第69話 ボスノー魔道具店

ハヤト一行はナルジェ王国王都内の『迷宮のダンジョン』を制覇して、旅の途中で知り合ったジュリエッタのご両親がやっている魔道具店『ボスノー魔道具店』にむかった。


「ボスノーさん、只今戻りました。無事『迷宮のダンジョン』を踏破できマジックアイテムもゲットしたので素材を含めて一部を差し上げますよ」


「えええ?もうダンジョンを踏破したのですか?あそこはレベルが高く誰もまだ踏破できてない未踏破のダンジョンですよ!」


「確かにアンデット系の魔物や黒龍では通常の冒険者には少し厳しいかもしれませんね。黒龍の牙を4本と鱗を10枚ほど持って来ているのでお渡ししますよ、魔道具の素材に使ってください」


「ハヤトさん!幾ら何でも黒龍の牙や鱗は白金を出して購入するほどの価値があるものです。いただくわけには行きませんよ」


「いえいえ、一宿一飯の恩義がありますから・・・」


「いや、それこそ娘を救ってくださりここまで連れて来たくださったからで、その上そんなに高価なものをいただくわけには参りません」


「それでしたら、今晩の夕食をご一緒させてくださることでお願いしますよ」とハヤトは牙と鱗を置き、更にマジックアイテムの”魔力を通すと真水が湧き出るカップ”と”マジックバック”を机にだした。


奥さんが「ハヤトさん、このカップとバックは?」


「ああ、それは以前踏破したダンジョンで宝箱からゲットしたマジックアイテムのカップとマジックバックです。カップは魔力を流すといつでも真水がカップいっぱいになる品で、冒険社などには高く売れますよ。それとマジックバックは容量はオークが5頭程度しか入らない容量ですが、これも冒険者には喉から手が出る程欲しがる品物だと思うので受け取ってください」


「ジュリエッタを助けていただいてこれ以上ない恩が有る方からこんな夢見たい高価なものばかり頂いて夕食だけとはとても申し訳ないです」


「いえいえ、奥様の手料理が美味しくて忘れられないので厚かましくも今晩もご馳走になります」


「そんなことなら、今晩とは言わず、明日も明後日でも構いませんわ!」と奥様が言ってくれた。


ジュリエッタはハヤトが持って来たマジックアイテムのカップに興味があるのか一生懸命鑑定するも真水を生み出す魔法式を読み取ることが出来ずにいらだっていた。


母親から「まだまだジュリエッタには同じものを作るには30年早いわね!」と言われがっくり来ている。


ハヤトがジュリエッタに「カップの魔法式を徳というより、水の属性を持つ魔石粉を使っているのじゃないの?」とヒントを貰い何か閃いたようだ。


ジュリエッタは工房に飛んで行きハヤト達の前から消えてしまった。


「あらあら、ジュリエッタたら恩人のハヤトさん達をそっちのけで魔道具作りに目がないとは・・・」


「いやいやご夫妻のいい跡取りが出来たのじゃないですか?」


「そうだといいんですが」


2時間ほどお店にお邪魔して、再び冒険者ギルドに戻ったハヤト達は受付嬢からダンジョン踏破のお金を受け取る。


「ハヤトさま、魔物の値段でけでも黒龍を討伐しているので高額の上にダンジョンコアと地図製作も入り、白金35枚金貨80枚銀貨68枚銅貨70枚となります。それと皆さまのカードを返却させていただきますが、ドリス様、アレン様、ガードマン様がSSクラスに、セリーヌ様がSSSクラスになっております。ですので”熱き絆”のパーティーランクはSSクラスからSSSクラスに昇級しましたのでカードも変更しております」


「ドリス達もSSクラスになったかぁ!」


周りで聞いていた他の冒険者が一斉にカウンターにいる5人に視線を送る。


ひそひそ話で色々聞こえてくるのをスルーして再びボスノーの魔道具店に向かった。


ハヤト達が戻って来たのを機にボスノーが店を締め始めハヤトが「あれっ?」という声を上げる。


「ボスノーが笑顔で今日はハヤトさんからとびきり高級素材とマジックアイテムをいただいたので早めに店仕舞いしてダンジョン踏破のお話を聞きながら晩御飯をと思っております」


「よろしいのですか?」


「勿論ですよ!誰もなし得なかったダンジョンをこの短時間で踏破してしまわれてドラゴンスレイヤーにもなった5人パーティーを祝っての夕食です」


「ありがとうございます、お言葉に甘えます」

皆でボスノーの家に歩いて向かう。


ドリス達は『万能自動車』で一足先にボスノー家に行き庭に駐車させて車内でのんびり一夜を過ごす予定でいる。


ジュリエッタの母親のルビアが「それにしてもハヤトさんの『万能乗用車』といい、お仲間のアンドロイドですか?ゴーレムの3人の作りといい、冒険者にしておくには勿体ないほどの錬金術師ですわ。ハヤトさんのような人が沢山いたら私たち魔道具屋は商売上がったりですわね」と冗談とも本気ともとれる言葉を呟いていた。


