

「あいつは生粋の野良だ」

「嫌がることはしたくない」


カフェオレをすする

メガネスーツさんは

川原を眺めながら

独り言みたいに呟く


「それは分かっていますが」

「なんとなく、ね」

「貴方には言われたくないなと」

「思ってしまいましたね」


そうして目を合わせた

大きい人とメガネスーツさんは

なんとなくその目線に

火花が散ってるようだ


んー?なになにー?

ケンカしてんのー?

だめだよー?

仲良くしなきゃだよー?

人間はすーぐ喧嘩するー!

面白いけどダメだよ~!


お水を飲みながら

僕がにゃあにゃあと言うと

二人がこっちを向いて

ふっと笑った


「まあ、こいつはこいつだな」


「自由にやっているようですけどね」


僕は黒猫だ


影で暴れ回っても

見ている人間には

バレてしまうみたい


それでも見守ってもらえると

ありがたいけどさ


バチバチしてる二人は

なんか面白いなぁ

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