第100話 ノルディー帝国トリーロの街 

アイメールの街で新たに木の精霊グラッセが仲間に加わり、アイバーン2匹の討伐を済ませたファミリー一行は最北の街トリーロに向かった。


『万能乗用車』で時速50キロの速度で凡そ7時間ほどかかる工程だ。


街道を走っていると、【サーチモニター】にどうやら盗賊らしい連中が3キロ先に待ち構えている。


街道に大きな木が横倒しになって、道を塞いでいて、足止めをされたところを襲うようだ。


300メートル手前で、ガードマンとアレンが降りて、アレンが大木をいとも簡単に持ち上げてどかした。


その時約3人ほどの盗賊がアレンとガードマンに5人ほどが襲い、残りの20人以上が300メートル後方に停まっている車に向かって来る。


「キラービーと銀龍、たまには相手する?あっ、『スラ』と『イム』もいいよ!」


”わ〜い、やっと出番が来た。綺麗に消化してきます”とスライム夫婦はプルプルプルルンと飛び跳ねて車から出て迎え撃つ。


キラービーが3人の首の後ろに猛毒の針を指して、痺れさせて戦闘不能にし、銀龍は10メートルほどに姿を大きくして、『火炎咆哮』で10人ほどを一瞬に消し炭にした。


『スラ』と『イム』夫婦は”5人ずつよ”とお互いが言い合って、飛びついては消化して食べていく。


盗賊の中に魔法師が居て、【ファイアスプラッシュ】を夫婦に放つが魔法は体内に吸収されて消えてしまう。


その魔法師二人もキラービーの猛毒にやられて動けなくなったところをスライム夫婦が取り込んで消化してしまう。


ガードマン、アレンに襲い掛かった5人は数分で体と首が離れており、スライム夫婦の食べ物に変わり果てていた。


結局30人もいた盗賊は剣さえも消化してしまう『スラ』と『イム』の早いお昼ごはんに変わってしまっていた。

跡形もなくきれいになった街道を進み、周りが草原になったところで横に外れて、車の中で食事にする。


【次元収納ボックス】(ストレージ)から野菜サラダにイタリアンドレッシングを掛けて、セリーヌ、クリエラ、ラッティーに渡しグラッセ用にと少し多めにドリスが用意してくれてた。


4人には野菜スープ、ハヤトにはボルシチとピロシキにマナバイソンのステーキを出してくれた。


セリーヌ達にはジャガイモの蒸した物が出て、皆満足にお腹いっぱいになったようだ。


スライム夫婦は30人の盗賊の全てをtべ尽くしたので後ろの席で昼寝をしている。


グラッセはファミリーの人外の力を見せつけられて驚きながらも旅の途中の野原でこんなに美味しい昼食にありつける事にも信じられない様子でニコニコ昼食をしていた。


食後はグラッセは『魔法のカップ』から出る霊水を頂き、他の連中はコーヒーをアメリカンにして貰った。


1時間ほど昼食休憩をした後、再びトリーロを目指して動き出した。


その後は強盗などは出てこなかったが、森の中の道ではファングウルフの群れ20頭ほどと、グリーンベア2頭、ホーンラビット15匹が出てきて、全て狩り取り、【ストレージ】に回収した。


