第15話 婚約者と眉間のシワ
学園を出たところでエクレアちゃん達は報告に戻るとのことだった。待ってくれ。この微妙な雰囲気の中、ジャニスと二人きりですか!?ジャニスも連れて行くか、もう少しいて欲しい!
じーっとエクレアちゃんを見たが、目を逸らされた。
「マジョリカ様、サーセン!自分、命が惜しいッス!さっきからパイセンめっちゃ殺気飛ばしてくるんスもん!」
「申し訳ありません……。予想以上に第二王子殿下がアレだったので……早急に報告しようと思います。先輩、あまりマジョリカ様を困らせると嫌われますよ。あと、二人きりになりたいのはわかりますが、余裕のない男って微妙ですよ?公私混同しないでください」
「ぬぐっ!」
流石に嫌われたくはないのか、ジャニスがダメージを受けた。なんだかんだでショコラちゃんも毒舌よね。
「そっスよ。あと、マジョリカ様見るときの眉間のシワどーにかならねッスか?金あるんだから眼鏡買えばいいじゃないッスか」
「眼鏡なんてしていたら、視力が悪いと知られるだろう。あんな割れやすいものは非合理的だ。視力を強化すればマジョリカ様を視るには問題ない。あんなガラス越しではなく、裸眼で視たい」
もしかして、ジャニスが私を見る時いつも眉間にシワを寄せていたのは魔力で視力強化していたか らってこと??つまり私……ジャニスに嫌われてなかったのかな?むしろ……いや、やめよう。
それが違った時に受けるダメージが計り知れない。羞恥心で悶え転がるのは勘弁だ。
「まあ……ジャニスは眼鏡、似合いそうですわね」
冷たい氷の眼鏡騎士……ありではないだろうか。見てみたいし、もしかしたら眼鏡がなければ穏やかな表情でこちらを見てくれるのではないかな?眼鏡をかけたジャニスが見たいなー、と念を込めて見つめてみた。
「実は以前から眼鏡に興味がありまして」
「変わり身はやっ!!」
「いいからさっさと報告してこい。マジョリカ様の護衛はこのまま俺が継続する」
エクレアちゃんにジャニスのゲンコツが落ちた。私も変わり身すごいなと思ったよ。とりあえず、私の願いは叶いそうだ。
「いったーーー!暴力反対!パイセンサイテーッス!ショコラ、行くっスよ!」
「あ、待って。マジョリカ様、また明日伺いますね!」
「ええ、また明日!」
走り去る二人を見送った。
「では、眼鏡を見立てていただけますか?」
「ええ、もちろんですわ!」
今日も楽しくお買い物タイムの予感!金持ちって楽しいなー!
私が経営する眼鏡と時計を扱う工房へ。確かこの店は男性物を多く取り扱っていたはず。
「うわ……日常生活不便じゃなかったでしたか?よくこれまで眼鏡無しで生活できてましたね」
ジャニスの視力を計測した技師さんが呻いていた。
「そんなに視力が悪いんですの?」
「この視力では、手元ぐらいしかまともに視えませんよ」
「魔力で強化すれば問題ない」
そうは言うものの眉間にシワが……。
「常には無理ですし、余計目に負荷がかかりますよ。あまりいいとは言えません。お嬢、これですとぶ厚さを抑えるために圧縮レンズが良さそうですね。服からして騎士様でしょうから、耐衝撃付与は当然つけますよね?」
「ええ、私の婚約者ですもの!最高の物を用意してちょうだい。お金に糸目はつけなくてよ!壊れにくいとなおいいわ!」
「はいはい。予算は考慮せず最高品質で、ですね。承りました。レンズの用意をしますので、フレームを選んでいてください」
ズラッと並んだフレーム。あれこれと試してみる。
「はわぁ……どれもいい……素敵よ、ジャニス!」
私、別に眼鏡萌えはなかった。なかったのだ。裸眼の方が好きだったはずなのに……ジャニスの眼鏡はいい!!新しい萌えに目覚めてしまいそう!
そういえば、私はこういったものに飢えていたのかもしれない。萌えは生きる活力よね!婚約者萌えって良いかも!
「楽しそうで何よりです」
「ああ……シンプルなスクエア?少し怜悧さを抑えてくれる丸眼鏡?あ、これもいいわ!宝石をあしらっているのね!」
似合いすぎて選べないわ!もう、全部お買い上げしちゃおうかしら!
「ええと……普段遣いできるものと夜会用を買います。選んでいただけますか?その……マジョリカ様がいいと思ったものを使いたいです」
「わかりましたわ!」
責任重大!なんとか絞りに絞って選ぶことに成功した。私はどちらかというとジャニスの怜悧な感じが好きなのでスクエア型のシンプルなものと宝石をさり気なくあしらった夜会用の眼鏡をチョイスした
。先日購入した礼服とも合っている。
「決まりました?レンズ入れまーす」
この店の良いところは、お金を余分に払えばすぐに加工してくれる所だ。眼鏡はすぐに出来上がった。
「すごい……くっきり見えます。マジョリカ様がくっきり……なんてことだ……こんなにマジョリカ様がよく見えるなら、レンズ越しに見るより裸眼でなんて意地を張らず、眼鏡を作っておけばよかった……!!これまでの人生を損していた!!」
彼はどれだけ私が見たいのだろうか。とりあえず店の床で転がるのはやめてほしいので、話題を変える事にした。
「これからいくらでも見たら良いでしょう!それより、いつから視力が悪かったの?」
「ええと……五年前ぐらいですかね。アシッドスライムがしこたま出たことがありまして。あれ、魔法じゃないと退治が厄介なんですよ。潰した時に目に酸が入っちゃいまして……あ、こういうのがあれば潰してもいけますかね?」
そう言って置いてあったゴーグルタイプの眼鏡を手に取った。
「それ、失明しかけたのでは!?」
「まあ、そうですね。家族にも心配をかけましたねぇ。それで、今思い出したのですが」
「はい」
「そういえば、これを母から預かっておりまして。すいません、渡すのを忘れておりました」
「はい?」
ジャニスのお母様から?渡された手紙を開封して中身を読む。
「ジャニス!のんびり眼鏡を買っている場合ではなかったじゃないですか!貴方、ご招待だって聞いていたのではなくて!?」
手紙には、今日簡単な顔合わせがしたいから、学校が終わってから来てほしいと書かれていた。これ、いつ受け取っていましたの!?少なくとも今朝ではない気がするわ!ジャニスを睨みつけると、珍しく耳がへにょりとへたった。
「……あんまり、連れて行きたくなくて……それより、マジョリカ様とデートがしたくて……」
「ぐぬっ!」
顔の良さを自覚してか、その顔でションボリされると責められない。言ってる内容も可愛くて責められない。クール騎士はどこに行った!?か、可愛いじゃないの!!
「と、とにかく急いで行きますわよ!」
「はい」
ちなみに眼鏡は素早くジャニスが支払った。私が買ってあげたかったのにー!
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