第70話 獣人国キースに向かって(1)

ハヤト達はボスノー夫妻と娘さんのジュリエッタと一緒に獣人国の首都モルディナに向かう事になった。


ボスノーさん達が出店するための魔道具を整理したり荷造りをする2日ばかりを利用してハヤトは『マジックアイテム創造ボール』から若干の魔法を付与したミスリル製の剣を何個か作る事にした。


『マジックアイテム創造ボール』の武器のボタンを押しながら念を込めるとミスリル製の剣が出て来る。


送った念の通りの魔法が付与されているか、ほんの僅かながらの魔力を流すと剣が

炎を帯びた。


この場ではこれ以上実験ができないので『万能乗用車』を駐車している庭に出て、ハヤトは自分自身を【結界】で10メートル四方に包んだ。


【結界】の隅に立ち対角線上の隅に向かって炎の剣を振るうと、剣から激しい勢いで炎の刃が飛んで結界に激しく衝突して霧散した。『炎の魔剣』の完成だ。


次に同様に氷の魔剣を念じて『マジックアイテム創造ボール』を押してミスリル製氷の剣を作り出す。


【結界】の中で氷の魔剣を振るうと対角線上の隅に氷が飛んでいき激しく衝突して砕けた。


それぞれの『炎の魔剣』と『氷の魔剣』を2本ずつ【複製(デュプリケーション)】魔法をかけて2本ずつ複製コピーをし、3本ずつボスノーさんに渡そうと【次元収納ボックス】に入れた。


次に野営用テントを3点作成し、テントを広げて作ると中には次元魔法で広々と4人が悠々寝れる広さになり、魔物避けの【結界】が展開される『マジックテント』に作り込んだ。


これも実際に庭でテントを広げて設営してみると中の空間は外見では一人用だが中は4人用の広さで【結界】も施されることが確認できた。


夕食を食べ終えて皆でお茶を飲みながらボスノーさんが「ほぼ準備できたので、明日朝食を食べたら出発しましょう」とハヤト達に伝えた。


「それでしたらボスノーさん、こちらの魔道具をお譲りしますのでお店の棚の恥にでも置いて売れるか並べてみてください」と【次元収納ボック(ストレージ)】から出して『炎の魔剣』『氷の魔剣』各3本ずつと『マジックテント』3張りをわたした。


「ええ、これは?」


「ちょっと午後から作ってみたので売れるか分かりませんが全て検証はしており性能的には問題ないかと・・・」


「この6本の剣はすごい性能ですよ!白金でも買う人が居ると思います。このテントも次元空間魔法に結界魔法まで付与されて、いくらの値をつけて売ればいいか分からないほど高級魔道具ですよ」


「一応差し上げますのでご自由に値をつけて今度の出店で売ってみてください。ただ獣人族は魔力が無いか有っても少ないので僅かな魔力でも反応する様にして有ります」


「嬉しいのですがとても頂く訳には、せめて仕入れ値をおっしゃってください」


「いやぁー、午後の時間の暇つぶしで行った作業ですから本当に差し上げます」


「それじゃ、明日の朝出発ということで僕らは先に寝かせてもらいます」とハヤトは逃げるようにセリーヌと2階に上がってしまった。


残された3人、ジュリエッタは「お父さん、ハヤトさんがくれた剣ってそんなにすごい剣なの?」


「ああ、魔法が付与されてなくてもミスリル製というだけで金貨50枚ほどする品物だよ。それが炎をまとい、相手に炎の剣が飛んでいくのだからすごい剣だ」


「こちらの剣は?」


「こっちも同じミスリル製で氷の剣が離れていても飛んでいき氷の剣で切り倒すすごい魔剣だ。テントは外見では1人用だが中に【次元空間】魔法が施されていてなおかつ設営して広げると魔物や敵から守る【結界】が施されるように魔法が付与されて居るんだ」


「ええええ・・・、それってお宝ものじゃない」


「そうなんだよ、これを展示するとうちから展示する魔道具があまりにも貧相になってしまうかもしれんな!」


「『マジックカップ』も展示したら?」と奥さんから声がでた。


「『ストレージ』は今後も物を入れるのにぜひ必要ですが『マジックカップ』は私たちには重要ではないでしょ?」と奥さんがいう。



「でも、頂いたものをうるのもなぁ!」


「ハヤトさんなら気にしないと思うわ、売れたら喜ぶと思うわ」とジュリエッタも賛成する。


「それじゃ、一応全て『ストレージ』に入れて行こう」とボスノーは決断した。


翌朝5人は皆早起きして7時には朝食を済ませ戸締りをして『万能乗用車』に乗り込みバスタードの北門を出てまずはケルンの街に向かった。


門から出て1キロほど進んでから『万能乗用車』の【透明化(インビジブル)】のスイッチを入れて500メートル周囲に魔物や人がいるときは見えなくして走行をするのだった。


途中は問題も無く進んだがボスノー一家が『万能乗用車』に興味深々で三人が交互にハヤトに質問攻めで流石のハヤトも答えるのに疲れきってしまっていた!


