第11話 ドン底の(元)婚約者候補VS護衛達

 学校まで馬車移動する際に護衛について確認した。基本は二人がつき、一人が休憩または補助という形式。本日は顔合わせと学校内の確認のために三人とも来たそうなそりゃ、ずっとつくわけにはいかないものね。


「騎士様って大変ね。なるべく迷惑をかけないように気をつけるわ。配慮したほうが良いことはあるかしら?」


「「……………」」


 なんで女性騎士二人は口を開けてポカーンとしているのかしら?ジャニスは……真顔で私を見ている。え?何かおかしなことを言ったかしら?


「ええと……ないの?」


「いえ、マジョリカ様の天使っぷりに気が遠くなりました」

「どういうことなの!?」


「うおお……マジ天使っすわ!なんスか?なんなんスか!?普通の貴族令嬢様って、アタシを虫ケラみたいに扱うもんじゃねぇんスか!?」

「いや、それは流石に人によるわ。私だってそこまでの扱いはしたことないわよ!?」


 つまり、普通の令嬢ならお前らが合わせろとなるわけね。


「それは合理的でないでしょう。貴方達は王太子殿下の命令でここにいるのです。私は貴方達の主人ではありません。仕事なのだからある程度は互いに配慮すべきと考えたのですわ」


「とりあえず、アホを見たら逃げましょう。あと、人が多いと警護がしにくいです。そのぐらいですかね」


 ジャニスの言葉に二人も頷いた。アホって第二王子よね?アホで通じてしまうのね……。城での第二王子の扱いはどうなっているのか気になったが、聞かない事にした。もう関係ないからどうでもいい。





学園についたので、ジャニスがエスコートしてくれた。手を取って馬車から降りる。校舎入り口の所に、キノコが生えそうなアホがいた。地べたに座り込んでボケっとしている。


「見ちゃダメッス」

「言ったそばから……どうやって排除します?」

「チッ」


 ジャニスが舌打ちしたような?ええと……とりあえず視線を合わせないように……?

 とはいえ、気になるわ。それとなく観察してみたが、服もツギハギである。一応第二王子なんたし、服ぐらいまともな物でよかったのでは……?

 あの服から王太子殿下の深い怒りを感じるわ。相当絞られたのか、ヨボヨボのシオシオである。ゲーム画面だとなんとも思わないが、現実で見ると正直キモい。もはや宇宙人……。


「他の生徒に紛れて行くしかないッスかね?ちくせう、アタシにもっと身長と筋肉があれば、お嬢様を隠してあげられたのに!」


「エクレアさんはそのままが可愛くて良いと思いましてよ?エクレアちゃんと呼んでもよろしくて?」


「お好きにどぞッス。パイセン、やべッス!天使がアタシにちゃん付けしてくれるらしッス!いくら払えばいいんスか!?」

「ううう羨ましい!マジョリカ様!私も!私もどうかショコラちゃんと!!」


「お前ら、いい加減にしろ!マジョリカ様、どうか私をジャニスと呼び捨てにしてくれませんか。婚約者だしいいですよね?ね!?」


「ええええええええええ……??」


 い、いいのかしら?まあ、本人達のお望みなわけですし?


「ショコラちゃん、ジ、ジャニス?」


 うう、流石に呼び捨てはちょっと恥ずかしいわ。


「ありがとうございます」

「すいません、おかわりをお願いできますか。私だけ疑問形でしたし、もう一回!」


 ショコラちゃんは満足してくれたが、ジャニスはなんとおかわりを要求してきた。おかわりってなんぞ!?けどまあ、確かにどもったし疑問形だったからやり直し要求ってことよね。なら仕方ないわ。