空が茜色に染まりそろそろ太陽も沈む頃にトリーロの城壁が見えてきた。


城門の兵士に冒険者カードを見せて入る。


えらく魔動車の『万能乗用車』がきになるのか、触ったりして観察していたが特に文句もなく街に入ることが出来た。


【マッピング】で安く食事が美味しい宿を検索すると、”最果ての宿”という宿が出て、そこに行ってみる。


それ程大きな宿ではないが小綺麗な宿で、ハヤトが「1泊、シングル二部屋、ダブル一部屋空いてますか?」と尋ねた。


「シングル二部屋、ダブル一部屋ね大丈夫よ」と20代くらいのお嬢さんが愛想よく答えた。


「シングルが1泊銅貨60枚、ダブルが銀貨1枚よ。食事は朝、晩ともに5時から10時ね、ラストオーダーは9時半だから遅れないように」

「はい、200,201がシングルで205がダブルの部屋よ」と鍵をもらって各自2階に上がる。


スライム夫婦、精霊のグラッセ等は車の中で夜は要らないと寝るようだ。


ハヤトとセリーヌはシャワーを浴びて着替えてから紅茶とケーキを出してゆっくり

していた。


宿に来る途中で見た冒険者ギルドは最北端の街なのだろうか、少し古びた小さなギルドだった。


ここには辺境伯さんが住んでいて、それなりに栄えていると思ったが、なかなか最果てということで厳しい所が有るのだろう。


夕食になり、ラッティーとクリエラと4人で食堂に行くと食堂は一見して冒険者だと分かる連中で溢れていた。


幸い一卓だけ隅の4人席が空いていたのでそこに座り定食を頼んだ。


北の大地ということも有り、ファングボアの生姜焼きに野菜サラダがふんだんに付いてハヤト的にはとても美味しく感じていた。


スープも野菜スープでパンは黒パンで、スープに浸して柔らかくして食べるようだ。


ハヤトがそれとなく観察していると、エルフの里にも近いということで冒険者の中にはちらほらエルフの姿も見て取れた。


彼らは恐らくセリーヌが皇女でクリエラが近衛騎士団長と知っているのだろう、チラチラ此方を見ては下を向いてもじもじしているようだ。


食事を終えて、上がろうとしている所に体格のいい、魔物の毛皮を纏った冒険者の男が酔っているのだろう、近づいてきて、セリーヌに言い寄ろうとする。


素早く、クリエラが前に立ちはだかるが、腕力に自信が有るのだろう、その男がクリエラを突き飛ばそうとしたが、軽くいなされて逆に宿の床に突っ伏した。


「きさまぁー、この俺に逆らうのかぁ?俺様はこの北の大地の”狼の牙”のリーダーをしているCランクの冒険者だぞ」


「あのーお客さん達、ここは食堂です。言い争いや喧嘩は外でお願いします」と鍵をくれた20歳くらいの女性がおずおずと言う。


「おお、まえら外に出ろ!少し教育してやらぁ」


「私達は教育される覚えは無いわ!もう少し教育を受けたほうが良いのは程度の低い君のほうね」とセリーヌがやんわり言うと、

「うるせぇ!エルフのくせに俺様が教育してやる」と掴みかかろうとした瞬間、側にいたハヤトがチョコンと彼の腹を掌底破でもって押すと、物凄い勢いで外の道路まで吹っ飛んで、気絶してしまった。


