第19話 隠しルート開放と立体化の呪い

 明け方に、声が聞こえた。

【ゲームを開始します。ヒロインが条件を達成しました。隠しルート、オープンします】


 それは、不思議でとても響く声だった。そういえば今日がゲームの開始にあたる日だなぁとぼんやり思った。もう第二王子なんてどうでもいいし、私はジャニスと結婚すると決めた。ゲームは私と関係ないと思って家を出た。


「おはようございます」


「おは……」





 ジャニスが出来損ないの立体化していた。





「なんでよおおおお!!!」


 私は絶望した。昨日までなんともなかったというのに!そこで、朝の声を思い出した。

 隠しルート。無駄にハイスペックなイケメン。中二病感漂う二つ名。はいスリーアウト間違いねぇ!お前は隠しルート攻略対象だったのか、ジャニスうううううう!!


「どうしたんですか、マジョリカ様」

「パイセンがうつったッスか、いてえ!暴力反対!」

「マジョリカ様、気分が悪いのですか?」


 三人に心配をかけてしまっている。信じてもらえるかは全くわからないが、私は状況をかいつまんで説明した。






「つまり、パイセンが出来損ないのハリボテに見える」


「お前もらしいぞ」


「…………」


 ジャニスの素敵な顔が見られないなんて悲しい。唯一の救いはゲームのジャニスを知らないので第二王子ほどは嫌悪感が出ない事だろうか。


「パイセン最大の取り柄がなくなったらどうなるんスかね……」


「マジョリカ様……」


 声だけでもわかる。ジャニスが私に捨てられるのではないかと怯えている。そもそも第二王子をポイ捨てした原因が3D化だし、まあそうなるわよね。


「ジャニス」

「はい」


「昨日、貴方は私に覚悟を見せてくれました。正直、貴方以上の男性はこの世に存在しないでしょう。もし一生このままであるというなら、私は視力を無くして貴方と結婚します」


「マジョリカ様…!」

「思いきりよすぎやしねえッスか!?それは最終手段にしましょうね!?」


「よかった……!私の頭がおかしくなったとかじゃなくてよかった……!」


 黙っていたショコラちゃんが崩れ落ちた。え?ショコラちゃんにも見えてるの!?


「大好きな乙女ゲー転生ヤッフー無双しちゃると思いきや、ハードモードスタートで生きるのだけで手一杯なところにお楽しみだった攻略対象が残念な立体ですよおおおお!ある日同僚も立体化ですよおおお!今日になったら先輩までですよ!辛い!本気で辛すぎりゅううううう!!」


 ショコラちゃんが泣いた。そうか……そうだったか。君もアレな。転生者ってやつだったのか。





「ぐしゅっ……すいません。改めまして、私はショコラ。ゲームにおける、好感度を伝えるサブキャラです」


「あ」


 一気に記憶が明確になる。いた、いたわ!ヒロインの護衛をしている騎士!好感度とか、お役立ち情報をくれてたわ!!あれがショコラちゃんか!


「そして、今はなぜかプレイヤーキャラでもあるようなのです。自分に対する他者評価と、プレイヤーキャラの評価が見えるようになりました」


「ゲーム開始の声は聞こえた?」


「今朝方に」


 情報量が多いな!ええと、もしかして、もしかすると……。私とショコラちゃんが出来損ないの立体に見えないのって……!


「まさか、私もプレイヤーキャラ扱いになってる?」


「そのようです。マジョリカ様のステータスや周囲の人の好感度確認が可能です」


 ショコラちゃんは画面を見せてくれた。私、名声値めっちゃ高いな。真面目にしていたからか、知識も魔力も高い。ゲーム後半並みのステータスだわ。さすが悪役令嬢。開始時点でこれって、チートだわー。


「うわぁ、マジか!あ、でもショコラちゃんに聖女の素養はあるの?私はまあライバルキャラの悪役令嬢だからわかるとして……」

「あるわけがありません」


 そう言って、ショコラちゃんはステータス画面を切り替えた。ショコラちゃんのステータスは、明らかに支援系だった。光属性魔法はなかった。


「ホントだ」


「なんで私もプレイヤーキャラ扱いなのかは不明です」


「微妙な立体に見える人に共通点は?」


「多分ですけど、エンディングがあるキャラなんじゃないですかね。第二王子殿下やエクレアが早い段階からああだったのは、回想イベントがあるからかと」


 ふむふむ、なるほど。だから先に立体化した人としてない人がいたわけね。


「じゃあ、エンディング条件を誰かが満たして攻略不可になったらどうなるかしら」


 私とショコラちゃんが同時にエクレアちゃんを見た。この場で一番条件を満たしやすいのは間違いなくエクレアちゃんだからである。


「え?な、なんスか!?つーか、カイソーイベントとかエンディングとかなんなんスか?」


「エクレアちゃーん、これなーんだ」


 私は小瓶を取り出した。


「こ、香水?」


「不正解!これはエリクサーでーす!」


「!?」


 エクレアちゃんは石化病という特殊な病気に罹った母のためにお金を貯めているのだ。彼女がお金にこだわる理由はそれである。


「お母さんを治しに行こー!」


「ええええええええええ!?え、エリクサーなんて、そんな簡単に人にあげたらダメじゃないッスか!」


それはそうか。私としてもなかなかの出費だったし。


「エクレアちゃん、この件が落ち着いたら、うちの子というか、私の専属護衛にならない?お給料いいわよー。エリクサー代を分割支払してもお釣りが来るわよー」

「なります!!」


「契約成立!給料とか細かいことは後日ってことで、今日は学校サボってエクレアちゃんちに行きましょう」


「うっす!」

「はーい」

「はい」


 ちなみに、ジャニスは話がよくわからなかったから黙っていたらしい。他の人達から見たら、エクレアちゃんもジャニスも、特に姿は変わっていないそうな。

 なんで私達だけ……とんだ罰ゲームだわ!

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