第11話 ~独~

僕は野良だ


好きに鳴く

好きに走る


いつものように手土産を持って

主様のおうちに行った


ガラス窓の下から

鳴いてご挨拶

窓は開かない


あれ?居ないのかな?


窓に飛び乗って

中を見てみた

主様は居たけど

先客がいた


知らない人だ

誰だろう


僕は飛び降りた

その音で気づいた主様が

窓を開けてくれた


「お、来たのか」

「今は構えない」

「居るだけならいいよ」


中に入って

僕は主様の足元で丸くなった

眠ろう そう思った


目をつぶって聞こえる

主様の声


明るい

楽しそう

弾んでる


僕は聞いたことがない

主様の声


ああ、その人は

手土産なんかなくても

主様が幸せになれる

大事な人なんだね


僕は立ち上がって

外へ出ようとした

邪魔になると思ったから


「あれ、もう行くのか?」

「早いな、どうした?」


僕はその声を無視して

外へ出ていった


こんな時 猫は便利だね

言葉が通じないフリができる


僕は


主様の楽しそうな声

聞いた事がないよ

主様の嬉しそうな声

出させられないよ


猫の分際で 人間の主様が大好き

それだけでいいなんて

そんなわけが無いよね


僕は 主様にとって

意味の無いものを

狩ることしか出来ない

ただの野良猫だ


ああ、僕には価値がない


助けて助けて

茶トラ クロ

太陽 豪快


ねえ!誰か!


無理だ


僕は自ら野良なんだ

手を差し伸べる人はいない


主様が僕を助けたのは

ただの気まぐれ

目の前で死なれたら

気分が悪いから


僕は強い

僕は弱い


帰る場所

安心出来る場所

喜んでくれる人


それが主様であって欲しかった


違うんだ

主様は僕を見てない

だって僕は

人間じゃないから


僕は黒猫だ


早く


影になりたい

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