『俺の正義 EQUALIZER』

N(えぬ)

1話完結

S星に地球人と似た形態の人類が住み、往来が可能な距離にF星があった。2星間の交流は平和的に行われていた。そしてそれぞれの星の科学的進歩は地球に比べると少し先を行っている位の状況だった時代の話。



 S星警察のチキラ警部を乗せた車は3人の男を追っていた。1人は目つきの鋭い中年の男、後の2人は若い男。

 追われている3人の男が乗った車は人気ひとけの無い廃倉庫街へと入っていく。つかず離れず尾行していくチキラ警部は助手席で、運転の相棒イマセ刑事にせせら笑う。

「どうして犯罪者は、こういう人気ひとけの無い所へアジトを構えるのかね?こんな場所に似つかわしくない、黒塗りの高級車で。……もしかして、我々を誘っているのか?」

「そうですねえ。なにかこう、犯罪の途中でも自分たちの威厳を誇示してるとかですか。裏の世界に生きる犯罪組織という看板を背負う限り、妙な余裕を見せるっていうんでしょうか」

 廃倉庫の一角に車を止めた犯罪組織の3人は、倉庫のシャッターを開けて車を乗り入れ、またシャッターを閉めた。

「警部、どうしますか?」イマセ刑事が警部に聞いた。

「車同様、所持する武器も高級そうだから、そこは用心しなくちゃな。応援を呼んでから入ろう。それまでは近づいて中を監視。おまえ、建物の後ろ側へ行け。前は俺が出る」

 刑事達は倉庫の中の様子をうかがいながら連絡を取り合い、応援が来るのを待った。冬の夜が迫っていて、熱源がない倉庫街は一層寒々とする。人のざわめきもない。刑事達が中の様子を伺うと、倉庫の中にはコンテナが数個あり、どうも中に人間の男女が睡眠ポッドに入れて閉じ込められているようだった。それを垣間見て警部は、『人身売買か……F星人め』と胸の中で思った。F星では、F星人と若干異なる見た目を持ったS星人が男でも女でも高く売れるのだ。売られたS星人は、観賞用、性的サービス。簡単に言えば奴隷としてあらゆることに利用される。『犯罪者はどこでも、やることは同じ、か』警部がそんなことを考えていると、いつの間にか背後に警察の突入班が来ていた。

「お待たせしました、チキラ警部。で、中は?」突入班の指揮官が言った。彼らはもうヘルメットを深く被っていて顔は見えないが、声を聞けば誰であるかはわかった。チキラは指揮官のノイに振り向いた。

「中にいるのは犯罪組織『天河会』幹部のイカワと子分二人。俺たちが見える範囲では、その3人だけだ。F星の奴らだ、抵抗してもなるべく殺すな」

「了解」

 その後、警察突入班と倉庫内の男3人の間に銃撃戦が起きた。静かだった倉庫街でここだけ、乾いた音の連続が続いた。けれど、銃を撃っていたのは警察に囲まれた男達ばかりだった。突入班は威嚇と、相手の応射を誘うために時折発砲するだけだった。犯罪組織の者達は破れかぶれに持ち弾を撃ち尽くしてしまい、すると、辺りは静けさを取り戻した。

「銃を捨てて両手を高く上げろ!」突入班ノイの声は、拡声器など使わずとも倉庫に響き渡った。

 かくして一件落着。後はこの人身売買の紐を引き寄せて大物にたどり着けるか?というところへ焦点が移った。かに見えたのだが、

「我々はF星外交部の者だ。不逮捕特権がある!」銃を構えたままの警官隊に取り囲まれた3人の中で格上の男イカワが、やや引きつった声で息巻いた。彼の発言にチキラは眉をひそめた。

「F星外交部?……イマセ、こいつらの身元を今すぐ照会しろ」

「はい、やってます……」チキラ警部の相棒刑事イマセは車載の端末を操作していたが、やがて苦い顔つきでチキラに「こいつらがF星外交部所属というのは本当です、警部」そう告げた。

「データ改ざんじゃねえのか?」チキラはニヤつくイカワの目をに見つけた。

「しかも、その、後ろで縮こまってる若いのですが、F星大使の息子ですね」

「なんだぁ?そのガキが切り札で連れて歩いてるのか。おまえら、外交特権使って、組織ぐるみの人身売買たぁ、ただの反社会勢力よりたちが悪いじゃねえか」

「へへへ」



 「当機はこれよりF星へ向け出発いたします。S星管理宇宙域外へ出るまで、軍戦闘機が誘導し、その後はF星まで自動操縦となります」

 アナウンスがあって、船はゆっくりと地上を離れた。


 S星人売買についてS星政府とF星政府の協議もほとんど行われず、不逮捕特権の放棄、民間人としての逮捕もなかった。その代わりに、拘束された男3人はF星送還。そしてF星大使の息子の父親。つまりF星大使は健康上の理由によりF星に戻り大使が交代することとなった。

「2星間の友好維持のため、ですか。人身売買に警察と銃撃戦までして、お咎めナシで故郷に帰れるなんてねえ」送還の船が発進する宇宙港の見送りロビーでイマセ刑事はチキラ警部にため息交じりに言った。

飛び立つ船を見上げながらチキラ警部は言った。

「俺は別に、奴らが送還されるのをご丁寧に見送りに来た訳じゃねえよ。ちょっと用事があったのさ……。あの船はS星管理星域の外に出るくらいまでしか燃料が入ってないそうだ。後はF星への軌道を自由航行。まぁ、間違いなくF星へは着くと言ってた。30年くらいかかるらしいけどな。……あいつらが政府の知り合いを頼るから、俺も宇宙港警備隊の知り合いを頼ってみた」



おわり

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