第17話 婚約者の立ち位置と部屋が気になる件

 しばらく庭園を散歩した。侯爵夫人の趣味なのか、なかなか素敵な庭園だった。温室もあり、年中花が絶えないよう季節ごとのエリアを作って楽しめるようにしているそうな。


「坊ちゃま、旦那様と奥様が到着しました」


「わかった。行きましょうか、マジョリカ様」


「ええ」


 ついに婚約者のご両親にご挨拶か!嫌われていたらどうしよう。不安に思いつつ、ジャニスの手を取った。





 美形であるジャニスのご両親なだけはあり、ご両親共にすごい美形だった。隣には年齢的にジャニスの兄と思われるイケメンもいる。ジャニスより穏やかそうな感じだ。

 緊張した空気の中、侯爵夫人が話しかけてきた。


「あの……このたびはウチの愚息が大変申し訳ございませんでした。公爵家のご令嬢をどのように脅したかは存じませんが、必ずや我々がなんとかいたします!ですので、もしこの婚約に何か不満があればいつでも解消を」

「母上。別に俺はマジョリカ様と無理矢理婚約したわけではないです」


「おだまり!お前の言うことはアテになりません!ね、もし殿方の前で話しにくければ、わたくしと別室でお話しましょう」


 とても侯爵夫人は優しげで、本気で私を案じてくれているのが理解できた。それはそれとして、身内によるジャニスの評価はどうなっているんだ?侯爵と多分ジャニス兄がジャニスを抑え込んでいる。

 私は婚約の報告に来ただけなんだけど……。


「あの、ジャニス様の話は本当ですわ。わたくし、王太子殿下からジャニス様を紹介していただきましたの。ジャニス様が提示した条件にピッタリでしたから、わたくしから婚約をお願いした次第ですわ」


「まあ……!!奇跡!奇跡だわ、奇跡が起きましたわ!あなた!!」


 侯爵夫人が泣き出した。そんなに?ねえ、そんなになの!?


「ああ、あのジャニスと婚約してくださるなんて……!ありがとうございます、本当に本当にありがとうございます!おお!女神に感謝を!!」

「どうか、どうか末永くこの愚息をお願いたします!ところで式はいつにいたします!?なるべく早くがいいですわよね!式場をおさえておかねば!ドレス、一緒に選びましょうね!あ、その前に婚約お披露目パーティですわね!!ああ、なんと良き日なのでしょう!神よ、神よ……心より感謝いたします……」

「もし何かあったら、国外逃亡できるようにしておきますね。気兼ねなく言ってください」


 侯爵夫妻の圧がすごい。泣きながらお礼を言われるとか、なんぞ。そして、最後の長男様はなんだ。この家でのジャニスの立ち位置って本当にどうなっているのかしら。


「ああ、あのちょっと出かけて来るとかいってちっとも帰ってこない挙げ句、帰ってきたらドラゴン獲って来たとか言いやがった上にまだ生きてて大騒動を起こしやがった馬鹿息子が……」

「見た目の良さで群がるご令嬢に見境なく心の傷を与えまくって鬼畜騎士なんて言われていたジャニスが……」


「「こんな素敵な婚約者を連れてきてくれるなんて!!」」


「ジャニス」

「はい」

「後で説明」

「します。うう……だから連れてきたくなかったんですよぅ……」


 盛り上がってる侯爵に対して、ションボリしているジャニス。くっ……ションボリされると慰めたくなるじゃないか!本当に氷の騎士はどこに逃げたの!?

 ちなみに鬼畜騎士の噂は私も知ってる。強引に近づこうとしたご令嬢がジャニスから言葉のナイフでめった刺しにされて再起不能になったとか。侯爵夫人が謝罪に行ったとも聞いた。被害者多数なんだけど、ほとんど私に敵意があるご令嬢達だったし相当強引な手段で近づこうとしてたようなので、なんとも思わなかった。因果応報ってやつよ。

 ドラゴンは今初めて聞いたけど、数年前に傷だらけのドラゴンが出た話があったよね。アレはジャニスのせいだったか……。というか、ドラゴン単独討伐できるって……ものすごいのでは??


「……とりあえず、獲物にはキチンとトドメを刺してくださいまし」


「ええ、もうしません」


 だから褒めて!と目線で言われた気がして、思わず頭を撫でてしまった。うむ、サラサラで良き撫で心地。


「あのジャニスが……」

「素直に言うことを聞くだなんて……!」


 いちいち侯爵夫妻の反応が大げさなのが気になる。流石にこれはスルーすべきではなかろう。


「ジャニス、貴方は何をどれだけやらかしたからご両親がこの反応なのです?」


「……昔、その……失恋して相当荒れておりまして……かなり……いや、だいぶ色々色々色々やらかしてまして……」


 色々が多すぎやしないか。


「……貴方の部屋との関係は?」


 侯爵夫妻とジャニス兄の尻尾がブワッとなった。なぜそれを!?と言わんばかりだし、使用人が転んだ。本当にどんな部屋なのかしら。


「私の部屋は特に関係ない……まあ、あるっちゃありますけど……私はあの部屋が好きなんですが、他の人はみんな嫌がるんですよね」


「ええと、わたくしもグロテスクなのとこう……えっちなのはちょっと苦手かしら」

「どんな部屋だと思ってるんですか!?そういう系統ではないです!!俺をどんな奴だと思っているんですか!?俺、別に臓物とか毒薬集めたりしてないですし、多分人に迷惑もかけてません!!そりゃ、年頃の男ですから性的なものが全く無いとは言いませんけども、それを周囲にひけらかすような特殊性癖はありません!!」


 流石のジャニスも動揺したらしく、一人称が俺になっているし、口調もやや砕けた。そして、涙目で私をガクガク揺さぶっている。動揺させればそのうちタメ口で話してくれるかしら。ちょっと荒い口調っていいわよね。萌えるわ。

 しかし、部屋の謎は深まるばかり。どういう系統の部屋なのかしら……。


「人に迷惑はかけてるよ。あの部屋怖いって使用人が掃除したがらないんだから」


 うーん、ホラー系?呪いアイテム収集とか?ものすごく気になるわ。ジャニスに揺さぶられつつ、色々妄想してみるのだった。

 

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