”狼の牙”の仲間たちはその技を見て驚き、誰もハヤト達には文句を言わない。


「君らのリーダーなんでしょ?何かあったら僕が対処するから」と言ってSSSクラスのカードを見せて皆を黙らせた。


「さぁ、食事も済んだし二階に上がろう」とセリーヌたちと部屋に戻った。


”狼の牙”の連中は慌てて外に出ると、未だ気絶しているリーダーを起こして、水をぶっかけて気が付かせる。


「ぶるぶるぶる、つめていじゃんかよ!あいつどうした?あの野郎ただじゃ済ませないぜ」


「やめとけよリーダー、あいつには間違ってもかなわないぜ。何せSSSクラスの冒険者だ」


「何だと?あんな優男がか?」


「何かあったら自分が相手すると言ってカードを見せてくれたぞ」


「お前SSSクラスの冒険者に決闘でも申し込むか?先程の体術だけ見てもお前がいくらあがいたって敵わないのは分かるだろ?腹に穴が空かなかっただけども良しとしな!」


「俺も噂に聞いたけど、岩竜の硬い甲羅を通してあの技で内蔵を破裂させて簡単に殺しているSSSを超える化け物の冒険者がブルネリア王国にいると聞いたことが有るぜ」


「ああ、俺もそいつの噂を聞いたことがある。何でもスタンピードのときそいつ一人で1万匹の魔物を神級の【インフェルノ】で一瞬で灰にして街を救ったってはなしだ」


「馬鹿野郎、今の時代に【インフェルノ】を使える奴はいるわけ無いだろう!あれはおとぎ話の世界だぞ」


「いやいや、彼なら出来ると思うぞ、お前に当てたあの技の手加減を瞬時にできる達人だ、【インフェルノ】だって使えるかもしれんぞ」


「まぁ、相手にしないことだな、酔ってお前が突っかかったのが悪いのだからな」


”狼の牙”は初めてSクラス以上の冒険者を目の前に見て、そのことのほうが興奮する事件だった。


翌日朝食を食べて、ハヤト達はギルドに向かった。

クエストを見るとトリーロからゴブレン経由で帝都ヘキメンデ迄の護衛依頼がAクラス以上のクエストとして出ていた。


「セリーヌ、これってちょうどよくない?誰を護衛していくのかも有るけど、我々が行く方向と同じだし、どうだろう?」

「ええ、良いと思いますわ。貴族でも、商人でも護衛するのに変わりは有りませんから」


「良し、これに決めた」とハヤト。


「すみません、この護衛依頼を受けまーす」と言ってカードをだす。


「ええええ?SSSクラスのパーティーの”熱き絆”様、畏まりました。出発は早いほうが良いと言われて居るので明日の午前中ここに9時集合でよろしいでしょうか?」


「はい、私達も明日のほうが都合は良いですから問題有りません、護衛する方はどちらさんですか?」


「はい、こちらの領主の辺境伯のお嬢様と奥様なんです。ですからAクラスだったらもう一組と思っていたのですがハヤト様たちでしたら一組で助かります。護衛依頼は帝都の王宮近くまでということで金貨80枚です」


「わかりました、奥様とお嬢様ですね、僕ら7人いるので我らだけで大丈夫ですよ」


「それじゃ、明日8時40分までにはこのギルド前に集合してください」


「わかりました」


「セリーヌ、きょうはのんびりトリーロを皆で散策して、明日の準備があれば準備しながら街を歩こうよ」


「そうですね、クエストを受けず、皆で午前中から街を歩き回りましょう!」


ハヤト達は街をゆっくりアイショッピングをしながら、洋服屋とか武器屋とか見て回った。


途中、女性陣は女性用の洋服を選んで数着購入していた。


ハヤトは古本屋で『闇魔法』というタイトルの本を見つけ購入してご満悦だ!


昼食を定食屋に入り、女性3人と精霊グラッセは野菜メインの昼食にして、ハヤトはマナバイソンのステーキにパンを頼んだ。


午後からは市場に行って、野菜を少し多めに購入し、明日からの護衛依頼のために準備をした。

お茶を飲んだりしてくまなく街を歩き回って、宿に戻って来たらもう、夕食の時間になっていた。


4人とグラッセを加えたメンバーで食堂に行き夕食を食べた。


今回は冒険者は相変わらず多いが酔って絡まれることもなく食べ終えて二階の各自の部屋に行く。


グラッセはドリスが迎えに来て彼女の肩に乗って車に戻って行った。


翌朝皆が早めに朝食を済ませて、ギルドに向かう準備をしている。


7時半、宿をでてギルドに向かい入り口の脇に目立たないように車を駐車させて待たせ、ハヤトが受付に向かった。


「おはよう御座います、帝都迄の護衛依頼、準備できて入り口脇にたいきしております」


「ハヤト様、これが依頼書です、帝都に着いて宮廷の入り口まで行ったら奥様にサインをして貰ってください」


ハヤト達は、冒険者の入り口で1時間ほど待っていると、立派な馬車が見えて来て騎士たちが5人程馬に乗って、護衛してくる。


騎士団の団長らしき人が、「君たちが今回の護衛依頼を受けた冒険者か?一組だが大丈夫ですか?」


「魔道車の中には全員で7人ほどいますので問題ないです。と言って冒険者カードを見せて納得してもらう」


馬車から上品な女性が降りてきて、「護衛をしていただく方達ね?よろしくお願いしますね」と言って馬車に戻って行った。


「それでは我々が先を先導しますので騎士団の方達は馬車の両側、後ろをよろしくお願いします」


ギルドを定刻どおり出てまずはゴブレンの街に向かって進み始めた。


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