第14話 (元)婚約者候補とマジョリカ

※マジョリカ視点に戻ります


 ランチから戻ったエクレアちゃんとショコラちゃんはなんだかご機嫌斜めだった。


「ランチ、口に合わなかった?」


「いえ、激ウマでしたッス!ゴチになりました!」

「大変美味しかったです」


 ご飯は美味しかったらしい。つまり、他の要因で不機嫌になっているわけだ。


「第二王子殿下が私の悪口でも言ってまして?」


「ぐぬっ」

「えふっ」

「すいません、ちょっと用事が」


「ジャニス、お待ちになって」


 素早く教室から出ようとしたジャニスを呼び止める。顔が怖い。美形の怒りに満ちた微笑みって凄みが増すのね。


「なんですか?今すぐ息の根を」

「こちらが手を汚さずとも、アレは自滅します。何も私は悪いことをしておりませんもの。堂々としていればよいのです」


 出る杭は打たれる。私がなぜ巨万の富を得ているのか。権力が集中する危険を犯してまで第二王子を差し出したのはなぜか。いい機会だから、お馬鹿さん達に知らしめてやろう。

 愛しの婚約者殿に、そう言って不敵に微笑んでみせた。


「マジョリカ様……」

「ヤベェ、かっけぇ……」

「素敵……」


 とりあえず、ジャニスと女性騎士二人は実力行使をやめてくれたようだ。よかったよかった。




 そして放課後。香水臭い候爵令嬢……名前が思い出せない。なんだったかしら。


「マジョリカ様、ちょっとお話がございます!」


「伺いましょう」


「第二王子殿下に対して酷すぎます!」


 え?このまま立ち話?公開処刑になるけどいいのかしら??まあ、いいか。私に牙をむくのがどういう結果に繋がるのか、いい見せしめだ。


「具体的には何がどう酷いのですか?わたくしが殿下に酷い扱いを受けていたことはありますけれど、わたくしは特に何もしておりませんわよ?」


 本当にわからないので首を傾げる。こっちは相当色々迷惑行為をされているが、何かしただろうか。


「あなたが経営する店、殿下を入店拒否したそうね!」


「ほぼ全ての店に借金がありますから、仕方ないですよね?」


「え」


 場がシン、と静まり返った。あらやだ、皆さん聞き耳を立ててらっしゃるわ。


「わたくし、特にその件に関して手を回しておりませんわ。ただ、婚約は白紙撤回になったと通達しただけですの。これまではいずれ第二王子殿下のものになるからとお代を頂いておりませんでしたが、白紙撤回いたしましたので請求しておりますの。とは言っても、額が額ですのでここ三ヶ月分だけとしておりますけど……それでもかなりの額ですの」


「国一番の富豪と言いながら、ヒールディア公爵家も大したことないのですわね!婚約を白紙撤回したからってお金を返せとせびるなんて!意地汚いですわ!」


「あら、いつから貴女は我が家に意見できるほど偉くなったのかしら?」


 なんというか、うかつな子だなぁ。いい見せしめだね、本当に。これだけムカつく子なら、遠慮なくボコれるわ。私、喧嘩を売られて大人しくしているほど性格良くないからね!

 候爵家の分際で公爵家を馬鹿にしておいて、タダで済むわけないでしょう!


「あ……」


「大した事ない公爵家の本気、見せてあげましてよ。明日から、楽しみですわね」


 謝罪する事もせず、真っ青になって震える侯爵家の……なんだったかな?名前が本当に思い出せないわ。


「貴様!何をしている!」


 あら、空気を読まないアホが来ちゃったわ。


「別に、何も?もう用事はないようですので、私はこれで失礼します」

「待て!」


 ジャニス、エクレアちゃん、ショコラちゃんが私を庇おうとしたが、今はいいと目で合図した。


「……何か?」


「何かではない!モーブルが震えているではないか!」


「そうですね」


 身の程知らずが喧嘩を売って返り討ちにあっただけだけども何か?震えてるからなんだと言うのか。


「貴様、モーブルが俺と親しくしたからと脅したのだろう!」


「はい?」


 馬鹿なの?アホだよね。一度死んだら治らないかしら?


「そこのご令嬢はよくわかりませんが、いきなり我が公爵家が大した事ないと誹謗中傷してきたので、大した事ない公爵家の本気を見せてさしあげますわと申しただけです。脅したというか……自業自得もいいところではありませんこと?そもそもそちらのご令嬢に、殿下が自分は嵌めらたのなんのと事実無根な話をしたから、まんまと騙されて私に噛みついたのですわ」


 残念な候爵令嬢が真っ青になってアホを見る。


「俺は騙してなどいない!貴様が俺を嵌めたのだ!」


「そもそも、もし仮にそうだったとしても嵌められた殿下が迂闊だったというだけでしょう?自衛できないと言っているようなものですわ。それに私の財産を思う存分使った挙げ句、相談もなく私の店を担保に借金までしたのはどなたでしたかしら?」


「え……」


 これにはうっかり候爵令嬢もドン引きだねー。そりゃ、他人様の店にまで手を出してるんだもん。


「お前の店は俺の物になると、言ったのはお前だろうが」


「ええ。わたくしは貴方と結婚するつもりでしたからね。わたくし、ずっと殿下を許してきましたわ。浮気をしても、反抗しても、どうせ私の手の内でしたし。でも、もう流石に愛想が尽きたのです。そう、殿下を嵌めたのでなく……わたくしが、殿下を、捨てたのですわ」


 嫣然と馬鹿な元婚約者候補に微笑んでみせた。

 馬鹿な元婚約者候補は、ポカンと口を開いたまま固まっている。


「おかげさまで、私はマジョリカ様の婚約者となれました。それだけは心より御礼申し上げます」


「ふふ……そうね。わたくしも貴方と婚約できて幸せよ」


 ぶっちゃけ、第二王子は色んな意味で次元を超えた美形だが、ジャニスもジャニスでものすごい美形だ。毛穴はどこだ。まつ毛長い。これは本当に人間……いや、獣人だったな。なんでもいいけど、見れば見るほど美しい。


「……あの、マジョリカ様……ち、近いです」


「嫌?」


 またしても真顔になる婚約者に首を傾げた。どうもこの真顔、嫌がっているわけではないようだ。


「嫌ではないのですが……理性がブチ切れて襲いかかりかねないので……困るでしょう?いくら婚約者でも」


「………はーい」


 それは困るのでそっと離れた。そういうことは是非お早めに申告していただきたい。つまり、我慢した顔だったのかしら??この婚約、早まった?

 ジャニスと気まずくなりそうだったのもあり、とりあえず固まっているアホを放置して学園を後にしたのだった。

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