彼女のおとし方

空色

彼女のおとし方

「時は満ちた!」

俺は祐介。来週から、大学生になる。

大学生と言えば、勉学にバイト、サークル活動と行事が目白押しだ。

しかし、俺はそんな大学生活よりももっと重大なことがあると考えている。

それは、恋愛だ。

お前ら知っているか?女の子はいい匂いがするんだぞ。


あぁ〜


女の子と手繋ぎたい。

おんなのことキスしたい。

オンナノコとイチャイチャしたい。

オンナノコト

・・・・・・・

・・・・・

・・・

考えたら夢が膨らむな。


「えへへへ、オンナノコサイコウ」


本当に、本当に長かった。この夢を掲げてから夢を実行できる立ち位置に来るためにかかった時間は約10年。

こう見えて俺は小学校から高校まで男子校一本で進学してきた。しかも全てが寮生活ときたもんだ。だから女という名の生き物で知っているのは祖母と母、寮母位だ。

正直、こいつ等を女と思ったことはないが・・・。


思い返せば、この地獄の始まりはあの頃からだった。

幼稚園の頃。

親父の一言で地獄に叩きつけられた。その言葉を今でもしっかり覚えてるよ。

友達と遊んで家に帰った時、親父が開口一番に

「お前は小学受験だ」

って言いやがったんだ。

受験ってなんだよ。何の前振りもなく、そんな話するなよ。しかも幼稚園児の俺がそんな言葉知っている訳ないだろ!

だから意味を理解せずに俺は答えた。

「うん、わかった!」

と。

今の俺が過去をやり直せるとしたら、この返事をする前の自分に戻って“嫌だ!”って親父に言ってやるのに。


っと。危ない危ない、考えが脱線してしまったようだ。

話を戻そう。

理想の大学生活を送るために、俺には乗り越えなければならないことが、一つある。

これが、一番重要で大切な案件だ。

さっきも言ったが、俺は男子校出身。しかも寮生活で女性に合うことはこれまでなかった。


そのために生じる問題。

“オンナノコとの接し方が分からない”


だが安心してほしい。人間「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がある。

一人で答えが出なくても三人いれば何とかなるよっていう内容の言葉だ。意味があっているかについては自信は無いけど。


まぁ、そんなことはどうでもいい!

来たるべき時を迎えるために、今日は3人の助っ人を呼んでいる。これで万事解決だ。


では早速。俺が呼び出した3人はこいつ等だ。


「一番手。見た目は優男。しかし、見た目に騙されるな、全ては計算で行動しているぞ。狡猾系男子、ヨシオ君」

「ふふっ、紹介ありがとう」

「二番手。筋肉がとっても美しいぞ。THE体育会系男子、タケル君」

「ふん!俺に任せろ」

「三番手。2次元で落としてきた女性の数は両手両足では数え切れず。オタク系男子、マサル君」

「ぼぼ、僕に任せるんだな」


「本日の議題は“もし好きな女性ができたら、どう落とせばいい?”です。皆さんの率直な意見を俺に聞かせてください。それでは一番手ヨシオ君、どうぞ」


「あいつはさっきから誰に向かって、司会をしているんだ?」

「ぼぼぼ僕に聞かないでほしいんだな」

「ふふ、彼にもそんな日があると思って、僕たちはそっとしておいてあげるべきだよ」

お前らの話声は聞こえてんぞ!

誰に説明しているかって?知らん、何故かこんな形式になってしまっただけだ。


「最初は僕だね。議題は女性の落とし方だったね。それなら僕が考える案はこうだよ」

舞台はおしゃれなレストラン。彼女と二人っきりでおいしい食事を楽しみながら、雑談を交えていく。


ふむ。ドラマとかでよく聞く内容だな。夕日や夜景がよく見える席で彼女と食事を取り、「君の瞳に乾杯」とか、最終的には夕日を見ながら「外に見える夜景よりも君の方が美しいよ」といい、彼女を落とすやり方だな。

だが、これは最早定番化してしまい、効果は限りなく薄いはず。

俺が彼女にそんなことをしようとしたら恐らく・・・


「あ〜、風景と私を比べて口説き落とそうとしているんでしょ?よくテレビで見ているから分かるわ。告白するならもっと捻ったことをしてほしかった。」

とか言われて、挙句の果てには

「私、機転がきく人が好きなの。凝り固まった話しかできないあなたとはやっていけない。さようなら」

となり、告白は撃沈すること間違いない。


「安心して。祐介が考えているような失敗にはならないと思うよ」

どうやらヨシオ君には俺の心が手に取るように分かるみたいだ。さすが優男。


「祐介は考えがすぐに顔に出るから分かりやすいな」

「そそそそうだね」

うっせ。外野は黙ってろ。


「ふふ。僕の案はここからが本番だよ」

食事自体は雑談をしながら進めていき、勝負時が来るのを待つんだ。


「その勝負時とは?」

「彼女がお花摘みで席を立つ時さ」


“お花摘み”

