第16話 婚約者が事故物件な気配がする件

 ジャニスと共にウルフィディア侯爵邸へ到着した。


「大変だ!お坊ちゃまが婚約者様をお連れになったぞ!!」


「失礼のないよう、全力で歓待にあたれ!!しくじった馬鹿は減給も覚悟しろとの、侯爵閣下の仰せである!!」


『了解しました!!』


 この気合は何なのだろうか。それ、私に見せては駄目じゃないかしら。


「ええと……皆様元気がよろしいのね?」


「……良く言えばアットホームなんですが……悪く言えば暑苦しいんですよね」


「……なるほど」


 正しくそんな感じなので、否定できないわ。ジャニス本人は心底どうでも良さそうだ。


「ウザったかったら吹き飛ばしますので言ってください」

「ウザったくありませんわ!皆様親切で嬉しいですわ、オホホホホホホホ!」


 吹き飛ばしますのでって何するつもりだよ!?使用人さん達の命が多分ヤバい!





 応接室に通されて、食べきれないほどのスイーツと紅茶が運ばれてきた。執事らしき初老の使用人さんが頭を下げた。


「申し訳ございません。ただいま旦那様と奥様が参ります。少々準備に手間取っておりまして……本当に申し訳ございません。まさか坊ちゃまがこんなに早くお連れになるとは……うちの坊ちゃまの事だから来週か再来週……下手をしたら来月辺りかと油断しておりまして」


「ジャニス、今後お手紙はすぐ渡してくださいまし。わたくしも慌てて来てしまって申し訳ないですわ。先触れを出しておくべきでした。こちらの手落ちですもの、いくらでも待たせていただきますわ。貴婦人の準備は時間がかかるものと心得ております。どうか、ごゆるりと準備なさってとお伝え願えます?」


「はい……!なんと……人の心を忘れた坊ちゃまと違って、なんと寛大な……!伝えてまいります!!」


 やたら慌てていた理由は、ジャニスへの信頼感の無さからだったのか。ジャニスを軽く睨んだら、嬉しそうに微笑まれた。くっ!本当に氷の騎士はどこに行ったのかしら!?眼鏡の効果なのか、明らかに表情が柔らかくなっている。


「にーさまのおよめさま、ここ?」

「駄目です!今は駄目です!!お兄様に叱られますよ!」

「ちょっとごあいさつするだけだもん!」


「まあ……!」


 小さいジャニス……じゃなかった、ジャニスの弟妹かな?可愛い!何歳かしら?三歳ぐらい?


「わあ、きれい!およめさまはおひめさま?」

「わあ、すてき!きっとおひめさまだよ!」


 可愛い二人は、私に駆け寄ると両手を伸ばした。え?これ抱っこしていいの?ご褒美?


「わたしはねえ、ジュリよ」

「ぼくはねえ、ジュレだよ」


「双子の弟と妹です。おい、あんまりマジョリカ様にベタベタするな。羨ましいだろうが」


「え……私、可愛いから少しナデナデしてお膝に乗せたいですわ」


 駄目?お触り禁止?ねえねえ駄目なの??ジャニスに涙目で袖をクイクイ引きつつお願いしたら、少しだけですよと目を逸らされた!やった!ご家族の許可ゲッツ!


「わたくしはマジョリカ。お姫様ではないのよ。もう少ししたら、貴方達のお姉さんになるの」


 可愛い二人をナデナデする。耳に少しお触りできた。柔らかい毛並み……最高!!


「えー?にーさまのおひめさまだよ!」

「そうそう!にーさまのおへやでみたモガ」


 弟であるジュレ君の口を、悲壮な表情の使用人が塞いだ。


「ジュレ様、ジュリ様!もう駄目です時間切れですいきますよおおおおおおおお!!」



右にジュレ君、左にジュリちゃんを担いで使用人さんは走り去った。ここの使用人さんは落ち着きがなさすぎやしないだろうか。

 なんで皆して顔色が悪いの?さっきの言動に何か問題が?私に抱っこをせびるあたりはまだオロオロしていたぐらいだったけど……。


「……ジャニスの部屋?」


 ジャニス以外の全員がビクッとなった。やはり、このワードに反応して連れ去ったのだと思われる。


「おや、興味がおありで?なんの変哲もない、ごく普通の部屋ですよ」


「そうねえ。差し支えなければ見てみたいわ」


 使用人さん達が真っ青なんだけど、ジャニス本人は気にしていないみたいね。部屋や本棚はその人の人となりが出るというし、ジャニスが嫌でなければ一度見ておきたい。

 いずれ公爵邸にジャニスの部屋を作るだろうから、参考にしておきたいし。


「父も今日は城に出仕しているので時間がかかりますし、よければ案内を」

「坊ちゃま坊ちゃま坊ちゃま!アンタあの部屋見せるつもりですか!?流石にドン引きされますよ!色々と慣れてしまった私達でもあれはアウトです!婚約破棄されたくなければ、無難に庭園とか館内を適当に案内するだけにしといてください!婚約破棄!されたく!なければ!!」


 必死な使用人の声……一応小声なんだが、ばっちり聞こえてしまった。どれほどヤバい部屋だからここまで言われているのだろうか。すごく気になる。


「……ええと、やっぱりその、部屋は片付いてなくてですね。庭園とか、散歩しませんか?」


「ええ、喜んで」


 とりあえず、今は保留にしておくけれど後でジャニスにねだって部屋を見せてもらおう。即婚約破棄される部屋ってどんなのか気になるわ。


 まあ、よほどでないかぎりジャニスを逃がすつもりはないけどね。


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