第109話 オルバル帝国の陰謀 

ヘルカ王国シドンの街のギルドで管理している高難度のダンジョン2箇所を踏破したハヤトファミリーは魔力が全く使えないというダンジョンで貴重な経験もして、魔王関係の資料を手に入れ、シドンの街を離れヘルカ王国の西のオルバル帝国国境付近の街に来ていた。


街というより村で人口も数千人ほどの小さな村だ。


冒険者ギルドもないが、緑が豊かで景色がいいということで車をゆっくりはしらせて村の方に向かっていた。


村の名前は、ギルソン村と入り口に書いてある。


入り口に兵隊ではなく、村人が槍を持って警戒にあたっている。


「旅のものですが、この村には宿は有るのですか?」


「旅の連中か?ここには泊まれる宿などないな、しかも、今この村では流行病で結構バタついているからそうそうにここから離れたほうが良いと思うぞ!」

と村の入り口で警備している若者が教えてくれた。


「流行病って?僕らの中にはヒールを使える者がいるから見てあげましょうか?」


「何?ヒーラーが居るのか?」


「いや、ヒーラーではないけど通常の病なら簡単に治せるから・・・」とハヤト。


「ちょっと待っててくれ、村長の親父に聞いてくる」


しばらくすると、中年の顎髭をはやしたコップスと名乗る村長がハヤト達の前に現れた。


「旅のお方、何でもヒールができる御仁が居るとのことだが、それではちょっとみてもらえぬか?今この村は重大な危機に見舞われて居るのじゃ。既に病で3人の命がなくなってな、今でも重病患者を含めて、38名が床に臥せって隔離しておる」


「わかりました、出来る限りの治療をしてみましょう!」とハヤトが言って、村の中に車を入れた。


魔道車が珍しいのか、元気な子どもたちがわぁっと寄ってきた。


入り口の脇に車を止めて、キラービー3匹に村全体を飛びながら警戒してもらい、スライム夫婦と銀龍は車で待機してもらって、ハヤト達は隔離した場所に向かった。


村長のコップスの話によると、村の若者が入り口とは反対側に有る帝国との国境に広がる森に食料確保の魔物討伐に行って、帰ってきた二人がその日の夜から熱を出し、体に紫色の斑点が現れて、苦しみながら1週間後に死亡し、それを看病していた両親達も3日ぐらいしてから同じ症状で苦しみだし、一人の父親がやはり一週間後に死亡して、徐々に蔓延してきた」とハヤトに語った。


38名が隔離された村の端の小屋に着いたハヤト達はハヤトとセリーヌだけが入り、あとは外で待機してもらっている。


ハヤト夫妻は毒に対しても、耐性が有るので大丈夫ということで小屋に足を踏み入れた。


中は悲惨そのもので、子供から大人まで、熱が高いのか皆が一様に熱にうなされてうめき声を上げ、顔に紫の反転が出ている。


ハヤトは【鑑定(アプレイザル)】をしてみる。


病名:ゲルロド・ 木に寄生する細菌で体内で繁殖がピークになる1週間半後には死に至る。治療法は吸収したゲルロゾード菌を死滅させる、”ひび割れ草”の根を煎じて飲み与える。


「コップスさん、原因と病名は分かったので、取り敢えず重病人から直していきますから、コップスさんもこの小屋から出た方が良いです」と言って小屋から離れてもらった。


「セリーヌ、斑点が顔にまで出ている人から【ハイヒール】を掛けてあげて、僕はこの病に効く薬草が何処に有るか【サーチ】して、ドリス達に頼むから」


ハヤトが【サーチ・ひび割れ草】と念じると【MAP】にオルバル帝国との境の山の頂近くに群生していた。


ハヤトが小屋から出て、ドリスに先程のサーチ結果を伝え、『万能乗用車』で【転移】して”ひび割れ草”を根ごと持って来てくれと頼んだ。


再びハヤトは小屋に入り、セリーヌの手伝いで、自分も【ハイヒール】を掛けて38人を取り敢えず治してあげた。


小屋の中全体に細菌の胞子が有るので、【クリーン】魔法をかけて浄化し、ゲルロゾード菌を死滅させた。


小屋の中に立ち入った人たちを村の広場に集め、全員を【鑑定】してゲルロゾード菌に侵されている人を割り出し、【ヒール】を掛けて取り敢えずゲルロドになりかかっている人たちを直した。