話しながら歩いてあっという間に家について、ルビアとジュリエッタは夕食の準備に台所に行きボスノーさんとハヤト夫妻がリビングの椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「ハヤトご夫妻はこの後のご予定はどうされるのですか?」


「僕らはオルバル帝国で開かれた武道大会を見て獣人国の冒険者の身体能力に興味を持ったので旅行を楽しみながらナルジェ王国の隣国、キース獣人国に言って見たいと思って旅に出たので、この後はキース獣人国に向かうつもりです」


「そうですか、キースはここバスタードの街から馬車だと3日ほどかかりますがハヤトさんの車でしたら2日目の夕刻には獣人国の最初の街には着けるでしょう」


「獣人国って我々人間族に対して閉鎖的ですか?」


「そうですね・・・、閉鎖的というより獣人の方が身体的に優位なものですから人族を下に見る傾向の人が多いので絡まれる危険性は人族の国よりは多いですがジン族の国ほど差別意識は有りませんよ」


「冒険者ギルドはあるのでしょうか?」


「人族の冒険者は殆ど見かけませんが獣人の冒険者は其れなりにいてダンジョンが2箇所程有ると聞き及んでいます」


「実は、ご存知かもしれませんが獣人族は魔力が無いのでそれを補うためにマジックアイテムというか、魔道具を盛んに人族の魔道具屋から買うので結構ジン族の経営する魔道具屋が多いですよ。私も半年に一度の割合で家内と獣人国に出店をだして商売しに行きますから」


「おお、そうだ!もしハヤト様達が宜しければ後2、3日我が家でお泊まりしていただければ家内と娘を連れてキース獣人国にそろそろ行こうと思っていたのでご一緒に行きませんか?魔道具店を3、4日間程キースのダンジョンの一つの近くで出店をやろうと思っているので・・・!」


「セリーヌ、どう?」

「そうですね、キース獣人国は全く私たちには情報が無いのでボスノー様達と行動をご一緒できればトラブル等は未然に避けれるかと」


「それでは、ハヤトさん早速私どもはダンジョン近くに宿を取りますのでハヤトご夫妻も一部屋予約しておきますよ、そこを拠点にもう一つのダンジョンにも行かれればよろしいのでは?」


「それではご一緒にさせてください、日数はボスノーさんと同じで構いませんので。また、ボスノーさん達は馬車で通常行かれるのですか?」


「私たちは普段は乗合場所を乗り継いで荷物を抱えて行くのですが・・・」


「でしたら私達の『万能乗用車』にご一緒にのり、商売用の魔道具は先ほどあげたマジックボックスのストレージに入れて行けばよろしいですよ」


「そうしていただけると助かります。途中ナルジェで2泊して3日目にキース獣人国の第二の都市で一泊して首都に向かいます。首都はモルディナという名の街で王様は獅子族の王様がおります。その首都の街に一つ目のダンジョンが有るので私どもはいつも其処で出店を開くことにしております」


「そうですか、それでしたらボスノーさんに宿はお任せします。金額は銀貨2枚の4日分を取り敢えずお渡ししますね」とハヤトは銀貨8枚を出すが、


「とんでもない、車に乗せていただいてストレージに魔法のカップや龍の牙などを頂いてそれだけで白金何枚分も頂いているのですからそのぐらいは面倒見させてください」と頑として固辞された。


そんな話をしていたらジュリエッタから夕食の準備が整ったと声がかかった。


3人で向かうと、食卓にはマナバイソンのステーキに野菜サラダとスープそれとパンと白米のご飯、あとジャガイモとファングボアの煮込んだ日本でいう、肉じゃがのようなものが出ていた。


「それではハヤトご夫妻のダンジョン制覇を祝ってカンパーイ!」とボスノーさんの音頭で食事会が始まった。


「ルビア、先ほどハヤトさんご夫妻とも話をしていたのだけど、この後ハヤトさん達はキース獣人国に向かうそうなんだよ、それで私たちもちょうどそろそろ獣人国で出店を開いて商売する時期に来たじゃないか、なのでハヤトさん達に便乗して一緒にキースに向かうことにしたんだ。幸いハヤトさん達の車で行くのでナルジェ国内でケルンとベルスナードに泊まればキースのギゼーに翌日夕方には着くし、日程も1日短縮できるからね。それと商売品はハヤトさんから頂いたストレージに全て入るから2日を目処に準備しよう」


