第7話 婚約者と金銭感覚と獣人的常識

「お嬢様、折角ですからこの際お嬢様のドレスと婚約者の礼服も揃いで仕立てては?そのネックレスに合うものをお作りしますよ」


「まあ、それはいいわね」


 気が利く支配人が、揃いのドレスと礼服を提案してくれた。揃いの意匠なら、着ているだけで私達はラブラブな婚約者ですよとアピールができる。


「プレゼントします」


「貴方、私にお金を使いすぎよ?昨日の薔薇だってこのネックレスだって、かなりの額でしょうに」


 見た目こそ華美ではないが、アミュレットなので普通の装飾品とは一桁ほど値段が違う。


「それを言うなら、マジョリカ様ですよ。さっきの人、噂の鍛聖ですよね!?気が遠くなってされるがままでしたが、あの人の剣は値段がつけられないレベルのシロモノですよ!?」


「うっ……!?」


「しかも、なんですか!?神聖銀にオリハルコンに、ヒヒイロカネ!?聖剣でも作らせるつもりですか、あれ!」


「うう……」


「このアミュレットもです!歩く財産と化してるじゃないですか、俺というか近衛の制服!魔改造もいいとこですよ!マジョリカ様が楽しいならいいかなと思ったけど、俺に金をかけすぎです!」


 脳内に歩く身代金なお坊ちゃんが出てきて笑いそうになった。ここは笑うところじゃないわ。


「うぐぐっ……」


 しかし、正論すぎて反論できない。彼の制服はアミュレットにより魔改造され、ちょっとした財産になっている。既に小さめの城ぐらいなら買えるお値段だ。


「事業家である公爵令嬢にとって、大した出費ではなくてよ!お金は貯めるだけでなく回してこそ!それに、命はお金で買えなくてよ!これは必要経費……そう、必要経費なのです!」


「なら、俺がお返ししてもいいですよね?もらうだけの関係はいつか破綻します」


「ぬぐうっ!?」


 正論すぎて何も言えない!


「では、お互いがお互いにプレゼントということでいかがですかな?」


「「そうしましょう」」


 気が利く支配人のおかげで、不毛な会話は終了した。お互いの服を選ぶことに。先程のファッションショーは無駄にならなかった。しかし、モデルが良すぎて選べない!


「マジョリカ様、これなんていかがです?」


 逆にジャニスはあっさりデザインを指定してきた。マーメイドラインのドレスか。今まで第二王子の好みに合わせてプリンセスラインばかり着ていたから、新鮮だわ。


「試着してみますね」


 似合わなかったらショックだなぁと、似たタイプのドレスを試着したら……うおお、すげぇ。


 ボインボインのお胸に、シュッとした腰。ムチムチのお尻が強調されて、エロい。エロ美しい。乳が少しキツイなー。ううむ、流石は美しき悪役令嬢。完璧なプロポーションである。そして、ドレスがこのエロパーフェクトな身体をさらにエロく魅せる。首から胸元のレースが透けて、谷間がくっきり乳がムチムチ。これはエロい。さらに、体にピッタリしたマーメイドラインは、プロポーションの良さを強調する。素晴らしいな!!プリンセスラインドレスより、絶対に似合ってるわ!これ!


「ジャニス様!私、これにします!」


 ジャニスは眉間にしわを寄せて近寄り、目をかっぴらいてから、倒れた。


「ジャニス!?え!?血!??」


「すいません……露出はもう少し控えめでお願いします……がくり」


 倒れたジャニスを病院へ担ぎ込んだのだが、ジャニスは鼻血による貧血と診断された。午前中も鼻血噴いてたもんなぁ。そりゃあ血も足りなくなるわ。

 そしてあのドレス、そんなにエロかったのか……。ジャニスは意外と純粋なのだろうか。

 でも、以前の夜会でもっとエロエロなドレスのお姉さんにベタベタされてた時は、心底どうでも良さそうな顔をしていた気がする。ますますわからん。


「胸元は透けない生地にするか、ショールで隠しましょうか」


 ついてきてくれた支配人が、そう言った。そして冷静にドレスと対になりそうな礼服を勧めてきた。一番似合うと思った礼服が候補にあったので、私はそれをチョイスした。

 そんな会話をしていたら、ジャニスの意識がもどった。支配人はそっと席を外してくれた。本当に気が利くわ。


「すいません……俺の精神鍛錬が足りないばかりに……脳内シミュレートでは、こんな失態をする予定は……!」


「いやまあ、脳内では失敗しようがないわよ。だから現実は面白いんじゃなくて?うふふ。貴方、思ったよりずっと面白くていいわ。一緒にいて退屈しないもの。むしろ、貴方の脳内妄想で私がどうなってたのかが知りたいわ」


「…………黙秘します」


 脳内の私は、言えないようなことをされているんだろうか。真顔で黙秘された。私も流石にそこはツッコめなかった。


「仕方ないわね、追求しないであげるわ。でも、金銭については本当に無理しないでよ?私のせいで破産とか、洒落にならないし」


 女性のドレスはなかなか高額だ。念の為、釘を刺しておく。


「問題ありません。近衛の給料も溜め込んでますし、たまに小遣い稼ぎでワイバーンとかを狩ってますから。破産したら貢げなくなりますから、破産しないよう稼ぎます」


「んん??」


 破産しないならいい……の?ワイバーンって複数討伐が必須の超危険生物では??いやいや、それよりも気になることがある!


「貴方、私に貢ぐつもりなの?」


「魅力的な女性を繋ぎ止めるために貢ぐのは当然では?」


「ど、どうなのかしら……??」


 ジャニスは真顔で首を傾げる。本気で当然と思っているようだ。今までは私が第二王子にひたすら貢ぐような関係であったので、それが正しいかは判断がつかない。


「獣人の方はそういう傾向にありますね。惚れ込んだお方にはお金も命も惜しみません」


 いつの間に戻ってきたのか、支配人が教えてくれた。


「え」


 お金はともかく、命も!?重!!ひたすら重い!!いや、その理論で行くと、ジャニスはまさか私のことが!?


「まあ、獣人は普通そんな感じですので、お気になさらず」


 真顔で淡々と語るジャニスを見て、私に惚れてるとかは無さそうだなと一気に冷静になれた。


 今日も私の婚約者はよくわかりませんね。つまり、獣人的常識から婚約者だから貢ぐってことなのかしらね?

 とりあえず、鼻血対策に治癒魔法入りアミュレットは追加しておいた。

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