中には未だ発症していないが、家族全員が侵されている人達もいた。


村長のコップスも発症はしていなかったが既に体に菌が付着していたので【浄化】してあげ、この病の対策として”ひび割れ草”の根を煎じて飲ますことを説いた。


10分程経ってから、ドリスが戻ってきて”ひび割れ草”30本程を持ってきた。


ハヤトは村人に”ひび割れ草”の根を洗って、刻み煎じて白湯で飲ませてくれと頼んだ。


【ヒール】を掛けた38人は既に完治して、元気になったが、浄化したこの小屋のほうが家に帰宅するよりは安全なので、しばらく待機してもらっている。


ハヤトはコップスに言って、各家を回って浄化し、この村全体を一度【結界】で覆い、【エリアクリーン】を発動させて、全てを浄化してあげた。


これで、村の空気の中にはゲルロゾード菌の胞子は飛び回っていないので大丈夫だ。


38人は念のため、”ひび割れ草”の根を煎じた物を飲んで各自宅に戻らせた。


今後のことも有るので、残った”ひび割れ草”をコップス村長に渡した。


村人たちはハヤト一行に大感激して土下座までしてお礼を言う老人たちもいた。


コップスが「ハヤト殿、この村の救世主です、是非一晩皆様に泊まって頂き歓迎したいのでお泊まりくださいと」と言ってきた。


宿はないが、車の中であればベッドもあるし寝泊まりには不都合は無いのでハヤト達はこの村で一晩過ごすことにした。


未だ、昼を皆が食べていなかったので、コップスの家で昼ごはんをご馳走になった。


セリーヌやラッティー、クリエラは山菜料理で喜んでいる。


精霊のグラッセも木々が多く浄化したばかりの村の空気が『美味しい!』と言って喜んで飛び回っている。


スライム夫婦とハヤトは村で取れたファングボアの炭火焼きに舌鼓を打ちながら

昼食を楽しんだ。


コップス村長が言うには「今まで数百年、この村では帝国との国境で獲物を取りに行っても今回のような病にかかることなどなかったのに、この1ヶ月前から森の

様子が少しおかしいとは思っていた」と気になることを聞いた。


ハヤトもだいたいゲルロドと言う病気はそれを発症させるゲルロゾード菌というものがこの世界では非常にまれな菌で余り存在されないと『賢者の本』で調べていて分かっていた。


帝国との国境に近いということが、何とも胡散臭い!


「コップスさん、このギルソン村の裏側から山を越えてオルバル帝国には国境警備の兵士とか居るのですか?」


「いやいや、両国とも長い国境線を警備するほど兵士は多くありませんよ、この村から帝国には自由に往来できますし、帝国からでも自由に入ってこれますよ。もっとも、こんな寒村に帝国から尋ねてくる人なんぞいやしませんがね!」


「そうですか、この村の病の原因が非常に珍しいゲルロドなので、その辺の事をさぐる意味でも明日になったら、ここから国境超えをして調べてみますよ、村の人が再び病気にかからない様に原因を突き止めて根絶しておきます」


「そこまでしていただくのは心苦しいです」とコップスがすまなさそうに答えた。


「いやいや、冒険をしながらの旅のついでなんで、山を超えるのも楽しみですよ!」とハヤトが笑った。


その晩は、村の広場で車座に村人全員が集まって、食べや歌えや、踊れやの歓待をして貰ったハヤト達は、翌日国境に向かって、村人全員の見送りの中歩いて行く。


数分歩くと直ぐに最初に発病者が出た森に入った。


「ラッティー、クリエラは一応【シールド】で体を保護して、僕とセリーヌグラッセは耐性があるから」そう言って森に分け入った。


”ご主人様、何だかこの森に人為的な形跡がありますよ”


