第110話 オルバル帝国でのクエスト 

ヘルカ王国で流行病(はやりやまい)のゲルロドの事件を解決に導いてケープにひとっ飛びで帰宅しても良かったが、どうせなら指名手配ぐらい回っているかも知れないオルバル帝国の知らない街を2、3箇所回って帰ろうといたずら心を抱いて、ハヤト達はミルドレから国境を越えて、オルバル帝国の入国手続きを済ませて国境から10キロほど帝国に入った街、ビルボンという街に来ていた。


まだ昼にはだいぶ時間が有るので、取り敢えずビルボンの冒険者ギルドに向かい、掲示板で面白いクエストを探すことにした。


ビルボンは冒険者の街と言うよりは帝国から見て東の端にある商業都市といったイメージの街だ。


ギルドはそこそこ大きいが、人は然程多くはなかった。


山あいの街で森も抱えているため魔物の数は結構多く、商人たちの護衛依頼が多く有った。


その中にビルボンからジェニールを通って、帝都ベロニカ経由ブルネリア王国との国境の町キースまでの4泊5日の護衛依頼があり、金貨60枚と高額クエストが残っていた。


出発は明日の午前8時にギルド前だが、未だ募集人数に到達していないようだ。


ラッティーはどうでしょうか?と言った具合にハヤトを見て居るのでうなずいてOKをだした。


ラッティーが全員の冒険者カードを提出して”熱き絆”が護衛依頼を受けますと受付嬢に提出した。


「護衛のパーティーは”熱き絆”ともう一組が”雷鳴の虎”の5人のパーティーです。このギルド入り口に7時半集合で出発は8時ですので遅れずにお願いします。尚商団は3台の馬車で荷物は穀物類だそうです」と言って、カードに履歴を打ち込み返却してくれた。


「それとギルドお勧めお宿とか有りませんか?」ラッティーが聞いた。


「それでしたらここから3軒となりに”流れ星”という宿が安くて美味しいです。ギルドカード提示すればAランク以上は銅貨10枚分が値引きされます」


「ありがとう、それじゃ明日7時半には来てますので」


ハヤト達は歩いて3軒隣の”流れ星”に4人で入った。


いつもの通り、ドリス達は裏に車を止めてスライム夫婦とグラッセ達と車中泊だ。


「すみません、ツイン一部屋にダブル一部屋1泊空いてませんか?」とカードを見せると「SSSクラスの方達ですか?2部屋空いております、一部屋銀貨1枚のところ銅貨90枚でトータル銀貨1枚と銅貨80枚です」と銅貨20枚がサービスしてくれた。


昼食を定食屋で食べて、ドリス達も連れて街を歩いてみる。


商業都市だけあって、いろいろな食材と商品を扱う店が多く、逆に錬金術師屋とか魔道具店が非常に少ない。


野営があるかも知れないと、肉と野菜、魚を市場で少し買い足してハヤトの【次元ストレージ】に入れて宿に戻ってきた。


ハヤトとセリーヌはシャワーを浴びて着替えて、部屋でコーヒーとケーキを出してお茶を飲みながら、「今の所帝国側は未だ僕らの事を認識してないようだね!」


「まさか自分たちの国に来て依頼を受けているなんて想像もしてないのじゃないでしょうか」


「恐らくブルネリアの自宅かナルジェのボスノーさんの魔道具店辺りを監視しているんだろうね!」


「でも、護衛依頼中に騎士たちや兵士たちが来たらどうします?」


「理不尽なことを言ったら、殺したりすると死体の処理に困るから、【イレージング】で消すか、【亜空間】に入れてしまうかするよ」


「一応捕まえられる理由が無いからね」とハヤト。


「帝国の騎士たちのために、依頼中には来ないことを祈りますわ!」とセリーヌが騎士団達の事を心配してあげていた。


夕食は女性陣は魚のソテーにサラダ食べ放題とご飯、ハヤトはマナバイソンのステーキにご飯食べ放題とスープで、皆満足して部屋に戻った。


翌朝、ギルド前に7時20分に着いて待っていると1台の馬車が近寄って来て、入口前に止まった。


「商隊の護衛依頼の人たちですか?僕らは”雷鳴の虎”5人組です。俺はリーダーのゲーリー、こいつはジェームス、こいつはアルバート、そして女性陣が魔法師のクララと回復師のスージーだ宜しく」


「初めまして、”熱き絆”のリーダーのハヤト、と妻のセリーヌ、クリエラとラッティー、それとドリスにアレンとガードマン、後は僕の従魔たちだ」


「ハヤト君達は馬車はその魔道車で行くのかい?」


「ええ、これで全員乗れますので馬車よりも数倍の速度は出ますからご安心ください」


「俺達はBクラスの冒険者だが、君たちは?」


「僕らはSSSクラスです」


「ええええ?SSSクラス?全員がSSSなのか?」


「僕と妻がSSSで他は全員SSクラスだけどマジックアイテムを持っているので皆SSSと見ていいと思いますよ」


「それじゃ、先頭は君らにお願いして、俺達は殿をきちんと務めるから頼むな」


自己紹介しあっていたら、3台の商隊の馬車も到着して、商隊リーダーのフラメル氏がこちらに寄ってきて、「キースまでの4泊5日の旅、よろしくお願いします。宿は冒険者毎に押さえてください、予定ではここビルボンからジェニール迄途中だけ2泊野営して、後は泊まりはジェニール、ベロニカで宿に泊まる予定でおります」


「「了解しました」」とハヤトとゲーリーが同時に返事をしてギルドを出発した。


ハヤト達は『万能乗用車』で馬車に合わせて時速30キロ前後で走り始めた。


商隊の3台の馬車から商人たちが身を乗り出して魔道車の『万能乗用車』を興味津々と眺めている。


殿のゲーリー達はハヤトのパーティーがSSSクラスだという事に驚いている。


「ゲーリー、アイツラ本当にそんなに強いのかな?SSSなんて神様の領域だぜ?Sクラスだって国に一人か二人いるかどうかだろう?それにあのリーダーはまだ結構若いよな」


御者台でゲーリーとジェームズが話をしているのが聞こえたのか、クララが冒険者ギルドで聞いた話を二人に語った。


「ギルドの人が”熱き絆”のハヤトという青年はスタンピードの時【インフェルノ】を使って3万の魔物を一瞬で灰にして消し去った人だと」言ってたわ!


「【インフェルノ】なんて魔法は古代に消滅して使えるやつなんていないのじゃない?神級だよな?」


「それに奥さんはエルフの王女様で有名な二文字の冒険者だって聞くわ」とクララは聞きかじりの話を二人に教えていた。


ビルボンを無事出て1時間ほどはのどかな街道をひた走りに進んでいた。


しばらくすると車の【サーチモニター】にトロール1体が検知される。


キラービーからも画像が送られてきた。


2キロほど先の街道から少し外れた場所にいて、向こうも馬車の隊列を確認したようだ。


500メートル行ったところで、アレンが車から降りて、あっという間に【瞬足】を使って間合いを詰めて、先ず膝から下御切り落とし、ジャンプして首も切り落として約30秒で3m近いトロールを殺し回収した。


何事もなく動き出す『万能乗用車』、殿の”雷鳴の虎”はあまりの強さに皆が黙り込んでいる。


その後はしばらくは何事もなく進み昼食にする。


昼食の場所はひらけたところで見渡しもいいが念の為、全員の馬車をまとめて余裕を見て前後50メートル縦横に幅をとって【結界】を張ってゆっくり食事を車内でした。


【サーチモニター】に全て検知できるので、食事を済ませたら【結界】を解いて、キラービーとモニターで警戒して特に問題なく昼食休憩を終えて、今晩の野営地に向かって動き出した。


2時間ほど行くと、小高い丘にワイバーンが2匹いるのが検知された。


ハヤトは商隊のリーダーに伝えて、馬車から出ないように伝え3台の馬車を【バリア】を張って守って、セリーヌが1キロ先の小高い丘にいるワイバーン目掛けて『連射の弓』を魔力を通して放つと、2本の矢となってワイバーン2匹の頭に当たり頭を浮き飛ばして、一瞬で葬った。


ハヤトが【転移】で回収してきて戻り、商隊の結界を解いてから出発した。


殿の冒険者たち5人組は根本的な戦い方が違うレベルに驚きを通り越してただただ神の領域を見惚れていた。


しばらくすると、オークの群れが30頭斜め前方から来るのを検知し、ラッティーとクリエラ、ドリスが車から降りて10頭ずつ首を落として対処し、回収した。


その後は野営地まで問題なく来て、空が茜色に染まってきたので平原が続くこの地に野営することになった。


商隊の商人たち6人はマジックアイテムらしいテント3張りを馬車の内側に張って、食事の準備を始めた。


”雷鳴の虎”の5人組は馬車とテント一張を設営して夕食の準備を始めた。


ハヤトは商隊と、”雷鳴の虎”の冒険者達に馬車から外側50メートル迄は夜中でも

出て構わないがそれ以上は【シールド】を貼るので出られない旨伝えて、夜の警戒はしなくていいと”雷鳴の虎”のリーダー、ゲーリーに伝えた。


ハヤト達は車の中で家にいるときと同様の食事を取り、アレンとガードマンが念の為【シールド】内を巡回警戒をして見回ってくれている。


途中からキラービー3匹に任せてアレン達も車に乗り込んで休んだ。

ハヤト達は夕食を終えてから、薄めのコーヒーを飲みながら、ケーキを食べて雑談しながらゆっくりしていた。


夜中に商隊の品物を狙って野盗が30人程来たがシールドを破ることも出来ず結局何も出来ないので何処かへと消えていった。


もしかしたら日中を襲ってくるかも知れないので警戒をするように朝、”雷鳴の虎”たちにも伝えた。


朝食を食べて、第二の野営地に向かって進み始めた。


30分程すると、夜中に襲って来た強盗団らしき集団30人ほどが待ち伏せしているのが検知された。


3台の馬車に被害が無いよう、【結界】を張って、動かないで待っていてもらう。


念の為に”雷鳴の虎には3台の馬車の周りを警戒してもらい、未だ1キロほど先に潜んでいる野盗の連中を【サーチ】で炙り出し、赤い点滅をさせて、【イレージング】を組み合わせて、一瞬で30人の野党をこの世から消し去った。


商隊の連中も、”雷鳴の虎”の冒険者達も一瞬何が起きたか全くわからず全員の野盗が消えたことに震えていた。


ハヤトは【結界】を解いて何事もなかったように進んでいく。


途中小さな村を通るが昼食には早すぎるし、ここでは時間ももったいないために通過して更に歩みを勧めていく。


村を過ぎて1時間ほどしたら【サーチモニター】にハーピーが15羽検知されて上空に鳴き声がギャーギャーと聞こえてくる。


セリーヌが車から出て『連射の弓』を構えて強めの魔力を流し込むと解き放たれたときには20本ほどの矢になって、ハーピーの頭を爆殺して行った。


結局一瞬で15匹のハーピーがボタボタと地上に落下してきた。


昼食を取るために見晴らしの良い平原に止めた。


昼食休憩の間も【シールド】を掛けて、警戒を怠らない。


何事もなく休憩を終えて再び第二の野営地に向かって進んでいく。


途中ファングボアとグリーンウルフが街道の横から馬車目掛けて襲ってくるが、ハヤト達がそれよりも早く馬車の前に出て殲滅していき全く馬車には被害がない。


第二の野営地で昨夜同様馬車の内側にテントを張り、ハヤト達は車の中で、商隊は馬車の内側で、冒険者の”雷鳴の虎”も馬車の内側で火を炊いて夕食を作っているようだ。

まさかハヤト達がのんびりと温かい食事を定食屋と同様に食べているとは商隊のレン中も、”雷鳴の虎”達も知らない。


”雷鳴の虎”の女性陣二人が、ハヤト達の車に興味を持ち、早めに夕食を食べ終えて中を見学しようと車のドアをノックした。


「すみません、”雷鳴の虎”の魔法師のクララと回復魔法師のスージーですが、魔道車にとても興味があり、ほんの少し中を見学させて頂けませんか?」と尋ねてきた。


「良いけど、未だ夕食を食べ終えてないので、前の座席に座っていて」とハヤトが運転席の方の座席に二人を座らせて4人は夕食の魚のムニエルと野菜サラダにスープとマナバイソンのステーキにスープにご飯で食べている。


クララもスージーも中の広さと食事の豪華さ、ベッドが4台にトイレとお風呂付きの『万能乗用車』に驚いている。


「この馬車って、次元空間魔法が施されているのですか?」とクララ。


「はい、実際よりかなり広いと思うでしょ?でも外からお風呂やベッドが4台もあるとは思えないよね!」


「この運転席のこの画面はなんですか?」とまたもクララが聞く。


どうやら魔法師としてとても信じられない高度な魔法の塊のような馬車で唖然としてしまっていたのだ。


「この画面は、【サーチ】魔法で今は3キロ以内の敵、魔物、殺意の持ったものを事前に知らせて来て、この画面に位置が映り込むシステムだよ」


「この車はどのくらいの速度が出るのですか?」とスージーが聞いてくる。


地上では150キロ馬車の5倍の速度、海では100キロ、空では10000キロかな?」


「えええええ?海、空?これ馬車ですよね?」


「これは馬車の役目もするけど、船にもなるし、空を飛ぶことも出来るし、土の中を潜ることも出来る魔道車ですよ」


「こんな物、何処に売っていたんですか?」


「僕が自分で作ったよ!」


「ええ、ハヤトさんは錬金術師だったの?」とスージー。


「いや、魔法剣士だよ、でも錬金術もスキルが有るし、殆どのものは自分で作ることが可能だよ」

 

「いやぁー、私達とは全ての尺度が違いすぎて頭で追いついていかないですわ」


「ハヤトさん達はドラゴンを倒したことはありますか?」


「ええ、勿論何回も倒してますよソロでも、パーティーでも」


「ウチラは全員がドラゴンスレイヤーですもの」とセリーヌが加えた。


「おふたりとも夜に馬車とテントをまとめて【シールド】を掛けておくのでトイレで動くときも50メートル以内にしてください。その範囲であれば魔物にも襲われないし、強盗も入ってこれませんから」


「わかりました、いつか機会がありましたら一緒に乗せてもらって空を飛んでみたいです」


「ええ、機会があれば構いませんよ、それではおやすみなさい」とハヤトがいうとクララもスージーももう少し痛かったようだが、ハヤトに言われて、車を後にした。


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