確か女性がトイレに行くときの造語だ。

男子校では聞くことのない言葉。

俺達が食事中に、トイレに行きたくなったら黙ってその場から離れるか「トイレに行くわ」。酷い時だと「うんこ行ってくる」だからな。

そんな影響なのか、初めてお花摘みって言葉を聞いたとき、食事中に花を摘みに行ったらもう一回手を洗わないといけないじゃんって考えてたな。


「彼女がお花摘みに言ったタイミングで、僕はこれを使用する」

ヨシオ君はしたり顔で、カバンから一つの粉薬を取り出した。


「これは睡眠薬。彼女の飲み物に入れて混ぜておくんだ。この薬は即効性だから飲んで少ししたら眠くなってしまうよ」

「え〜と、彼女が眠くなってしまったら、どうするのか教えてもらっていいかな?」

「ふふ。ここから先は祐介が考えたらいいんじゃないかな?」


ヨシオ君・・・もうヨシオでいいわ。ヨシオの言葉でつい想像してしまったじゃないか!

しかも背徳感もあって、最後までやってしまってたわ。


「なるほど、上手いな。彼女との間に既成事実を作るのか」

「ににに二次元でそのパターンは攻略済みなんだな」


「うまかねーよ!しかもマサルはゲームで体験済みかよ、後で貸してくれ」

「わわ分かったんだな」

このシチュエーションになる場合があるかもしれないしな。

あくまでも、勉強だから・・・決してそのシチュエーションに興味があるわけじゃないから。


「そうだね。このシチュエーションに名前を付けるとしたら“ドキドキ!彼女が睡眠薬で堕ちた後”になるね」


ヨシオ・・・18禁でありそうなタイトルやめろ!







「ふぅ〜む。次は俺の番だな」

ヨシオのシチュエーションを聞いた後、色々脱線していたが、タケルの言葉で本来の議題に戻ってきた。

体育会系で鍛えた見事な腕を組んで、壁にもたれるタケル。


「俺が考えるシチュエーションはこうだ」

場所は大学の校舎。時間は、、、放課後。彼女と二人っきりになった時を見計らって。彼女を壁際まで追い込み逃げ場をなくし彼女ごと、壁を両手で抑え込む。


なるほど、いわゆる“壁ドン”というやつだな。壁ドンの衝撃で彼女の勢いを奪い、「好きだ」と言って、彼女に了解を得る。

これはまた使い古されたネタを持ってきたな。今、こんなシチュエーションで壁ドンされたら、喧嘩沙汰になるか、警察を呼ばれて終わりになるだろうな。


「はっはっは!そう心配しなくても大丈夫だ、祐介」

別に心配はしてないけどな。ただ、使い古されたネタを持ってきたなって呆れてただけなんだわ。


「祐介は感情をはっきりさせてくれているから付き合いがしやすいよ」

「だだだって、かか顔にでるから」

だから外野は黙っていろ。


「それじゃぁ、定番化されないタケルの意見を教えてくれよ」

「おぅ。任せとけ」

彼女に壁ドン。ここまでは通常の告白シーンだ。このあとから、彼女は急に落ちるぞ。


そう言いながら、実際に試した方が速いと言って、俺が彼女役でタケルが壁ドン役という配置で現在俺はタケルに壁ドンされている。


はっきりいって、男の顔が目の間にあるのは気持ちわりぃな。

絶対告白されても落ちないだろ。


この時の俺はそんな風に思っていた・・・


結論から言うと、俺は完全にタケルに落とされていた。


そう、物理的に。意識を。

目が覚めたら時間が一時間ぐらい進んでいた。

正直めっちゃ怖かった。

恐怖以外何物でもなかったわ。

近くにいたタケルに目を向けると

「な?」

ドヤ顔で“落ちただろ?”って言ってきた。


そりゃ、落ちるわ。だって、壁ドンからいきなり背負い投げ。からの絞め技だろ?

アホだろ!

