Ep.39 勝負と真似
第3クォーターを終えて2対3と、アクルクスはまだ一点のビハインド。
最後のクォータータイム、ベンチに戻って水分を補給していると、泉美がいった。
「負けてるのに、ミウすごい楽しそう」
「なんていうか……練習したことって、ちゃんと活きてるんだって思って」
「それだけじゃないでしょ? 正直にいえ、あすなとのマッチアップが楽しすぎるって!」
泉美が美海にじゃれつく。負けている状況なのに、ベンチの表情は明るい。
それは、アクルクス全体に流れが来ていることを感じさせた。
最後の第4クォーター開始のドローは真上にあがり、星南と可児がジャンプして競り合った。
二人のクロスに弾かれたボールは、佳弥子と藍の前に落ちる。
「絶対に渡さない!」
藍が佳弥子をブロックしながら、ボールを拾い、瞬時に戀にパスを送る。
すぐさま瑠衣が詰める。
「邪魔ぁー!」
戀はクロスを振りかぶる。パスコースの先には佐生が飛び出している。
瑠衣がパスカットしようとクロスを差し出す。しかし、戀はクロスをさらに大きく振り、ノールックで頭の後ろから逆サイドの藍に背面パスを送った。
さらに、佐生へのパスを警戒していたアクルクスの守備陣の一瞬の隙をついたあすなが、裕子のマークを振り切って飛び出していた。
「絶対に決めてよ、あすなっ!」
藍からあすなへのパスが通る。
裕子が11mエリアへの進入を阻止しようと立ちはだかるも、あすなは裕子にはまるで興味を示さずに、ゆっくりとゴール裏へ進んでいく。
「おいでよ、ミウ」
クロスを持つ右手の指先で、手招きをするようにして美海を呼ぶ。
前線から駆け戻った美海は、誘われるように近づきマッチアップする。
「もうあすなの好きにはさせない!」
「負けないよ、ミウ!」
心臓がはち切れそうなほど鼓動を打っている。
ここで追加点を許したら残り時間で逆転は難しい。
あすなが右足を踏み出す。その一歩で振り切られそうになる。
クロスステップで必死に食らいつき進入を阻む。
すると、あすなは一旦、突破を諦めたように美海と距離をとったが、すぐに足を踏み込んで、V字ターンをしてもう一度仕掛けてきた。
どっちから来る?
ほんの一瞬、迷ったときだった。
「ひ、左ッ!」
背後から叫び声が聞こえて、反射的に左側にステップを踏んだ。
重心を移動していたのを、強引に逆サイドに切り返そうとして、あすながバランスを崩す。
それでも、倒れ込みながら、地面すれすれの位置からダイビングシュートを放つ。
しかし、そのシュートは腰を落とし低く構えていた楓のクロスに収まった。
「ナイスセーブ、楓! 速攻だ、あがれ!」
八千代の指示でアクルクスのメンバーが一斉にラフローレ陣営に向けて走り出した。
前がかりになっていたラフローレの選手も慌てて守備に戻る。
ボールは楓から英子に渡る。
「ナイスシャウトやったで、カエちゃん! このボール絶対に、ヤツらのゴールに叩き込んだる!」
リズミカルにステップを刻むと、「どりゃあ!」と気合のこもった雄たけびを上げ、英子が全力でクロスを振りぬいた。
高い弾道を描きながら、ラフローレ選手を追いかけるようにボールは飛んでいく。
ボールの着地点を見極めようと、空を見上げた戀の視界に、大きな影ができる。
瑠衣がクロスを目一杯伸ばしながら、まるで宙を歩くような大ジャンプを見せていた。
「セナっち!」
ボールを捕った瑠衣から、星南へボールが渡る。
星南は一瞬の間も置かないまま、風のようにラフローレのゴール真正面に突き進む。
「ナツ、麻美! 仕留めて!」
獅子堂の声が飛んだ。すでにラフローレのゾーンディフェンスは整っている。
すると星南はステップを踏み、クロスを大きく振りかぶった。
「まさか、そこからシュート⁉」
「その距離なら遥はセーブする!」
可児と糸魚川がクロスを突き出す。
その隙間を縫うように、星南からシュートが放たれる。
しかし、シュートはクロスバーの上を越え、エンドラインを割った。
ホイッスルが鳴った後、審判がいった。
「遊路高校ボールです」
星南のシュートと同時に、泉美がエンドラインに走っていたのだ。
チェイスを獲得した泉美は、クロスを構えラフローレのディフェンスを確認する。
正面を2番と3番、両サイドは双子、ゴール横を5番と8番が同じライン上でがっちり守ってる。どこから入り込んでも、最低二人を突破しなければならない。
ここで同点に追いつかなければ、おそらくもうチャンスはない。
ピッ!
ゲーム再会と同時に泉美が走り出す。
狙いは、八木と獅子堂の間! ゴールサークルギリギリの位置。
八木がゴール前に入り込ませないように、位置を内側寄りに立った瞬間、泉美はゴールに背を向けたまま、クロスを構えて叫ぶ。
「山栄!」
ディフェンスが外から走り込んできた美海に視線をむけた瞬間、泉美がクロスを振った。
ボールは美海のほうではなく、泉美の背中越しに、ラフローレゴールに飛び込んでいた。
「
背後に転がるボールを見つめて、遥が愕然として呟く。
ゴール前では泉美たちが折り重なり、打ち上げ花火のように歓呼の声をあげていた。
第4クォーター、残り七分。ついに、アクルクスが同点に追いついた。
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