第10話 婚約者とその同僚
今日からジャニスが護衛になる。わくわくして玄関を出たら、こけしがいた。
そっとドアを締めた。再び開けた。やはりこけし……いや、こけしみたいな人間だった。
「マジョリカ様、おはようございます。……そのネックレス、つけてくれたのですね……?嬉しいです」
「ヒッ!?おおおおはようございましゅ!」
至近距離からの甘いイケボ爆弾に腰が抜けかけたが、即座に支えられた。今日も無駄にイケメンな我が婚約者様の仕業である。
「……すいません、ちょっとした茶目っ気だったのですが……」
「その茶目っ気爆弾、私が転倒しかねないので控えてくださいね。くっ……私は、イケボになんて負けない……!」
至近距離イケボの破壊力たるや……!足に力が入らないんだが!?めっちゃガクガクしてるううう!
「……何と戦っていらっしゃるのですか?」
「ジャニス様の声が良すぎて腰が抜けたんですよ!足に力が入らないんですよ!耳元でイイ声出すのは極力やめてください!」
「…………ぐふっ……はい……ここぞで使います」
だから使うなって言ってるだろうが。人の話をちゃんと聞け!くそう、支えてもらってる手前、強く言えない!
「……仲良いッスねー」
こけしが遠い目をしていた。もしや、このこけしが護衛の女性騎士?よく見たら、このこけし……ゲームの友情エンドキャラでは!?
気がそれたせいか、ようやく足が動くようになった。イケボ怖い。改めて、こけしっぽい女性騎士を観察する。
「ドーモ。近衛騎士のエクレア=コルケティッシュでーす。好きなものはお金。好きな言葉は臨時収入と奢りです。よろしくお願いしまーす」
そうそう、見た目こそちっちゃ可愛いけど、彼女の友情エンドにはお金がいる。そして、冒険パートでその真価を発揮するのだ。エグいほどに強いサブキャラ……メインキャラをろくに育てていなくても、金さえあればズバッと解決してくれるチートサブ!周回の強すぎる味方!!
その名は、エクレア=コルケティッシュ!!周回必須のゲームだったので、それはもう大変お世話になりました!!
「とても頼もしいわ!エクレア様がいれば、どんな敵も木っ端微塵ね!」
「え……」
「はい??」
エクレアとジャニスが目を丸くする。
「パイセン、アタシの事を赤薔薇の君に話したんスか?」
「言ってない。日常会話だけで手一杯の俺に、そんな余裕はない。隣に立つだけで尻尾がヤベぇんだぞ。言ってない、多分」
あら?ジャニスって実は口が悪い?やだ、萌える。ああ、そういうこと。小柄なエクレアはどう見ても弱そうだ。その彼女にかける言葉としては不適切だったか。あと、赤薔薇の君って……私なのか??
どうしたものか。適当に言っとくかな?
「商売をする者は、耳が良くなくてはね。これからよろしくお願いするわ。働きによっては、私から個人的な心付けもあるわよ」
「誠心誠意働かせていただくッス!犬と呼んでくださいッス!わんわん!!」
いや、呼ばないからね?お金じゃないけど甘味も好きだったはずなので、オヤツにするつもりだった金平糖をあげたら『糖分ヒャッフー』と大変喜んでいた。可愛いな、こけし……じゃなかった、エクレアちゃん。
「……低俗」
あら?こけしのインパクトで気がつかなかったけれどもう一人いたのね?明らかに貴族令嬢って感じだわ。攻略対象だけがこう……微妙な立体になるのかな?この人は普通だ。態度が悪いから無視するけどね。聞こえてたぞ?誰が低俗だって??
「さあ、行きましょうか」
「ちょっ!?」
「……何か?」
「ぐぬっ……!」
本当は高位貴族にご挨拶する場合、高位貴族から声をかけ、聞かれたら名乗るっていうのが正しいマナー。エクレアはマナー違反なのよね、可愛いから許すけど。意地悪はこのぐらいにしてあげますかね。
「あなたはどちら様かしら?」
「わ、わたくし、近衛騎士第七部隊所属!ショコラ=ガットですわ!よろしくお願いいたします!」
「別名、親の七光り騎士ショコラです」
「なんですってぇ!?貴女、平民からの成り上がりの分際で生意気なのよ!!」
ショコラがエクレアに掴みかかる。王太子殿下、これはどういう人選なわけ?昨日寝かせなかった仕返しなのかな?どう見てもショコラとエクレアは相性が悪いんですけど。
「はいはい、これからしばらく私の護衛なのですから、仲良くね。心付けが遠のくわよ、エクレア」
「大変申し訳なかったッス!」
「だから、言葉遣い!貴女、実力はあるけどさっきからマジョリカ様に失礼すぎるのよ!!」
あーあーあー。そういう人選か。女性ながら実力があるエクレアと、実力はないが貴族としてのマナーは完璧なショコラ。でも、仲が悪いみたいなんですが?
「……流石はマジョリカ様。あの二人を一瞬で鎮めるとは」
私(の金の力)でどうにかしろって事なのかしら。まあ、ショコラはともかくエクレアはお金でどうにかなりそうだからいい……のかしらね?
「そろそろ本気で遅刻しそうだから、行きましょう。喧嘩する子は馬車に乗せずに走らせるわよ」
「「大変申し訳ありませんでした!!」」
どうでもいいけどこの二人、謝る時だけ息がピッタリだなと思った。
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