第2章 グラボを制すものは、試合を制す!
Ep.09 クレードルとグラボ
第二グラウンドに集まった部員たちは、並べられたたくさんのラクロス用具を見て、おおーっと歓声を上げた。須賀の車から運び出したのは、クロスが十数本、ボールがカゴ一杯、アイガードと市販のマウスピースが段ボールひと箱、そしてゴーリー用のクロスにヘルメットやプロテクター一式。あとは、組み立てるタイプのゴールのフレームとネットが一対だ。
泉美が伝説の剣を手に入れた勇者のように、まっすぐにクロスを掲げる。
アルミ製のシャフトの先に、インドカレーについてくるナンみたいに、湾曲した扇形のプラスティックフレーム付いていて、中は太めの紐で網状になっている。
「これがクロスってやつね。たくさんあるけど違いとかあるの?」
「慣れてくると、メッシュの張り方とかこだわるけれど、用意したものはどれも大きな違いはないわ。ラクロスはこのクロスを使って、このボールをキープするわけだけれど……ガウガウ、ちょっとこっち来て」
手招きされた裕子が「誰がガウガウよ!」と、ガウガウと吠え、軽い笑いが起こる。
「クロスにボールを入れて、まっすぐ立ててみて」
面倒くさいといわんばかりに眉を寄せつつ、手渡されたボールをクロスの網に乗せ、体の前でまっすぐに立てる。ボールはクロスからコロンと転げ落ちて、地面でバウンドした。
「いや、落ちるの当たり前でしょ」
「そう。ただ入れただけじゃ、ボールが簡単に転げ落ちるのは当たり前。じゃあ、どうすれば転げ落ちないと思う?」
「そりゃあ、水平に持つとか……」
裕子はボールを入れたクロスを、体の前に水平に持つ。すかさず、星南は持っていたクロスを振り下ろし、裕子のクロスからボールを叩き落とした。
「何するのよ!」
「前にいったでしょ。チェックといって、ラクロスでは相手のクロスからボールを叩き落とすことが可能だって。こんな持ち方じゃ、取ってくれといってるのと同じ」
「つまり、簡単に取られないためには、立てて保持しないといけない。でも、そのままクロスを立てているだけじゃボールは落ちる」
泉美が確認するようにいう。
「そう。そのためにクレードルという基礎動作が必要よ」
星南はボールをひとつ拾い上げると、「投げ返して」と裕子に投げてよこす。受け取った裕子は、キャッチボールの要領でオーバーハンドでボールを投げ返した。軽く放るという感じではなく、野球部が肩慣らしに投げる程度の球速。
しかし、星南は体の前で構えたクロスで難なくそのボールをキャッチする。その瞬間、クロスはシャフトを軸にひらりと回転し、星南のクロスにすっぽりと収まる。そのまま、今度はクロスを振って、まっすぐ裕子にボールを投げ返した。
「クレードルはシャフトを回転させ、遠心力でクロス内にボール安定させる動作よ。ドライブ、パス、グラボ、ショット。すべての動作に必要になる技術だから、みんなマスターして」
いくつかの専門用語を交えて星南が説明する。簡単にいえば、水を汲んだバケツをぐるぐる回しても、水が溢れないのと同じことだ。
星南は立てたクロスを体の左右に振る。
「この縦軸方向のクレードルを一番多用する。今は大きく降ってるけど、実際はもっと小さく、シャフトを軸に回す感じ」
星南は構えたクロスを、くるっと回してみせた。
さらに、今度はクロスを前方に突き出すようにして八の字を描く。
「あとはこの八の字のクレードルも必須の動作」
「でも、さっき体の正面ではチェックされるっていってたわ、よっ!」
裕子が星南のクロスをチェックしようとすると、星南はそれをクレードルでひらりとかわし、ひゅっとクロスを振って裕子にボールを投げ返した。ほんの一瞬の動作。しかも無駄がない。
部員からも「おおー」という声が漏れる。ダシにされた裕子だけが悔しそうに、いーっと歯をむき出している。
「だからこそクレードルで、ボールをキープしつつ相手のチェックをかわす。とくに、グラボでは必須の技術よ」
「グラボって?」
「地面に落ちたボールを拾うこと。ラクロスはバスケットボールと違って、ボールを保持したままどれだけ走ってもいいし、ショットまでの時間も決められていない。ボールをキープしている時間が長いほど攻撃チャンスが多い。もし、相手のミスで
星南はクロスを地面に立て、シャフトエンドに両手を乗せた。
「グラボを制するものは、試合を制す」
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