「ジ、ジャニス……も、もう、恥ずかしいから嫌ですわ!」


 またしてもどもったのが恥ずかしくて早足で校舎に向かう私。第二王子の存在などすっかり忘れていた。


「……マジョリカ」


 あ、ヤバい。第二王子と、ばっちり目が合ってしまったわ。名前を呼ばれて反射的に立ち止まりかけたところで、即座に後ろからエクレアちゃんが押してきた。


「ハイハイ、後ろつかえてますからー、サクッと進みましょーッス!サクッとねー」


「待て」

「ハイハイハイハイ、遅刻してしまいますよー、マジョリカ様。ハイハイハイハイ、行きましょう行きましょう」

「私はゴミを片付けてから行きます。任せましたよ」


 素晴らしきかな、連携プレイ。後ろから押すエクレアちゃん、近寄れないよう進行方向をさり気なくガードするショコラちゃん、第二王子の首根っこを掴んでいるジャニス。

 最後はいいのかしら?第二王子の護衛が涙目なんだけど??


「任されましたッス」

「はっ!必ずやお守りいたします!」


 結局第二王子は私に話しかけることもできずに連行されていった。うーん、シュールな絵面だわ。


「すいませんッス。アホに文句の一つや二つや六つぐらいありましたッスよね?」

「咄嗟に動いてしまいましたが……今からでも追いますか?我々がいれば流石のアホ……第二王子殿下も手出しできませんし」


 エクレアちゃん……そんな堂々とアホって言っていいのかしら。ショコラちゃん……それ、言い直してしまうとアホ=第二王子ってバレるから不敬罪が適用されかねないわよ?まあ、今はそこまで王権が強くないからこの程度では問題ないでしょうけど。

 私がなんとなくアホを眺めていたから、ふたりとも気を遣ってくれたのね。うん、護衛が彼女達で良かったわ。


「まあ、そのうち話すこともあるかもしれないし、今は別にいいわ。ありがとう、二人とも」


 二人の頭を撫でたら、真っ赤になって固まった。あ、失礼だったかしら。二人とも既に働いている立派な騎士様なのに!


「うおお……やべぇッスわ。とんだ貧乏くじ任務引いたと思ったらまさかの大当たりだったッスわ……」

「えへへへ……マジョリカ様から撫でてもらっちゃゃったぁ……」


 お詫びも兼ねて、お昼はなにか奢ろうかしら?エクレアちゃん、奢りが大好きだものね。ショコラちゃんは……怒ってはなさそうだから、大丈夫かな?

 とりあえず、三人のおかげで無事教室にたどり着いたわけだが……。


「ずるいです!何故……何故エクレアとショコラは良くて私は駄目なんですか!?」


「えっと……恥ずかしいからです」


「くっ……!これはこれで美味しいが……ずるい!私も……!私もマジョリカ様に撫でられたい!褒められたい!」


 二人から撫でられたことを自慢され、床は土足なのに絶望したと伏せているジャニス。クールな氷の騎士はどこに夜逃げしたのかしらね。

 もう、これやらないとこのまま騒ぎ続けるのだろう。仕方ない、女は度胸だ!


「よしよし。私のために頑張ってくれて、ありがとうね。感謝していますわ、ジャニス」


 うわ、すっげぇ嬉しそうな顔からの……目ぇかっぴらき。いや、普通に嬉しそうにしてよ!その顔、怖いから!!


「うわぁ……パイセンがガチデレてる。キモぉ」

「ええ……いくら婚約者といえど、プライドは何処へ……?流石にドン引きですわ」


「すいません、マジョリカ様。ちょっと片付けてきます」


 あ、これヤバい。エクレアちゃんとショコラちゃんが始末されるやつ!!


「ひ、一人にしないでくださいませ!」


 必死でジャニスの腰にしがみつく。この腕に(多分)二人の命がかかっている!!


「ええと、その……あ、後で特別にご褒美をあげますから……ね?」


 ジャニスはこちらを見たまま、目をかっぴらいたままで硬直した。美形とはいえ怖いんですが……?そして相変わらずどういう反応なんだろうか。


「助かりましたッス。このご恩は一週間ぐらい忘れねッス」

「ええ……危うくうっかり発言のせいで殉職するところでした……。このご恩は一生忘れませんわ」


「ええと、うん?」


 まだジャニスは固まっている。授業が始まっても固まっていたのだが、大丈夫なのだろうか。彼は授業が終わるまで固まっていた。

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