くだらないのも大事
ショートプログラム終了。
結果は1位に誠也、2位にアリスタルフ、3位にカイル、4位にギルバート、5位に柚樹。
言うまでもなく、フリーはこの5人の大激戦となるだろう。
「歴代でもレベルの高いジュニア男子」とまで言われているくらいだ。
ショートプログラムが終わり、スモールメダルも渡され、プレカンも終了すれば今度はフリーの滑走順を決めるための抽選会へ向かう。
その時漸く誠也と柚樹は同じ空間に集まった。
「ショート一位おめでと」
「おー、ありがとうな」
と割と冷めた声で言う。
「…冷めてんな」
「…まだ勝ったわけじゃないからな…冷めてるってかフリーにビビってる」
「ビビんな、頑張れ」
と予想外の返答に笑うと、誠也も笑顔を浮かべていた。
柚樹は久しぶりに見た気がすると思ったが、言わないことにした。
「試合の時はいつもビビってる」
「マジか、お前もビビるんだな」
「田畑先生はビビってるくらいがちょうどいいって言うてたで」
と、本当に昨年の全日本ノービス以来にこんな他愛もない話をしている。
田畑コーチも背後で安心した表情を浮かべている。
先ほどのインタビューではやはり、「お兄さんのような表現力のある素敵な演技でした」と言われた。
カメラの前では動揺を見せない努力をしていたが、インタビューが終わってからすっかり青ざめた顔をしていたのだ。
柚樹とくだらない話をすることでなんとか取り戻していたのだ。
男子フリーの滑走順抽選会が始まり、24位以上の選手がアナウンスされて一人ずつくじを引いていく。
そしてついに最終グループとなる選手が呼ばれることになり、順番に引いていく。
結果最終グループの一番最初が柚樹で、最終滑走が誠也だった。
「なんやこれ」
「知らない」
グループ一番最初の滑走と最終滑走は苦手な人が多い。日本人二人揃ってその苦手な人が多いと言われるポジションを引いてしまい、苦笑いを浮かべていた。
「ショート1位で最終滑走で優勝したら熱いじゃん」
「おー頑張るわ。俺の後誰も滑らんから氷溶かしても問題ないやろ」
「戻ってこれる?」
そう返されて誠也は首を傾げてしまった。
柚樹は笑っていたが、内心に戻ってきた安心を噛み締めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます