第106話 ヘルカ王国での冒険(3)

ハヤト達は”不落のダンジョン”を夕方まで掛けて制覇して再びハーグナの宿,

”寄り道”に戻ってきた。


幸い部屋は延泊出来たので、明日”古代遺跡ダンジョン”があるシドンの町に向かうことになった。


ハヤトは『聖者の本』を久々に開き、魔力と念、気に関して調べてみる。


ハヤトもセリーヌも魔力は直ぐに検知出来るが”念”とか”気”の流れはなかなか察知しづらい。


”気”ですぐわかりやすいのが”殺気”だと本が教えてくれている。


それと同様に、人の思念の流れは微弱な電流の様なもので、常日頃から”気”の流れを感じて生活をしていないと分かりづらいと書かれていた。


本来ならハヤトよりもセリーヌのほうが精霊に近いので”気”の流れには多少なりとも敏感のはずなのだが、今日のダンジョン内のゴーレムの集団との戦いではどうしても、魔石=マソと言う感じが先走って、なかなか微弱な”気”を感じることが出来なかったのだろう。


ハヤトはその辺の反省も含めて、今後は敵対心とか魔力だけでなく、木々の霊力とか草花の霊力とかを感じる取る様に努力をしようと思っていた。


ハヤトの心のなかに精霊の世界樹様からの思念が流れてきて、声が聞こえた。


”ハヤト、争いに神経を研ぎ澄ますよりも、もっと余裕を持って空気の中の精霊達の霊力を感じてご覧、貴方にはその霊力を感じる力は有るのだから”と声が聞こえた。


ハヤトはベッドで目をつぶり座禅を組んで瞑想し始める。


側にはセリーヌの魔力を感じ、隣の部屋のラッティーやクリエラの魔力を感じつつ、裏の駐車場の中にいる精霊のグラッセの霊力を感じる。


更に心を研ぎ澄ますと、周りの色々な精霊の声や念の流れ、気の流れが何となく頭の中で映像化されて色分けされて見えてきた。


瞑想を説いてもこれが通常に出来るように、これから訓練をしようとハヤトはおもうのだった。


すると、今まで見えていなかった精霊や木々、草花、水の念が流れ込んでくるようになった。


「セリーヌ、精霊たちの声や気の流れを何となく分かるようになったけど、”殺気”や魔力の情報と一緒になって、頭の中がパニクってしまうね」


「旦那様、エルフたちは左脳と右脳、前頭部で感じるものを選り分けているのでやってみたらどうですか?」


「情報をそんな風に分けて考えているの?ちょっと工夫してみるよ」


それからしばらく目を再び閉じて魔力検知等は左脳で、殺気、念、気の流れは右脳で、精霊や人のおしゃべりは前頭部でと情報を振り分けるイメージでやってみて、少しだけセリーヌの言っている意味が分かるようになってきた。


かなり疲れるがこれも慣れだと今後はこの状態で処理しようと思うハヤトだった。


「セリーヌ、そろそろ寝ようか?」


「はい、旦那様、頭を使いすぎた時は睡眠が一番ですわ」と二人はその晩は燃えて違った意味で疲れたようだ!


翌朝、窓を開けて外の空気からいろいろな”気”の流れを右脳で処理しながら空気を一杯吸い込んで気持ちよくなるハヤト、何となくこの旅で一回り成長したようなきがしている。


4人で朝食を食べて、裏に停めている『万能乗用車』に乗り込んでファミリーと一緒にシドンの街の冒険者ギルドに向かった。


途中で空からハーピーの群れが襲ってくるが【サーチモニター】が検知するよりも早くハヤトが検知できるようになっていた。


ハーピーのどす黒い”気”の流れと魔力を別々に察知できた。


セリーヌが『連射の弓』に魔力を流し込み15本の矢を射るとハーピーの頭に全てが命中してバサバサと落ちてきたのを回収する。


もうすぐ街だという当たりで、今度は殺気を感じた。


前方数百メートルの所に12、3人の強盗団が待ち構えている。


「おい、お前たち命が惜しけりゃ、その馬車みたいな乗り物と金を置いてけ!嫌なら女は奴隷に、男の命は無いものと思え」と剣を抜いて向かって来た。


後ろの方に一人の魔法師が魔法を構築して放つようだが、ハヤトは直ぐにたいした魔法で無いので放って置いて、アレンとガードマンに任せて車の中にいた。


アレンは、【瞬足】で7人の首を切り落とし、ガードマンも盾で頭を潰してあっという間に全員を亡き者にしてしまった。


ハヤトは【イレージング】で死体を全て消し去り、街まで連行せずにしょりした。


それから5分後、ハヤト達はシドンの門の前まで来た。


「君等、この街には何の目的で来たのだ?それにこの馬車はなんなんだ?」


「我々はこの街の冒険者ギルドが管理している”古代遺跡ダンジョン”に潜る為にきました。この馬車は魔道具で馬を必要としないものです」と言ってハヤトがカードを見せると、兵士たちは全員直立不動になって通してくれた。


何処の国でもSクラス以上の冒険者は貴族扱いで、特にSSクラス以上は侯爵と同列に扱われているので、門を預かる衛兵たちも緊張したのだろう。


無事にシドンの街に入り、先ずは冒険者ギルドに向かった。


受付にファミリーのカードを出し「”熱き絆”のパーティーが”古代遺跡ダンジョン”に挑戦します」と伝えた。


受付嬢がカードを見ると慌てて、蒼白になり震えている。


心配になって隣の受付嬢が助け舟を出すも、彼女もまたカードを見て、そのカードを持つ手が震えている。


「すみません、”古代遺跡のダンジョン”はどの辺に有るのですか?」


「はい、この街の西5キロの森の中にあります」森の入口に看板があり、ダンジョン入り口には兵士が立哨しているのですぐ分かると思いますよ」と答えた。


「きょうは中途半端な時間帯なので明日朝から挑戦してみます、ここで近くの宿を紹介してください」


「それでしたら、このギルドを出て左に進んで50メートル行った左手に”隠れ家”という宿が食事が美味しくお安いと評判です」


「ありがとう、そこに行ってみます」


ハヤト達は言われた”隠れ家”の宿に行ってみる。


猫族のお嬢さんが受付にいた。


「お泊りですかニャン?食事ですかニャン?」


「ツイン一部屋にダブル一部屋空いてますか?」


「1泊ですか?」


「2泊お願いします」


「ともに一泊銀貨1枚なので2泊で銀貨4枚ですニャン」


ハヤトは前払いで銀貨4枚をだして、205号室のダブルと206号室のツインにはラッティーとクリエラが入った。


時間的に中途半端なので、街を皆で歩いて昼食でも食べようということになった。


ドリスたちと、『スラ』と『イム』それに精霊のグラッセは残り、ラッティー、クリエラ、ハヤト夫婦とキラービーに銀龍がついてきた。


ハヤトは魔力の流れ、気の流れ等を区別しながら感じつつ歩いている。

そうすると今まで何気なく見ていた景色がまた違った感覚でみえてくる。


聞こえなかった精霊達の会話や花や木々の囁き、動物たちの気の流れなどを区別して認識できるようになってきている。


途中の定食屋に入って昼食にする。


エルフとの国境も近く、数人のエルフたちがハヤト達をチラチラと見ている。


ハヤトはそのエルフたちの”気”の流れも右脳で色として表現できるようになっていた。


ハヤトは相変わらず肉料理を頼み、女性陣は魚と野菜料理だ。


この街ではエルフだからと目立つことはなく獣人族もそれなりにいて街を散策していても奇異の目で見られることはなかった。


”古代遺跡ダンジョン”の話をしている連中がいた。


冒険者らしい5人組の男女混合のパーティーだ。


「昨日で難しさは分かったが、きょうは1層も進めないのは誤算だったな」


「そうね、3日掛けて未だ3層よ、この国のダンジョンはどうなっている?」


「魔法が効かない魔物って、私初めてよ。物理的に攻撃するのに剣であいつを切れるのかしら?」


「もう、諦めて明日は通常のクエストにしましょうよ」


「そうだな、我らでは無理だ」


「ところで噂だが、ハーグナの”不落のダンジョン”が踏破されたそうだぞ!」


「うっそー!、あそこは私達1階層でギブアップしたとこよ」


「どんな連中が踏破したの?」何でもブルネリア王国の最強パーティーと聞いたけど・・・」


「でも、噂では変異種や上位種の魔物ばかりで簡単には死なない魔物ばかりだときいたわよ」


「世の中には上には上がいるものね」


そんな会話が聞こえてきたがハヤトは彼らが話してい次の話題に注意を向けた。


「ところで”古代遺跡ダンジョン”てこの国の逸話には魔王が所持していた武器が最後のボス部屋のお宝になっているそうだぞ」


「どういう事?」と女性冒険者が聞いている。


「逸話だから確かかはわからんが、古代人が魔王を封印したときに取り上げた魔法の武器がこの国の古代人が魔王国から持ち帰っていつの日か魔王と戦う人たちにその武器を託したいと言って残したそうだぞ」


「その武器を持ったら魔王みたく無敵の魔物になるのか?」


「まぁ、欲しくても最下層までなんて2階層でギブアップしている俺達には関係ないな」と男性陣がエールを飲みながら笑っていた。


「セリーヌ、聞こえた?」


「ええ、大変興味深い話でしたね!古代人が魔王を封印していたという話もそうですが、魔王が持っていた最後の武器ですか?何となく剣とかではない気がするのですが・・・」


「実は僕もそんな気がするんだよね、剣だったら魔王が最後まで話さず持っていた魔剣、とかいう感じで伝わっている気がするんだ。恐らく違う武器だと思うな」


ハヤト達はその逸話が事実なのか、明日には分かると思いつつ定食屋を出た。


”隠れ家”という宿に戻ってきて、猫娘さんに朝食の時間を聞くと、5時からだというので、ドリスに念話で”明日の出発を6時に宿を出るから早めに準備しておいてね”と連絡した。


ハヤト達は彼の部屋に集まって、4人で別腹のケーキと紅茶を飲んでケーキの美味しさを堪能して夕食までの時間を夫々楽しんだ。


夕食を済ませた4人は明日のことを考えるのはやめにして、寝る準備をした。


翌朝、朝食をすませた4人は、裏の駐車場から車に乗り込みオルバル帝国側の、西方に向かって車を走らせていく。


看板が出ていて、先に森が見え、ダンジョンの場所はすぐに分かった。


ハヤト達は衛兵にカードを見せて”古代遺跡ダンジョン”の中にもぐっていきはじめた。


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