やっとケルンの街につき少し遅めの昼食を皆で食べる。


その間も次元空間の作り方はどうするのかとか動力は魔石からどの様にすればタイヤに伝達出来るのかなど錬金術屋さん三人を相手には閉口しているハヤト。


早々に食事を終えて、宿を抑えに向かう。


ボスノーさんがいつも定宿にしている処に向かい3部屋抑えられたのでボスノーさんが全て宿代を持ってくれた。


ハヤトが払おうとしたが頑として払いを固辞するので仕方なくおまかせしてセリーヌと201号室に入った。


時間が未だ有るのでケルンの冒険者ギルドにセリーヌと二人でどんな感じのギルドなのか見に行った。


ケープよりは小規模だがそこそこ混んでいる。


どんな依頼が有るのか見てみると残っているのは屋根の修理依頼とか下水の清掃といった類が残っていて魔物討伐依頼は朝の内に無くなっているようだ。


掲示板を見ていたら後ろの入口の方で何やら騒がしく、受付嬢が走って入口に向かうところだった。


入口の扉を見ると冒険者4人が倒れる様にギルドに入って来て一人は片足を失い、一人は片手の肘から先を失い、もう二人は背中と腹に可成の深い刀傷を受けて倒れ込んで来た。


「誰かヒールを掛けられる奴は居ないか?オークの群にやられた!」


受付嬢が大声で「ヒーラーの方はいらっしゃいませんか?ヒーラーで無くても回復術を使える方ならどなたでも結構です」と叫んだ!


セリーヌがハヤトをチラッと見る。


「しょうが無いね!助けてあげないとね」とハヤトはいうが早いか、彼らの所に一瞬で近ずき、「僕がやろう」と受付嬢が何か言おうとする前に片足を失った男に手をかざし【エクストラハイヒール】を掛け、続けて片手を失った男にも同様に【エクストラハイヒール】を掛け、二人の男の切り口には【エリアハイヒール】を掛けてあげる。


片足の男の足が再生され、片腕の冒険者の腕も元に戻り、深い刀傷の男二人は瞬く間に傷口が塞がり完治した。


「4人とも可成の出血もしているからゆっくり休んで置いた方が良いですよ」と受付嬢と男達に言ってギルドを出ようとして、受付嬢が慌ててハヤトを捕まえ「あのー、見かけない方ですが冒険者の方ですか?この度のお礼と謝礼をさせて下さい」と必死になって引き止められた。


ハヤトが冒険者カードを見せると彼女はブルブル震え「SSSクラスの方ですか!この世界でただお一人の・・・」


「暫しお待ち下さい、只今ギルドマスターを呼んでまいりますから」


「いや、そんな大袈裟にしなくて良いから、謝礼も要らないし、当たり前の事をしただけなのだから」


「お大事にね!出血した血は魔法では作れないからゆっくり休んで下さい」と言って余りの奇跡の出来事に対応しきれない冒険者4人に告げてギルドをあとにする。


宿に戻って夕食の時間までセリーヌとお茶をして階下の食堂に向かいボスノーさん達を待った。


5人で夕食を食べているとギルドで会った受付嬢ともう一人美しいエルフの女性が宿に入ってきて、ハヤト達の方に歩いてくる。


ボスノーさんは商売柄彼女達を見知っている様で慌てて立ち上がり挨拶をする。


エルフの女性が手で制し「ボスノーさん達のお知り合いの方でしたか!SSSクラスのハヤト様、お初にお目にかかります、私ケルンのギルドマスターをしておりますローラと申します。ええ?セリーヌ様?セリーヌ皇女様?」


いきなりセリーヌを認めたギルドマスターが床に跪いて恭しくセリーヌに挨拶をする。


ボスノー達も驚くがセリーヌが「ローラ、顔を上げて下さい、ここでは皇女では無くハヤト様の妻ですから」と言ってローラを立たせた。


「ハヤト様、この度は私共所属の冒険者の命をお救い頂き誠にありがとうございます。ほんの僅かな気持ちですがお納め下さい」


「そんなぁ、当たり前の事をしただけなのに」


「いえ、これはクエストの報酬だと思ってお受け取り下さい。彼ら4人の冒険者はケルンの冒険者ギルドの中堅でギルドの有望株なのです。ハヤト様がいなければもう冒険者をやって行けなくなるところでした」


「わかりました、ギルドマスターさんにも立場がおありなのでしょう。有難く頂く事にします」


「しかし、まさか皇女セリーヌ様が世界最強のSSSクラスの奥様とは驚きました」


「私もまさかここでローラに会うとは思わなかったわ!」


「セリーヌ様達はこの後のご予定は?」


「私達はこの後獣人国に行って数日滞在したら、戻るつもりです」


「それでしたら、帰りに是非またケルンの冒険者ギルドにお寄り下さい、お待ちしてます」

「わかりました、その時はローラを訪ねますね」


その言葉を聞いてほっとした顔をして受付嬢とローラギルドマスターは冒険者ギルドに戻って行った。


「セリーヌさんはお姫様だったのですね?」と興奮した声でジュリエッタがセリーヌに言う。


「ところでギルドで何が有ったのですか?」とボスノーがハヤトに聞いた。


ハヤトがギルドでの出来事を話すとボスノー以下3人は驚いて「足と腕を再生?ですか・・・」


「まるで神様ね!」とジュリエッタが呆れている。


「いやぁー、【上級回復魔法】をかけただけだから」とハヤト。


その後夕食を終えて各自部屋に戻ってシャワーなど浴びて翌日に備え皆は早目に寝るのだった。


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