Secret pleasure

東京のとある閑静な住宅街に位置する屋敷。そこでは、十数人のメイドが住み込みで雇われている。

周りが静かなのも手伝って、よく耳を澄ますと、彼女たちの話声がかすかに聞こえてくる。そして今日も…



「ねえ誰か、この賞味期限切れの調味料捨てに行ってくれない?」

「あ、はーい!私やります!」

元気よく返事をした彼女の名前は、杉原 恵実。メイドとしてこの屋敷に雇われて、かれこれ3年。十数人いるメイドの中では、それなりの古株で、どんな仕事でもしっかりとこ

なすので、他のメイドからの信頼も厚い。

「それじゃめぐみ、お願いするわね。」

「はい!それじゃ行ってきます!」

そう言うと彼女は、廃棄になる食材たちを抱えて、颯爽と駆けていった。


数分後、彼女はゴミ捨て場……ではなく、自分の部屋のバスルームへとやってきた。

「蜂蜜にチョコレートソース…ホイップにイチゴジャム…マヨネーズとケチャップもある。これは…すごく楽しめる時間になりそう!」

彼女は、服を着たまま汚れるのが趣味である。今までも、密かにネットで発注したコスプレ衣装を着て汚れたり、泥パックを注文し、それを使って汚れるのを楽しむなど、ずっと

汚れることを秘密裏に楽しんできた。とはいっても、仕事中にやるわけにはいかないので、これは仕事後のお楽しみである。

「よし!これで今日の楽しみが出来た!」

そう言うと、彼女は仕事へと戻っていった。


その日の深夜。他のメイドたちが寝静まる中、恵実は例の「お楽しみ」を実行するために、一人で起きていた。彼女はメイド服を着たまま、一人浴槽の中に座っていた。

「さてと、そろそろ始めよっかな。」

「何を始める気?」

恵実ははっとして、声のした方へと振り返った。そこには、もう1人のメイドがニヤニヤ笑いながら佇んでいた。

「エリートメイドさんが、いったいこんな夜中に何してるの?」

恵実に向かってこう言っているのは、北嶋 江利。めぐみと同じ時期にこの屋敷のメイドとして雇われ、めぐみとは良い仲である。

「え、江利ちゃん!えっと、これはね、あの、その…。」

不意に話しかけられ、たじろぐ恵実。

「もう隠し通そうとする必要ないわよ。」

おもむろに、チョコレートソースのボトルを手に取った江利は、チョコソースを恵美の腕へとかけた。

「ちょっと!江利ちゃんやめっ、あっ…。」

メイド服の袖の一部が、チョコレート色に染まる。

「ちょっ、ちょっと!江利ちゃん何するの!」

「あっ、ごめんごめん。でも、なんだかあなた、少しうれしそうな表情してるわね。」

「えっ、そんなことは…。」

たじろぐ恵美。その姿をみて、不敵な笑みを浮かべる江利。

「もしかしてあなた、今までずっとこんなことやってきたの?」

「いや、だから違うって…。」

「まだ隠し通す気?同僚の私に言いたくないってことは、相当やましい事なのね。」

今度は、恵美のメイド服のスカートへとチョコソースをかけた。

「も、もうやめて江利ちゃん…。」

泣きそうな顔で、恵美が言う。

「じゃあ、本当のことを言いなさい。」

「…引いたりしない?」

「しない。だって、あなたが何を隠してるか、大体予想しちゃってるから。」

「あ、うん…。じゃあ言うよ。私ね…、こうやって、服着たまま汚れるのが好きなんだ…。」

今度はケチャップのボトルを手に取り、エプロンにかけていく。白のエプロンに、赤のケチャップのコントラストが生まれる。

「驚いたりしないんだ。」

「ええ。折角だし、もう少しあなたの“楽しみ”を見ていこうかしら。」

「えへへ、じゃあ、ちょっと恥ずかしいけれど…。」

次に恵美は、マヨネーズを手に取り、胸元に勢いよく噴射させた。

「…楽しいなぁ。」

「楽しいのはいいんだけれど、あなたこれ、勝手に持っていって大丈夫なものなの?」

「えっ?」

キツネにつままれたような表情をする恵美。

「どういうこと?」

「だってここにあるやつって、いくら捨てられる食材とはいえ、ここの屋敷の持ち物なんじゃない。それを勝手に使うってことは…。」

「あっ…。」

「それに見た感じ、前から何度もこんなことやってるみたいだし…、ねぇ。」

「あ、ああ…。ど、どうしよう…。」

恵美の顔から、どんどん笑顔が消えていき、どんどん顔が青ざめていく。

「どうしよっかな~。メイド長に言いつけてやろうかな~。」

「ええっ!そんなことになったら、私もうここにいられないかもしれないよ!」

「あらそう。でもそうなったところで、私の仕事になんかあるわけじゃないからね~。」

「お願い!秘密にしてて!」

「…分かったわよ。このことは誰にも言わないから。」

「あ、ありがとう…。」

安堵の表情を浮かべる恵美。

「その代わり、私にもちょっとやらせなさいよ。その"楽しみ"を。」

「えっ?それはどういう…。」

「言った通りよ。」

そう言うと江利は、手錠とアイマスクを取り出した。手錠からじゃらりという音が鳴る。そのまま江利は一言も発さず、恵美の腕を後ろ手にして手錠をかけ、アイマスクを付けた。