”グラッセも感じる?何となくわざと病気になるゲルロゾード菌を撒いたようなかんじだよね”


「旦那様、人が分け入ってこの当たりまで来た形跡が有りますね!方角は村からではなく帝国側からです」


「またしても帝国か!」とハヤトは思った。


「旦那様、もしかして戦争にゲルロゾード菌でもばら撒いて街とかを混乱させようとしているのでは?それか何処かの国を落とし込むための前段階の実験とか?」


「国境を突き抜けるより、ヘルカ王国側の国境に沿って、南下して同様な症状とか出ている村が無いか調べたほうが良いね?」


「ご主人様、先程”ひび割れ草”を採集したときに沢山取ってきて、未だ私が【次元ストレージ】に入っておりますので、もし必要になった時言ってください」


「おお、さすがドリス、機転が効くね!」


「いえ、御主人様のしもべですから」と赤く頬を染めた。


「あら、ドリスはアンドロイドでも赤くなったり出来るのね?」


「はい、御主人様がAIに怒りや、恥ずかしい、嬉しいなどの感情表現ができるようにお作りいただいたので・・・」


ハヤト一行はガードマンとアレンが先行して山脈沿いに南下していった。


2時間半ほどして、森が途切れ、のどかな山裾に街が見えてきた。


ここは村というよりはある程度人口も多い国境近くの街だった。


冒険者ギルドも有り、宿が有るのでこの街に1泊しようと、宿に向かった。


”山里”という宿に入り、「すみません、ツイン一部屋とダブル一部屋空いてますか?」とハヤトが言うと、兎人族の娘さんが出てきて、「1泊ですね?部屋は有りますので共に銀貨1枚です」と同族のラッティーをみながら言った。


「それじゃ1泊、はい銀貨2枚」とハヤトは前金で銀貨2枚を渡して部屋の鍵をもらった。


未だ昼前なので、200号室のダブルにハヤト夫妻、201号室のツインにラッティーとクリエラが入って、すぐに皆でギルドに向かった。


クエストの掲示板を見ると、気になった依頼が『急募、ヒーラー求む』と有り、これを受付嬢に渡して問い合わせをしてみる。


ハヤトが危惧していた通り、「山に入った冒険者が戻ってくるなり体に斑点が出て苦しみだし、高熱が出ている」と受付の獣人族のお嬢さんが言うのでハヤトは冒険者カードを提示して、「すぐにギルドマスターを呼んでほしい」と頼んだ。


