On a rainy day

「…あっ、雨降ってる。」

学校終わりの昇降口、ただひたすらに雨が降ってくる空を見上げる奈津美。おもむろに傘を開こうとすると、隣にいた2人の下級生が、彼女の目に入った。

「あーっ、傘忘れちゃった…。」

「えーっ、今日は天気予報でも強い雨が降るって言ってたのに。というか美恵子、前に雨降った時も忘れてなかった?」

「だって私、天気予報見ないし…。」

「いや、ちゃんと見なさいよ…。」

「お願い麻由美ちゃん!傘の中入れて!」

「う~ん、この傘、私が入っただけでぎりぎりだしな…。美恵子が入ると、私も濡れちゃうし…。」

「でも、私も濡れるのやだよ…。」

そんな会話が繰り広げられる中、奈津美は美恵子にに近づき、声をかけた。

「ねえ、この傘貸してあげよっか?」

誰かに話しかけられ、振り返ると上級生がいたということもあってか、少し驚いた顔をする美恵子。

「…いいんですか?」

「全然いいよ!制服濡れたら、困っちゃうでしょ。」

「でも、そしたら先輩が濡れちゃいますよ。」

「私は全然濡れて構わないから!それじゃ!」

そういうと、奈津美は半ば強引に傘を美恵子に手渡し、そのまま雨の中へと走り去っていった。

「あっ、ちょっと待ってくださいよー!」

「よ、良かったじゃない。これで濡れずに済むね。」

「でも、誰なのかもわからないから、どこに返せばいいの…。お礼も言ってないのに。」


「あー、気持ちいい。」

制服を着ながら、雨に打たれる奈津美。雨足はさっきよりもさらに強くなり、制服にどんどんと雨粒が染み込んでいく。

「こんなに強い雨に打たれるのって、本当に久々!」

腕を大きく広げ、雨を全身で受け止める。髪も制服も、すでにびしょ濡れ。しかし、奈津美にとってそれは、この状況を楽しむ要素の一つである。

「あ~、シャツがくっついてきた。もうブラが透けてるし。スカートも…。ちょっと気持ち悪いけれど、この張り付いてる時の感覚が良いんだよね~。」

シャツやブレザー、スカートは奈津美の体にぴったりと張り付き、体のラインをくっきりと際立たせる。通行人とすれ違いざまに“なんであいつは傘もささずに、あんな楽しそうにしているんだ”というような奇異の目で見られたが、奈津美はまったくお構いなし。むしろ、そのような目で見られるのを楽しんでいるかのようだった。

「もっと降ってくれないかな~。もっとびしょ濡れになりたい!」

しかし、彼女の願望とは裏腹に、雨足はだんだんと弱まっていった。

「あれ、何かもう止みそうな感じがするんだけど…。」

不幸にも予感は的中し、雨はそれから2分もしないうちに止んでしまった。

「あ~止んじゃった。ずっと降ってる雨なんてあるわけないのは分かるけど、もう少しだけ降っててほしかった…。」

楽しみを不本意な形で終わらせることになってしまい、がっくりと肩を落とす奈津美。とぼとぼとしばらく歩いてると、川の土手へとやってきた。

「あっ、そっかぁ!あの手があった!」

川岸へと走っていく奈津美。川の水面を見つめ、目をきらきらと輝かせる。

「雨が降らなくても、ここだったらびしょ濡れになれる!」

そう言うと、奈津美は川へと飛び込んだ。バッシャーンという音が辺りに響き渡り、乾きかけていた制服が一気にびしょ濡れになる。

「う~ん、徐々に徐々に濡れていくのも気持ちいいけれど、こうやって一気にびしょ濡れになるのも気持ちいいなぁ…。」

そして奈津美は、水面を足で思いっきり蹴って水しぶきを上げたり、川の中へと潜ったり、制服のまま泳いだりなどして、川での着衣濡れを楽しんでいた。その時である。

「ちょっとあなた!」

遠くから、声が聞こえた。川の土手の方向である。

「私ですかー?」

泳ぐのをやめて、受け答える奈津美。

「ええ、そうよ。ちょっと戻ってきてくれない?」

「はーい。」

言われたことに素直に応じ、川岸へと泳いで戻っていき、そのまま岸へ座り込んだ。

「なんか用で…えっ、警察の人!?」

奈津美の目の前に立っていたのは、奈津美よりも明らかに年上、25~6歳程の女性警官だった。長い黒髪をなびかせ、キリッとした表情で奈津美のほうを見つめている。

「け、警察の人が、何か御用でしょうか?」

さっきまでの元気はどこへやら、警察官を前にして、急に縮こまる奈津美。そして、女性警官が口を開いた。

「何か、邪魔して申し訳ないんだけれど、通報があったのよ。『制服のまま川に飛び込んでる頭のおかしい奴がいる』って。」

「あ、頭のおかしい…。」

頭のおかしい人扱いされたことに、唖然とする奈津美。その次に、謎の怒りが彼女の中にこみあげてきた。

「な、なんなんですかその人!頭おかしいなんて、すっごく失礼じゃないですか!?ま、まあ、変わってるっていう自覚はありますけれど…。」

「まあとにかく、『川に身を投げて自殺』とかじゃなくて良かった。でも、ちょっと冷え込んできたし、そんなんじゃ風邪ひくわよ。もう6時過ぎて辺りも暗くなってきたし、そ

ろそろ帰ったら?」

そう言われて、辺りを見回す奈津美。辺りはかなり暗くなり、街灯が点灯し始めている。

「あ~、そうですか。じゃあ、そろそろ帰ろうかな~。…あっ!そうだ!」

何かを思いついたような素振りを見せる奈津美

「どうかしたの?」

すると、女性警官をじっと見つめ、奈津美はこう言った。

「最後に、一緒に川に入りませんか?」

「はぁ!?何言ってるのよ!私はこの制服濡らしたくないから!あなたとは違うの!」

「まあそう堅いこと言わずに!ここで出会ったのも何かの縁ですし!」

「ちょっと!放しなさいよ!」

「放しませんー!私に出会ったからにはずぶ濡れになってもらいますよー!」

そう言いながら、奈津美は警官の腕を一気にグイっと引っ張った。

「ああっ!」

同時に川へと倒れ込む警官と奈津美。2人分の水しぶきが上がる音がした。

「…やってくれたわね。」

明らかに怒った表情で、警官は奈津美を見つめる。ジャケットもスカートもずぶ濡れになってしまっている。一方の奈津美は、至る所から水を滴らせながら、まずいという表情を

浮かべている。

「何か言うことは?」

「え、えっと…。濡れた姿も素敵ですね…。」

「バカ言ってんじゃないわよー!」

両手で思いっきり水をかける警官。

「うひゃあっ!」

その水を顔からもろに食らう奈津美。

「やりましたねー!お返しです!」

結局、2人はそのまま、水とともに戯れるのであった。

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