第2話 婚約者(仮)がよくわからない件

 翌日、興奮したメイドに叩き起こされて念入りに身支度をされた。いや、私お嬢様よ?ちゃんと説明しようぜ??


 そして、応接室にがっつり正装したジャニスと両親がいた。イケメン✕正装=眼福。

 そして、部屋いっぱいの薔薇が目に入った。薔薇 ?全部真っ赤な薔薇だ。私、昨日そういえばこの男になんて言ったかな?


「マジョリカ様、どれが一番美しい薔薇かわからなかったので、城下町の赤い薔薇をすべて買い占めて来ました。私と婚約してください」


「そうきたか……!」


 最悪、これは望んだ品ではないと言って断る事もできたが、完全に逃げ道を塞がれた。いや、お前は私と本気で婚約するつもりなの?本気度が怖いんだが。


「既に公爵夫妻に昨日のことを話してございます」


「マジョリカ、お前に辛い思いをさせていたのだな……!すぐに第二王子との縁談は白紙撤回し、ジャニス殿と婚約の手続きを進めよう!」

「ええ、ええ!第二王子殿下は出禁にいたしましょう!」


 両親がガチギレしておるぅ……。なんでだろうと思い、机の上にある手紙を見て納得した。王太子殿下がジャニスに手紙を持たせたらしい。


「あ、ありがとうございます……」


 そしてさり気なく手紙を見た。そこには第二王子の女性遍歴なんかが書かれていた。え?あいつあの未亡人とまで……!?本当に婚約しなくてよかった!色んな意味で無理だわ!


「ジャニス様、これからよろしくお願いいたします」


 ジャニスはニコリともせず頭を下げた。本当に何を考えているかわからない男である。




「それにしても、ロマンチックねぇぇ!」


 本当に城下町中の薔薇を買い占めたのだろう。困ったな、どうしよう。


「……ジャニス様」


「はい」


「……次からは一輪だけにしてください。大事に飾りますので」


 相変わらず無表情でジャニスは頷いた。


「かしこまりました。マジョリカ様は薔薇がお好きなのですね」


「いや、花ならなんでも好きですよ。薔薇がいいと言ったのは……以前読んだ恋愛小説で赤い薔薇が愛の告白を意味していて憧れたからです」


「ああ『赤い薔薇の誓い』でしたっけ」

「なんで知ってるのよ!?」


 的確に恋愛小説のタイトルを当ててきおった!!なんで知ってるの!?


「以前ボロボロ泣きながら読んでましたので」

「余計な情報を両親に与えないで!!」


 叫ぶと素直に黙ってくれるが、時すでに遅し。両親がニヤニヤしておるううう!!


「ジャニス様!お散歩!お散歩に行きましょう!!」


 とにかくこの場を逃げようと、ジャニスの手を取り庭園に逃亡した。




 とりあえず、両親に追ってくる気配はない。咄嗟に手を繋いでしまったが、これいつ放したらいいのだろう。


「マジョリカ様」


「あ、はい」


「昨日は戻りが遅く、申し訳ありませんでした。買いに出たものの、財布を忘れておりまして……それに、私には薔薇がどれも同じに見えて、どれが一番綺麗なのかわかりませんでした。だから全て買い占めたのですが、全部は売れないと言う店もあって交渉が難航しまして……」


 こやつ、天然?咄嗟に出た発言だったが、彼本気で行動したらしい。


「そうでしたか」


 ジャニスとこんなに話したのは初めてかもしれないなぁ。こいつ、意外と喋るのね。いい声だなぁ。低くて甘い。


「はい。一時間もお待ちくださっただなんて……感激です」


 しかし、表情は相変わらず無表情なのだった。本気だかどうだか本気でよくわからん。


「次からは、どのくらいで戻ってこれるか言ってくださいね。それがわかっていれば、お待ちしてますから」


 まあ、今回みたいなケースは稀だと思うけどね。あの薔薇どうしよう。大量すぎるんだけど。


「……はい。次からはそうします」


 ジャニスがひざまずいて手の甲にキスした。流石はイケメン!うっかりときめいたのは内緒なのである!


「お、王太子殿下からお手紙なんてよくもらえましたわね?」


 あの腹黒王太子がただで働くことはそうそうない。とても珍しいのだ。


「ああ、今度お忍びで遊びに行くからそれを見逃す代わりにと書いてくれました」


 やはり有償だったか……!


「大変な上司を持つと苦労しますわね。疲れたらそう言ってくださいね。よしよししてあげますわよ」


「よしよし……!」


 本日初めてジャニスが表情を変えたのだが、目をかっぴらいていて怖かった。嫌ならそう言ってくれよ!ただのノリで言っただけなんだからさあ!


 ジャニスは正式に私の婚約者となったが、ぶっちゃけ何を考えているのか本当にわからないのだった。

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