「お父さん、キースに私も当然連れて行ってね!魔道具の修理とか看板娘が出てれば売り上げ倍増よ!」

「売り上げ倍増かはわからんがお前も当然連れて行って商売のイロハを教えるつもりだよ」


そんな会話で話が弾み、食事も楽しく進んだ。

翌朝、ジュリエッタ親子達はキースに向かう準備を始めている。


ハヤト達はギルドに向かい高ランクのクエストを探して依頼書を2枚ほどセリーヌが剥がして来た。


一つはバスタードから10キロ程西に行った山間にオークの群れがいて近くの村を襲って被害が大きいので討伐依頼が出ている。

オークの群れの数が多く討伐依頼ランクがAランクになっていた。


もう1件はやはりバスタードの北西に3キロほど入った森の中のフォレストベア2匹の討伐以来だ。


受付嬢にこの2枚をを差し出し、5人のカードを出す。

流石に”熱き絆”のSSランクパーティーは先日のダンジョン制覇で一躍有名になりしかも美人のセリーヌとドリスが冒険者の羨望の眼差しをいっしんに受けている。


「何やら奥様とドリスに対する冒険者の眼差しが痛いよな!」とハヤトが軽口を叩きながらカードを受け取り依頼書を持って冒険者ギルドを出て行く。


『万能乗用車』に乗り込み西10キロのところに向かって走り出した。


スピードを60キロ程に上げて走ったので、僅か10分ほどでオークが潜む洞窟の前に到着する。


洞窟の入り口には見張りのオークが2頭がいる。


セリーヌが”殲滅の弓”に魔力を流し、簡単に2頭の頭を射抜き倒して洞窟奥に向かって、ハヤトが【ファイアボール】を洞窟の大きさギリギリに作って放った。


【ファイアボール】は洞窟をまっすぐ進んで奥に潜んでいたオーク30頭をことごとく焼き殺し消滅する。


洞穴の横穴に逃げたオークジェネラルとオークキングそれと、10数頭のオークが剣を持って洞穴から出てくる。


5頭程をハヤトの【エアカッター】で首を切り落とし、手前のオーク5頭はアレンとドリスによって首を切り落とされてしまう。


ガードマンはオークジェネラルが振りかざして来た剣を盾で弾くとジェネラルの剣がぽきっと折れて、その隙をガードマンによって首を切り落とされる。


オークキングはセリーヌの『連射の弓』で頭を矢に射抜かれて爆裂して即死した。


洞穴に入ってハヤトは焼け死んだオークの遺体30頭と出て来て首を切り落とされた首なし死体10頭とジェネラル1頭、キング1頭を【次元収納ボックス】に回収した。


再び『万能乗用車』に乗り込んだ5人は少し戻って次の目的の森に来ていた。


キラービー3匹が森2キロ先のフォレストベア2匹の映像を送ってきた。


森の中に分け入り2匹の対応はアレンとガードマンに任せることにした。


フォレストベアの皮膚はごつい毛でおおわれかなり硬いので冒険者達は何回も剣を振るわないと致命傷を与えられないが、アレンもガードマンも剣技スキルが高いので一振りで首を切り落とせる。


あとは怪力のフォレストベアの腕の振り回しに注意を払うだけでいい。


やっとフォレストベア2匹のところにたどり着いた。


アレンが先ず邪魔な片腕を切り落とし、次に片足も切り落とし倒れたところを首を簡単に切り落とした。


ガードマンはぶん回してくるフォレストベアの腕を盾で防ぎつつ、首を狙いすまして切り落として2匹の討伐を終了した。


帰りはのんびりと戻り素材置き場に刈り取った魔物達を取り出して納品書をもらって受付にクエスト終了の納品書を出した。


受付嬢はあまりに依頼達成が早いのに驚くがカードを見て納得したようだ。


しばらく待つと清算のお金、金貨20枚銀貨15枚を受け取り、ハヤトはそれをカードに入れてくれるように頼んでハヤトの冒険者カードに振り込んでもらった。


時間的には昼少し前で、冒険者食堂で食事をとる事にした。


久しぶりにギルドの食堂で食べる二人、ドリスらは3人とも側に座っている。


だんだん混み出して来たのでドリスら3人は外に出て車の中で待つ事にした。


空いた3つの席に他の冒険者が座り盛んにセリーヌに話しかけて来る。


「どうだい、お姉さん!俺たちとパーティーを組んで午後からクエストをこなさない?」


「悪いですね!私はすでに主人とパーティーを組んでいるのでお断りするわ」


「旦那って、こいつか?」とハヤトを指す。

「こんな子供か大人か分からない優男じゃ魔物に食われてしまうぜ、それより俺たちCランクの冒険者の方がクエスト達成の確率は全然高いぞ!」


「申し訳ないわね、Cランクでは私たちとは釣り合いが取れないからやはりお断りするわ」

「いやいや、姉ちゃんがランク低くてもちゃんと俺たちがカバーしてやるからその辺は大丈夫だぞ」


「いえ、釣り合わないというのはあなた達では私たち夫婦よりランクが低くて釣り合わないということよ、少なくともAランクの上位になったら声をかけてね」

と言ってSSSクラスの冒険者カードを見せた。


冒険者3人はカードを見せられて驚いてすごすごと別の席に移動した。


周りの冒険者達は昨日未達成の『迷宮のダンジョン』をあっという間に達成した夫婦だと知っている連中は笑いをこらえて3人の冒険者を見ていた。


ハヤト夫婦はボスノーの店に戻り、二階の客間に上がって少し魔道具を作り込んで

ボスノー夫婦に渡そうと作り込む事にした。

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