「初めまして、ここのギルドマスターをしているハモンドと申します。こんな田舎にブルネリアのSSSランクの方がどういったご用件でしょうか?」


ハヤトはギルソン村で起きた流行病の件を話し、早急に病人を隔離して治療に当たって欲しいと頼んだ。


話を聞いたハモンドは直ぐに行動に移り、病気を発症した冒険者をギルドの医務室に隔離してハヤトに治療を依頼した。


セリーヌが【ハイヒール】を施し直ぐに病状が収まり治っていくが、接触者が数人居るので、ギルマスに頼んで一箇所に集合してもらい、先ずは【クリーン】の浄化をした。


その中で一人だけ既に掛かっている冒険者がおり、彼には【ヒール】をして直し、

医務室に一応隔離した。


幸い、彼の接触者は同僚の既に発病していた人間だけというのでそれ以上の広がりはなさそうだ。


ハヤトはギルド内の全フロアを【エリアクリーン】を掛けて浄化し、”ひび割れ草”をギルマスに5束渡して、発病した二人に根を刻んで煎じてのますよう指示した。


発病していた二人はセリーヌの【ヒール】で既に治っているが念の為に2日ほど休んで薬を飲むように話をした。


また、ギルマスは直ぐに対処して、冒険者を会議室に集めてハヤトから伝えられた話を皆にも伝え、山にはしばらく入らぬように伝えた。


その後ハヤトとギルドマスターのハモンドが打ち合わせをして、山の汚染された箇所を浄化する依頼をハヤトが受けた。


セリーヌの提案でこの街に【サーチ】を掛けてゲルロゾード菌の胞子が飛び回って汚染してないか調べたほうが良いと言われ、その件もハモンドから依頼されてしまった。


ハヤトはゲルロゾード菌の胞子を【サーチ】を掛けると数点で赤点滅する箇所があり、すぐにその現場に急行して浄化を施した。


昼過ぎになってしまったがギルド近くの定食屋で、ハヤトとスライム夫婦はマナバイソンのステーキ4人前(スライム夫婦が当然3人前)を、セリーヌ達女性陣は魚を野菜で挟んだサラダパンを注文して食べた。


昼をおしてのそうそうの対応にハモンドが恐縮していたが「依頼だから」と気にしないハヤト。


明日、山に入り汚染箇所を浄化して報告すると、ハモンドには伝えた。


一方ハモンドはギルソンの村のことやこの街ミルドレに起こったことを早々にヘルカ王国内のギルドに報告し、国王にも伝えることにして、行動に移った。


オルバル帝国が毒物実験をヘルカ王国の街などを対象に仕掛けていることが明るみに出るのに然程時間はかからなかった、


翌日宿を出て、ハヤト一行はミルドレの街の山側に入り【サーチ】を掛けてゲルロゾード菌に汚染された箇所を検索して数カ所を見つけ浄化した。


更にハヤトはオルバル帝国の兵士が関わっていると目星をつけて【サーチ】をすると、ハヤト達のすぐ近くで今も未だ動き回って居る連中を見つけた。


見ると兵士たちは耐毒のローブを着て作業をしようとしているところだった。


ドリス、アレン、ガードマンが素早く動いて4人の帝国の兵士を気絶させて捕獲し、彼らが持っているゲルロゾード菌のかご4籠を保管した。


幸いこれから作業にはいるところで、未だ汚染されたところは【サーチ】したが見当たらなかった。


気絶した4人をアレンとガードマンが担いでギルドに戻り、ハモンドに引き渡して、ゲルロゾード菌の籠4個も引き渡した。


「ハモンドさん、彼らから情報を聞き出すのは貴方達に任せるし、証拠の品は危険だからくれぐれも注意して扱ってくれ」とハヤト。


「ハヤト殿、何から何まで本当にありがとう!この街を救ってくれた。我々だけでは対処できないので、即刻国の中枢にも話を通したので、中央のギルド長と国王の騎士団が間もなくこの街に来ると思う、本当に助かった!」そういって、ハヤト達に依頼した金貨50枚をくれた。


「やってもらったことが金額に見合っていないが、田舎の街のギルドなのでゆるしてくれ」とハモンドがすまなさそうにハヤトに言った。


「気にしないで、ハモンドさん。調査依頼とかなのだから通常ではこれほどいただけるのは貰い過ぎな気がする」とハモンドと固い握手をしてギルドを後にした。





その後ハヤト達が帰国してからケントギルマスから聞いた所によるとヘルカ王国ではミルドレの街以外に二箇所同様な病気が発生していたが、”ひび割れ草”の根を煎じて飲ませ完治させたと聞いた。


ヘルカ王国の国王がブルネリア国王に感謝の書簡とハヤトに名誉貴族の称号を与える旨の手紙が届き、名誉貴族の勲章が添えられていたそうだ。


ブルネリア国王はハヤト達がそんな活躍をしていたとは全く知らないので随分驚いていたそうで、ハヤトは王都に呼ばれ国王に嫌味を散々言われたのは又の話で・・・。

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