第3章 ライバルとの出会いは、突然に!

Ep.17 ユニフォームと合宿



 月曜日の練習前に星南が部員たちを招集し、一枚ずつプリント用紙を配った。

 それを見た部員たちが、驚きと喜色が入り混じった声をあげる。

 星南が配ったのは、ユニフォームのデザインイラストだった。


 肩から胸にかけては白字の逆三角形で、M字にブルーの細いラインが入っている。ウェストから下はこの島の海ように鮮やかなライトブルーで、キルトスカートは同じ色のボックスプリーツ。影ひだの部分と、裾に入るストライプが白くアクセントになっている。

 胸には大きく番号と、流麗なスクリプト体で「Acrux」と書かれていて、周囲に四つの十字星が散りばめられていた。


「これ、セナが描いたの?」美海が驚いた声をあげる。

「この島をイメージしてみた。発注する前に、みんなの意見をききたいの」

「全然いいと思う。ていうか、超カワイイじゃない! 絵も描けるなんて、セナって、単なるラクロス馬鹿じゃなかったんだ」泉美が声を弾ませる。

「ラクロス馬鹿とは心外ね」

「いや、心外っちゅうほうがおかしいですやん。ところで、この『Acrux』っていうのは、何ですのん?」英子が胸の部分の文字を指さす。

「チーム名よ。学生ラクロスでチーム名は必須じゃないけれど、多くの学校でチーム名を採用しているわ。ちなみに、青松学院大学付属高校のチーム名は『ネレイデス』、海を守護するの精霊の名前よ」

「わたしたちは奇跡の星といわれるアクルクスをチーム名にしようということか……いいんじゃないか。わたしは賛成だ」

 八千代がいうと、他の部員も同意したように首を縦に振る。

「ガウガウは? いいたいことがあるなら、今のうちにいって。ユニフォームになってからじゃ、どうしようもないから」

「わかってるわよ! そうね……この四つ星がちょっと大きすぎるかしら。もう少し、さりげない感じにしたほうがいいんじゃない。でも、みんながいいっていうなら、別にそれでいいわ」


 裕子はそういって、プリントを星南に突っ返した。

 少しずつ、でも着実に遊路高校ラクロス部がチームとして形成されつつあることに、美海の胸は自然と高鳴っていった。



「さて、今日は皆さんにお知らせがあります」

 練習後に友美が部員たちを集めていった。

「以前、練習試合をした律翔大学OGメンバーが、鹿児島にある神山学園でラクロス部のコーチをしているんだけど、彼女から合同合宿のお誘いがきてる。日程は七月の最終週。場所は沖縄県名護市の総合運動場で、近くの合宿施設に泊まる事になるわ。秋に行われる、九州沖縄地区大会に出場する高校も、何校か参加するって聞いてる。一応、みんなの意見をききたいと思うんだけど……」


 声にしなくても、そこにいる全員の目が「沖縄に行きたい!」と告げていた。友美は彼女たちを見て苦笑いを浮かべる。


「いっておくけど、合宿中は遊んでる暇なんてないよ? 一日中グラウンド走り回るんだから。それでも行きたい?」

「行きたいです!」

 ほぼ全員が声を揃えていった。


「わかった。ただし、ここからは費用のことだから、よく聞いて。合宿の宿泊費用は一泊あたり三食付きで一万円だから、三泊四日だと三万円。ただし、課外活動として、その半分は部費でまかなえるから、残りの一万五千円が合宿代で必要ということになります。問題は交通費なの。遊路空港から那覇空港までが飛行機の往復でだいたい三万円、名護市までのバスが五千円。合宿費と交通費、トータルで五万円必要になるんだけど、それでも参加したい?」


 五万円と聞いて、落胆したのは一人や二人ではなかった。この島の平均年収は全国平均よりもずっと低い。大きな企業も工場もないし、観光産業も、沖縄のように発展しているわけじゃない。合宿費用にためらいもなく五万円を出してくる親のほうが少ないだろう。だからといって、これからアルバイトをして、というわけにもいかない。そもそも、島には仕事がない。


「部費でなんとかならないんでしょうか?」

「須賀監督も学校に交渉してくれてるんだけど、まだ実績がある部活じゃないから」

 要するに、ノーということだ。

 興奮の色をみせていた部員たちも、瞬く間に意気消沈していた。すると、そんな彼女たちの様子をみて、英子がいった。


「要するに、ウチらが沖縄まで行けたら、合宿には一万五千円あれば参加できるんやんな?」

「そうだけど……その沖縄に行くのにお金がかかるっていう話で」

「せやったら、なんとかなるかもなぁ……」

 英子はあごに手をやって、何やら考えを巡らせている。そして、にぃっと口元を吊り上げ、いかにも悪だくみをしていますという顔で、友美をみた。友美の背筋を毛虫が這うような嫌な感触がのぼっていった。

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