ヨシオといい、タケルといい。

誰が意識を落とせって言ったんだ。伝えていたのは“彼女の落とし方”であって“彼女(の意識)の落とし方”じゃねぇ。


まぁ、もしかしたら使う機会があるかもだし、後でタケルにこっそり一本背負いと絞め技のコツを聞いておこう。


「なるほど。一本背負いで体を一度落とし、絞め技で更に意識を落とすと。凄いね、一度で2回の落とし方があるんだね。二段構えは考えてなかったよ、いや〜僕もまだまだだね」


おい、そこの優男。何に感心してるんだ!


「ぼぼぼくもやってみたいんだな!」

そこで興味を示すな!二次元オタク!



ねぇ、君たち。別の何かで張り合いだしてない?

大丈夫だよね、次でラストだよ?

・・・・・いや、なんだかダメな気がするわ。

はぁ〜。


・・・・・・・・・



さぁ、気を取り戻していこう!

よし、これで最後だな。

「それじゃぁ最後、マサル。君に全ての運命がかかっているぞ。頼んだ」

「ままま任せるんだな。ぼぼ僕の考えは」

場所はタケルと同じく大学。しかし、違う点は廊下ではなく屋上だ。時間帯も一番ロマンティックに見える夕暮れ時。

夕日に染まった時間帯は緊張で赤くなった自身の顔の色も程よく消してくれるので完璧だという。



でも、これもヨシオのパターンと同じく、かなり有名な王道な告白シーンだ。

彼女も、屋上に呼ばれた段階である程度今後の流れが予想してしまうだろう。

そして、襲ってくる彼女からの攻撃

「あ〜、風景と私を比べて口説き落とそうとしているんでしょ?よくテレビで見ているから分かるわ。告白するならもっと捻ったことをしてほしかった。」

とか言われて、挙句の果てには

「私、機転がきく人が好きなの。凝り固まった話しかできないあなたとはやっていけない。さようなら」

となり、告白は撃沈すること間違いない。

言われることが完全にヨシオの時のパターンだな、おい!


「あああ安心してほしいんだな、ぼぼぼ僕の内容が面白くなるのは、こここれからなんだな」

マサル!今面白いって言ったな。完全に違う方向に進む気満々だろ。


「しっかし、ほんと祐介は顔に出るな」

「本人も気にし始めているから、あまり言ったらだめだよ」

もう、外野がほんとうるさい。

俺ってそんなに顔に出ているかな?

今度、手鏡を持ちながら自分のリアクションを確認してみよう。



「かかか彼女と話す場所は、おおお屋上の端、つ、つまり校外の様子が一番よく見える位置なんだな」

そして彼女の緊張をほぐしながら、話で盛り上がった頃合いに作戦を決行する。

もちろん俺もこのタイミングで彼女を落とすため、心臓はかなりバクバク言っているはず。


全ての頃合いを見計らい、彼女の背中にゆっくりと手を回す。


「なるほど、そして一気にがばっと抱きしめながら、告白するのか。確かにロマンティックだな。でもリスクも高いな。失敗したらかなり怖いぞ。平気で平手が飛んでくるかもしれねぇ」

でも、他の案に比べたらまだ、ましでよかった。

そう考え、ホッとしながらマサルに目を向けると、“これだから恋愛経験ゼロの奴は”みたいな顔をされたんだけど。

俺何かしたっけ。というか、ここに呼んでおいてあれだが、お前も絶対恋愛経験ないだろ。


「ふぅ〜。こここれだから恋愛経験がないやつは発想がなくて困る」

ほんとに言いやがった。

みたいじゃなく、マジで思ってた。

なんか泣きそう。


「こここここからは簡単」

彼女の肩に手を回し、

力いっぱい押します。

彼女、屋上から落ちます。

最後にあなたから一言

「好き(隙)(だらけ)です」

と。

「こここれで、ゆゆゆ祐介と彼女のことが全国に知れ渡るよ」。

これで万事解決。みたいな雰囲気を醸し出し、視線で何故か“よかったね”みたいに言われたんだが。


今日何度目か分からんけど、お前らアホだろ!

そりゃそうだろ。彼女を突き落としたら、状態に関係なく全国ニュースに載るだろうよ。

ニュースの見出しは“彼女を落とした男”ってなるじゃねーか。


誰がうまいこと言えって言ったよ。


「お前ら、3人集まっても何も知恵が出なかったじゃねーか」


俺の言葉に“他のメンバーは何を当たり前のことを言っているんだ、こいつは“という顔をされた。

「「「だって俺(僕)ら同じ男子校出身組じゃん」」」

そう。俺の周りにはバカしかいなかった。

今回の件で俺は学んだ。

3人寄っても知恵は出ないと。

そして、感情が顔に出るってこういうことを言うのだと。



はぁ、これからは気を付けよう。

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