第4話 婚約者がやっぱりよくわからない
二時間目が終わってすぐ保健室に駆け込んだ。
「ジャニス様、鼻血は止まりましたか?」
無事に鼻血は止まったようだが、なんとなくしょんぼりした様子だ。
「申し訳ございませんでした。私の精神鍛錬が未熟なせいで、ご迷惑をおかけしました」
鼻血と精神鍛錬になんの因果があるというのか。興奮する要素はなかったはず……まさか私が抱きついたから?いや……まさかな。自意識過剰だわ。
「いえ、大丈夫ならよいのです。授業も見学なさいますか?」
「ええ。授業を受ける貴女を見つめていられるなんて幸せです」
授業を見ろよ。それ、私が落ち着かなくなるからやめろ。
「……授業を見ましょうね?後でちゃんと見ていたか質問しますからね?答えられなかったらお仕置きですよ?」
「お仕置き……」
なぜそこで真顔になるんだ。本当に何を考えているのかわからん。なんか鼻をおさえていた。また鼻血?
「ぐひゅっ……まあ、頑張りなよ、ジャニス」
「……言われなくても」
どうでもいいけど、保健医も攻略対象なのよね。推しじゃないからそこまで嫌悪感はないけど、まったく関わりたくない。こいつと仲良くなると監禁ルートだし。そしてやはり、出来損ないの3Dなんだよ……。声はイケボなのにね……。やはり住む世界が違うんだよ。
保健医に返答したジャニスは珍しくあからさまに嫌な顔をしていた。対する保健医は腹でも痛いのか痙攣していた。大丈夫なのだろうか。
そして、ジャニスを連れて教室に戻ったのだが……視線が痛い。そりゃな、目立つよね!どこからか椅子を持ってきて堂々と座るジャニス。ううむ、イケメン。足長いわ。
あ、婚約者アピールするなら隣に椅子持っていって座るべき?いや、むしろ膝?乗っちゃう??
「マジョリカ様」
「ひゃい!?」
近い近い近い!いつの間に近づいたんだぁ!?耳元で囁くな、イケボは凶器なんやぞ!!
「すいません、こちらを見ていたようなので、何か用事なのかと……驚かせてすいません」
「いえ、お気遣いありがとうございます。その……婚約者としてアピールするならお膝に」
「婚約者!?」
「え!?第二王子殿下は!?」
「いやああ、氷の鬼畜騎士が結婚だなんて!」
私の発言で教室が騒然としてしまった。待って最後。ジャニスはなんだと思われてるの?鬼畜なの??婚約早まった??
「膝に?」
そして教室がこんなにも騒然としているのに、平然と続きを促すのがマイペースな我が婚約者殿である。迷ったが素直に続きを話した。
「……お膝に乗るべきかなとか?いや、必要ありませんでしたわね。これでしたらすぐ噂は広まりそうで……どうしましたの?」
「いえ、なんでもありません」
なんかすげぇ複雑そうな顔してるから、何でもない感じではないんだが……何度か聞いたがジャニスは口を割らなかった。本当になんなのよ。
「…………」
そして、授業が始まったのはいいが、視線が刺さる。眉間にしわを寄せてめっっちゃ私を見ている。これは流石に自意識過剰ではない。あからさま過ぎる。
「はぁ……」
ジャニスの視線が気になって授業に集中できなかった。とてつもなく疲れた。
「どうしました?どこか具合でも?」
お前(の視線)のせいだよ、とは流石に言えなかったので適当に笑って誤魔化した。昼休みなのでどこかでランチをと思っていたら、勢いよくアホが教室に駆け込んできた。
「マジョリカ!朝の話の続きだ!」
アホ……つまり、隣のクラスの第二王子が我がクラスに突撃してきたのだ。現婚約者の対応に困っていたので丁度いいが、婚約を白紙撤回した具体的理由を暴露されたら困るのはアンタなんだけどね。
それにしても残念だ。なぜ彼は二次元のままでいてくれなかったのか。いや、こいつだけペラい状態だとそれはそれで辛いものがあるな。やはり住む世界が違うってことにしておこう。
「婚約を白紙撤回した本当の理由は、殿下の不貞行為ですけど。ここで申し上げても、本当によろしいのですか?」
「……場所を変えよう。おい、何故そいつまでついてくるのだ」
「「婚約者じゃない男と密室で二人きりになったら良くない噂が立つからです」」
ジャニスと私の声が綺麗にハモった。
「それから、私の婚約者があまりにも魅力的なので殿下が実力行使に出ないようにですかね」
しれっと怖い事を言ってくる。その可能性は考えてなかったわ。この出来損ないの3Dに襲われる……?ないわ……このうっかり三次元に傷物にされて結婚するの?
やだ。本気でヤダ!!絶対ノー!!
しかも、そんな事しないってツッコミがない。おい、お前マジでヤル気だったのか!?最低だな!婚約を白紙撤回してよかったわ……。私、こいつのどこが好きだったのかしら……。
考えてみたら、恐ろしい事に顔だった。
次元の違う美しさが好きだったのだ
いや、確かにある意味住む次元が違うけどな!!前世と思われる記憶がある今では、その顔というか全体が嫌だ。無理だ。受け付けない。そして、顔以外に良いところがない。なんてことだ。私は見る目がなさ過ぎる。
人目を避けて空き教室に移動し、三人で話をすることになった。とりあえず、王太子からの手紙で覚えている女の名前を何人かあげようとしたのだが、ジャニスが先につらつらと話しだした。え、あの人数全部を丸暗記してるの?ジャニスすげえ。
第二王子の顔に青い縦線が入っている。そして、みるみる顔半分が比喩でもなんでもなく青くなっていく。アニメとかカラーの漫画でおなじみの効果だが、現実で見ると地味に気持ちが悪い。
ゾンビかってぐらい肌が青いのって嫌だなぁ。
つうか、多い。お前、どんだけ他に女を作ってんねん。
「以上になります。さらに、関係が肉体関係まで及んでいるのは」
「もういい!では、この女達との関係を精算すればよいのだな!?」
「んなわけあるかい」
「馬鹿ですか?」
私とジャニスがほぼ同時にツッコミを入れた。敬語も消える衝撃だった。いや、他の男と婚約したんだから、もうお前との婚約はありえないっつーの。お前の気を引きたくて他の男に気のある素振りとかでも何でもなく、乗りかえたんだよ!
「覆水盆に返らずですわ、殿下。私はもう、ジャニスの妻になると決めましたの。殿下は他に良い人を見つけてくださいませ。誰だって浮気癖のある男より、私だけを見てくれる殿方がいいに決まっているではありませんの。ジャニス、食事に行きましょう」
「ええ、我が婚約者殿。私はあなたの為でしたら何でもいたしましょう」
んん……『私は』をめっちゃ強調しているあたり、第二王子への当てつけかな?私は一度も振り返ることなく、教室から出た。
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