「ちょ、ちょっと江利ちゃん!外してよこれ!」

「嫌だ。私の気が済むまで外さない。」

「な、何でつけたの…?」

「私が代わりにかけてあげようと思って。たまには違うやり方で楽しんでもいいんじゃないの?」

調味料の集合体の中を探りながら、江利が言う。

「い、いや私は自分一人でやるのが好きだから…。お願いやめて!」

「いや。もう遅い。」

そして、江利はマヨネーズを手に取り、タイツを履いた恵美の脚にかけた。

「ひゃあっ!あ、脚に何かついたよ!江利ちゃん何したの!?」

「教えない。」

次に江利は蜂蜜を手に取り、恵美のメイド服の胸元から、メイド服の中へと流し込んだ。

「きゃあっ!」

「うるわいわねあなた。もう少しおとなしくいられないの?」

「だ、だってぇ…。何も見えないから、江利ちゃんがどうしてるのかが全然わからないから…。」

「あらそう。」

そう言いながら江利は、いちごジャムを手に取り、恵美の腕にすーっと広げていく。黒のメイド服が、徐々に徐々に赤に染まっていく。

「ひぃっ…。」

恵美のほうは、さっきうるさいと言われたからなのか、さっきまでよりも少しだけ静かになっていた。

すると、江利はこう言った。

「さてと、もう最後にしましょうか。」

そう言うと、彼女は恵美に着けていたアイマスクを外した。

「うっ!まぶしい!」

急に外されたので、目をぎゅっと瞑る恵美。

「な、なんで外してくれたの?」

「あと1回だけ、やりたいことやらせてくれたらもう戻るから。」

「江利ちゃんのやりたいこと?」

「ええ。じゃあちょっと上向いてくれる?」

言われるがままに、くいっと上を向く恵美。

「これでいい?」

すると間髪入れずに、恵美の顔に蜂蜜が落ちてきた。

「うっ!」

粘性のある重い液体が、恵美の顔を一気に包み込む。息苦しそうにする恵美。しかし、恵美がそのような状況になろうとも、江利は容赦がない。


2分は経っただろうか。ようやく容器が空っぽになった。江利がふぅと息を吐く。

「さてと、これくらいでいいでしょう。」

「も、もう終わり…?」

「ええ。」

そう言って、辺りに散らばった空の容器をまとめ始める江利。

「どうだった?『お楽しみ』に第三者が介入してきた感想は?」

「う、う~んとね…。まあびっくりはしたけれど、この感触はやっぱり気持ちよくって大好きだし…。なんやかんや楽しかった…。かな?」

「あらそう。それじゃあね。」

そう言って、バスルームから出ようとする江利。

「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!これ外してよ江利ちゃん!」

手錠から音を鳴らしながら、恵美が言う。

「え、ちょっと待って。鍵、鍵…。」

そういいながら彼女は、自分のメイド服の隅々まで探し始めた。しばらくして、恵美のほうに向き直り、こう言った。

「ごめんなさい。鍵、自分の部屋に落としてきちゃったかも。本当に申し訳ないんだけれど、今晩はそのまま夜を過ごしてくれないかしら。ごめんなさいね。」

「えっ、江利ちゃん今、なんて言った?」

「だから、手錠の鍵を自分の部屋に落としてきたから…」

江利が全てを言い終わる前に、恵美が言う。

「い、いや!こっ、この、手と足が全然動かない状態で一晩過ごさなきゃいけないの!?」

「そうなのよ、本当にごめんなさいね。それじゃ、私はもう寝るから。おやすみなさい。」

そう言い残し、江利はバスルームから出ていった。扉の向こうからは、恵美が大声で何かを言っているのがかすかに聞こえるが、江利は全く気にも留めない。

「ふふ、鍵は落としてなんかいないのに。」

そう言うと江利は、メイド服の胸元に手を突っ込み、手錠の鍵を取り出した。

「恵美も相当なおバカさんね。私は全く自分の部屋なんて言ってないのに。『自分の部屋で落とした』っていう嘘が通じちゃうんだから…。」


「さて、明日も恵美の部屋に遊びに行こうかしらね。またあの『楽しみ』の手伝いをしてあげようかしら、フフッ。」


「…恵美、大好きよ。」

そう呟き、颯爽と自分の部屋へと戻る江利。カツンコツンという靴音が、薄暗い屋敷に響き渡った。

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