悪役令嬢は次元の壁を超えたくない

明。

第1話 目覚め

 何不自由ない生活の中で、ずっと違和感があった。それをうまく表現することができなかった。見たことがあるような気がする。会ったことがあるような気がする。


 そして今日、それは明確になった。


 私、悪役令嬢だったの!?というか、ちょっとだいぶありえないんですけどおおおおお!!一気に流れ込む記憶の量が膨大すぎて、私は意識を失った。




 かつて、私は日本という島国で会社員として働いていた。そんな私の楽しみはゲーム。乙女ゲームが大好きで、色んなゲームをやっていた。

 彼女は死んだのか、よくわからない。ただ、確かなのは……この世界が彼女のしていたゲームと酷似しているってこと。


『キミのためのセカイ』というタイトルのゲーム。


 いわゆる、ご都合主義な乙女ゲームの悪役令嬢。それが私。マジョリカ=ヒールディアなのだ。


  




 頭痛とともに目が覚めた。


「ううう……」

「お嬢様!お目覚めになられたのですね!医者を呼んで参ります!!」


 起き上がって鏡を確認する。私は悪役令嬢として断罪されるなんてまっぴらごめんだ。好きに生きてやる。それに、あんな王子と結婚するとか無理だ。奴とは住む次元が違うのだ。


 マジョリカは第二王子の婚約者になり、ヒロインをいじめるのだ。そういや、ヒロインの名前なんだっけ?私、デフォルトネーム変更する派だからわからない……。

 とりあえず落ち着いて現在の自分の状況を確認してみよう。


 今の私は十四歳。第二王子は私と婚約したくなくて正式な婚約をズルズル引き延ばしている。プレイボーイな第二王子が真実の愛を見つける的なシナリオじゃなかったかな。ヒロインが拒めば拒むほど寄ってくるんだよね……あれ?ヤバいやつなんじゃね??

 よし、こいつとの婚約は全力で回避しよう!!お父様は私に激甘だから、嫌だと言えばなんとかしてくれるはず!!そもそものらりくらりと回避してて怒ってるしね!!


 しかし、そうなると他に婚約者候補を見つけなければならない。今現在婚約してなくてうちの婿になれそうな男かぁ……。思いつかないから、友達に紹介してもらおう。





「それで僕の所に来る辺り、どうなの??」


 友達とは、王太子殿である。第二王子の腹違いの兄である。ちなみに、第二王子とは犬猿の仲なのだ。


「女友達が男を紹介できるはずないじゃない。年が近い公爵令嬢とはマウント取り合う仲なのよ?そもそも、殿下の弟が使えないから責任を取ってもらおうかなと。代わりに、第二王子の陣営に大打撃を与えてあげるから、真面目に考えて。ノーおふざけでお願いします」


「僕は君のそういう所、嫌いじゃないけど……弟はそこが駄目なんだろうなぁ」


 幸いな事に王太子殿下は攻略対象じゃないので気を抜いて話ができる。希望条件のリストを渡して、これに合う男を紹介してとお願いした。


「じゃあ、ここにいるジャニスはどうかな?」


「え、無理」


 王太子殿下、無理を言うなよ。近衛騎士であるジャニスは大変なイケメンである。しかし私が嫌いなのか、彼はいつも眉間にシワを寄せて私を見てくるのだ。


「条件にぴったりだよ?全部当てはまるよ」


「確かにこれ以上ないくらいにピッタリだけどさぁ……」


「……条件とは?」


 意外にもジャニスの方が食いついてきた。彼は普段、喋らないというか私達の会話に入ってこないので大変珍しい。クソ真面目の塊みたいな男なのだ。


「先ず、誰もが羨む容姿」

「やめろ恥ずかしい」


 これにはちゃんと理由があってだな、第二王子を諦めるからには、あいつよりいい男じゃないと周囲が納得しないからだ!そりゃ、美形も大好物だけどね!!

 ジャニスは周囲のご令嬢達がキャーキャーいうほどの美形なので、問題なくクリア。


「適度に筋肉がついた肉体。細マッチョ希望」

「だからやめろ、朗読しないで!」


 これは完全に性癖だから!!近衛騎士なので当然鍛えているだろう。これもクリア。


「浮気をしない」

「……これが一番重要かな」


 浮気しない、誠実な人がいい。最低条件というか、必要条件。クソ真面目なジャニスが浮気とか、ありえないからこれもクリア。


「公爵領に興味がないか共同経営ができる。爵位がある」

「できたら私が経営をやる形にさせてくれる人がいいのよね」


 トップが二人いると混乱するかもだし、できたら折角勉強したことを活かしたい。ジャニスは近衛騎士だから、仕事もあるし私に任せてくれるだろう。近衛なので当然貴族。侯爵家の次男だから、家格も丁度いい。


「できれば獣人だとよい」

「……いや、尻尾とかって伴侶じゃないと触らせてもらえないらしいし……これはホントできればというか……だから朗読すんなってば!」


 ジャニスは狼の獣人なので、素敵な黒髪に獣耳とフサフサの尻尾がある。触りてぇ。しかし性感帯であるそうで、そう言ったらとんだ破廉恥娘になるので言えません。


「確かに全て当てはまりますね。それで、私と婚約なさいますか?」


 お前はなんで乗り気なんだよ。私が嫌いじゃなかったのか?すげぇこっちを見てくるんだが??つうか近い近い近い!!王太子、ニヤニヤしてないで助けてろください(混乱)


「ええと……城下町で一番綺麗な真っ赤な薔薇を持ってきてプロポーズしてくれたら婚約します」

「わかりました」


 苦し紛れにそう言ったら、ジャニスは走り去った。速かったというか、あいつ窓から飛び降りたぞ!?


「ぐひゅっ……婚約おめでとう……ぐふっ……」


 何故か殿下は痙攣していた。何がツボだったのかは知らないが、この男は一度笑い出すと止まらない。


「殿下、気持ち悪いです。あと、まだ婚約してません」


 その後殿下と一時間ほど待ったが、ジャニスは戻らなかったので帰宅した。あいつは本当に何なのだろうか。よくわからない。

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