Are you believing?

「…うへぇ、37度5分…」

体温計に表示される数字を見つめ、うなだれる祐子。

「2日前から、体温全然下がらないね。」

気の毒そうに苦笑いしながら、妹の綾子が言う。

「病院行ったら、インフルエンザじゃないみたいだからまだ良いけれど…。明日友達と出かけるのにぃ…。」

「まあ、お姉ちゃんいろんな所に出かけてばっかだし、『少しは家でじっとしてろ』って、神様が言ってるんじゃないの?」

「神様の意地悪ぅ~!」

「(まさか乗るとは思わなかった…。)」

哀れそうに、祐子のほうを見る綾子。

「あぁ~、どうにかこの風邪直んないかな…。」

「あ、そうだ!」

何かを思いつき、綾子は祐子のほうを見て、

「お姉ちゃん、風邪直す良い方法教えてあげよっか?」

「え!?そんなのあるの?」

「あるある!ついて来て!」

そう言って、綾子は祐子をある場所へと連れて行った。


「…よし、準備完了っと!」

「お風呂場に連れてきて、何するつもり?」

綾子の言われるがままに、お風呂場に連れてこられてた祐子。

「お姉ちゃんに、お風呂入ってもらおうかと思って。」

「それはありがたい!だけど、なんで学校の制服を着る必要があるの?」

「何か服着たほうが風邪に効くんだって。学校の制服が一番いいって聞いたんだ。」

「なるほどね~。」

「(お姉ちゃん、やっぱり馬鹿だ…。)」

あきれ顔をする綾子。

「あと、風呂桶で頭からお湯を被ると良いんだって。まあとにかく、楽しんでね~。」

そう言い残し、綾子は居間へと戻っていった。

「さて、せっかく綾子が用意してくれたんだし、有難く頂くとしますかね。まずは湯加減を…」

そう言うと、祐子はお湯が張られた湯船の中に手を入れた。

「…ん?何これ?普通のお湯じゃなくない?」

明らかに普通のお湯ではない、にゅるっとした感触が走る。

「ねえちょっと綾子!このお湯何?」

「あ!言い忘れてた!そのお湯、粉末ローションってのを混ぜてるから!適当にやってて~。風邪に聞くよ~。」

「…はあ。なんか余計に悪化した感じがする。」

そう言いつつも、手でローションを掬ってみる。指の間に糸が引く。

「これが、ローション…。」

手に付けたローションを、制服の袖に塗ってみる祐子。付けたところに、ローションが染み込んでいる。

「…入ってみるか…。」

ローションが張られた湯船に、白のソックスを履いた足先をつける祐子。

「うわあ、染みてきた…。しょうがない。もう一気に入っちゃうか…!」

覚悟を決め、祐子は勢いよく湯船へと入った。お風呂場に、バッシャーンという音が響き渡る。

「うわあ…。これ、本当に風邪に効くんでしょうね…。」

湯船の中で立ち上がると、スカートの裾や、制服の袖口から、ローションが糸を引く。

「この制服、1週間後には着るのに…。乾くかなあ…。というか、流石に良くなったんじゃないの?」

そして再び、祐子は体温計で温度を測る。

「…37度か…。やっぱり、頭から被るしか…。」

そう言うと、風呂桶でローションを掬い、頭上に持ってくる。

「…行こう!」

そして、祐子は頭上の風呂桶をひっくり返し、ローションを浴びる。

「…うおぅ。髪もベトベトだぁ…。」

すると、綾子が風呂場のドアを勢いよく開け、中に入ってきた。

「お姉ちゃん!どうだった?風邪に効くローション風呂は?」

「いや、聞いたかどうか分かんない…。」

「それにしても、こんなにも完璧にお姉ちゃんが騙されるとは思ってなかった♪」

「…へ?騙されるってどういうこと?」

「へへへ、ちょっとお姉ちゃんにイタズラしたの。これが風邪に効くって言うのは、全部私がでっち上げた嘘!どうだった?」

「やられた…。」

ローション風呂の中で、気が抜けたように座り込む祐子。

「それじゃ、あとは適当にやってて良いよ~。」

そう言って、綾子はお風呂場から立ち去ろうとした。その時である。

「ちょっと待って綾子。ちょっと良いことしてあげるから。こっち向いて。目つぶってくれる?」

祐子は、綾子にそう話しかけた。

「こう?」

言われるがままに、綾子は目を閉じる。すると、祐子は綾子の顔に向かって、風呂桶一杯のローションを勢いよくかけた。

「んぷっ!?ちょっとお姉ちゃん何するの!?」

「流石私の妹ね。まんまと引っかかってくれた。」

綾子に向かって、にやにやと笑う祐子。

「服にもかかっちゃったじゃん!これから友達と会うのに!ひどい!」

「でも気持ちいいでしょ?私も風邪直った感じするし!」

「もう!やり返してやる!」

そうして、別の風呂桶を手に取り、ローションを掬って祐子に勢いよくかける綾子。

「綾子がその気なら、私だって容赦しないわよ!」

ローションをお返しする祐子。こうして、姉妹は時間の許す限り、ローションと戯れているのだった。

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