第9話 (元)婚約者候補兄の苦労
ディナーの後は名残惜しいが、解散となった。
「ふふ……」
今日は楽しかった。ジャニスと婚約してよかったわ。明日は何をしようかしら。
そして、家についた私を王太子殿下が待っていた。まだ本日は休めないらしい。
「待っていたよ……」
「申し訳ございません。まさか本日いらっしゃるとは思っていなかったもので」
いつも飄々としている王太子殿下にしては珍しく、大変お疲れのご様子だ。軽い嫌味にも反応がないとか、かなり重症と見た。
「ええと、疲労回復効果効果のあるお茶があったわよね?それをお願いするわ」
「ありがとう……いやもう、予想していたよりも弟がクズで申し訳なかった……」
本当に珍しい。ガチでへこんでいるらしい。アレがクズなのは今に始まったことではないが……。
「ああ、請求書ですか?」
「君にあれだけ借金があるのに、あの仕打ちってどうなんだ……!」
それはその通りなので、否定も肯定もしなかった。まあ、それを許していた私も悪い。愛を得られないのなら、せめてお金やプレゼントで相手を縛ろうとした結果でもある。
それでも、人は思い通りになんてならない。高い勉強代だったわ。完全に時間とお金の無駄ってやつね。
飲食代だけでその反応はないだろうから、他の店舗も一斉に城へ請求書を送りつけたのだろう。皆、耳と仕事が早いわー。
「……まあ、あの額を一括で支払ったら国庫がすっからかんになるでしょうから、直近三ヶ月分を分割支払いで手を打ちましてよ。いい婚約者を紹介してくださった王太子殿下に免じてね」
「情けない話だが、本当に助かるよ……」
まあ、他店舗も全額回収できるとは思っていないだろうし、この辺りが落とし所だろう。不足分は私財からの補填とする。
それでも返済に何年かかるかしら。最近の散財は、本当にすごいのよね。人の店をなんだと思ってるのかしら。
「いいえ。これからが大変だと思いますわよ?一度いい生活をした人が、いきなりドン底極貧生活ですのよ?殿下、私に第二王子殿下を近づけないようにしてください。それが借金低減の条件です」
「了解した。聞くかはわからないが、アホによーく言っておく。それから、ジャニスをしばらく君につける。アレは弟に容赦しないし、本人も大喜びで君の警護をするだろう」
「まあ」
ということは、明日からずっと一緒?やだ嬉しい。本当に私の警護がお仕事になってしまったのね。
「外聞もあるから、近衛から女性騎士もつける。場所によってはジャニスをつけられないからね」
「配慮に感謝いたします」
それなりに敵も味方も多いので、女性騎士は助かるけど……仲良くできる人だといいなぁ。
それにしても、明日からが楽しみだわ。第二王子、どうなるのかしら。いきなりみすぼらしくなるのかしら?話したくはないけれど、遠目で見てみたいわ。
「しかし、君の店だけでなく投資詐欺にも引っかかったらしく他所でも借金があったんだ……。君との婚約白紙撤回が漏れたからか、そっちからも支払い請求が来てね……もうどうしよう……」
「えええ……」
第二王子陣営どころか、王太子殿下も大打撃か……。
「それ、投資詐欺と繋がっておりませんこと?少しこちらでも調べますわ」
割と昔からよくある詐欺なのよね。マッチポンプというか……今すぐお金を出さないと損ですよ……って焦らせて、すぐ近くにある高金利の金貸しに借りさせるってやつ。
「こちらに」
我が家の執事が書類を持ってきた。私の思った通り、詐欺師と金貸しは繋がっているようだ。
「まあ、流石ねぇ」
「いざという時には、これで借金を帳消しにする代わりにお嬢様から手を引くようお願いするつもりでございましたから。王太子殿、僭越ながら申し上げたいことがございます」
「……申してみよ」
「第二王子殿下は、他にもいわゆる闇金からの借金がございます。お嬢様に無断で店舗を担保にしておられます」
「「え」」
私と王太子殿下が固まった。予想を遥かに超えたマイナスぶりである。追加の書類がドサドサと机に置かれる。山積みというやつだ。
「まあ、私の店舗は第二王子殿下ではなく私の物ですからこの契約自体は無効ですけど……これ、第二王子殿下が詐欺で告訴されるかしら」
「いいえ、違法な金利ですから訴訟はないでしょうが店舗への嫌がらせはあるやもしれませんな」
「えええ……もう仕方がないから、闇金融を摘発しましょうか。そうすれば借金もクソもありませんわ。そもそも詐欺は犯罪ですし、この金利はどう見ても暴利ですもの。王太子殿下……今夜は寝かせませんわよ☆」
「ああ……あんのクソ弟……今度というばかりは許さん……!!」
主に私の執事がもたらした情報によって、闇金融の一斉摘発が起き、翌朝の新聞を賑わせたのだった。
どちらかというと寝れなかったのは王太子殿下と騎士様達でしたわね。私はぐっすり寝ましたわ。
恨むなら、第二王子殿下と闇金融の人達にしてください。今回、私はどちらかというと被害者ですもの。情報提供の報奨とアホが私の財産を勝手に担保としていた件についても、第二王子からきっちりお支払いいただけるとのこと。
これこそ、因果応報というやつですね。悪い事って、できないものですわ。
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