第66話 魔道具屋の娘

ハヤトがオルバル帝国の武道大会を見て感じた事は、人族のSランクには確かに負けたが純粋な体力や身体能力では圧倒的に獣人族の方が勝っていた。


獣人族は魔法を使える者が居ないと聞いているが、もし魔法が使えたら恐らくは優勝はビズモンドさんではなく獣人族の冒険者になっていただろうとさえ思っている。


しかも獣人の彼はSランクでもなかった。


それなのでハヤトは獣人国に興味を持ち、セリーヌにケープからルーベン迄行き、ナルジェ王国のバスタード経由で獣人国迄冒険の旅に出ないか提案していた。


ケープからは10日以上掛かる長旅になるが未だ訪れたことの無いナルジェ王国にも興味が有るのでセリーヌも勿論賛同してくれる。


翌日ドリスが作ってくれた朝食をたべてケープの朝市に5人で出掛け、食料品を大量に買い込んで、その足でギルドに向かった。


受付にキャロルさんがいたので予定を伝える。


「ルーベンから北に上がってナルジェ王国の王都バスタード経由でキース獣人国に入って冒険の旅をして来るから一ヶ月程留守をします」


「ええ、マスターが未だ王都から帰って無いのに」とキャロルは不服そうに言っているのをスルーして『万能乗用車』に乗り込んでグランデに向かって走り出した。


途中『魔道鉄道車』と並走するもヌーベル手前で二人は車の中で昼食を取って休憩したので『魔道鉄道』に追い抜かれて、その後はドリスに運転を任せのんびりと最初の宿泊地グランデに着いた。


グランデの宿“鏡月亭”に行き1泊ダブルの部屋が空いているか聞くと幸いにも空いているので、早々料金を払って二階の部屋に上がった。


二人はシャワーを浴び、着替えてから食堂で夕食のファングボア生姜焼き定食を食べる。


味付けは生姜が効いていてなかなか美味しかった。


二人はその後手を繋いで街を散策して宿に戻ろうと後少しの道程で酔った3人の冒険者に絡まれるがハヤトが一瞬で3人の首筋に手刀を当て、意識を刈り取ってしまう。


再びセリーヌと手を繋いで宿に戻って仲良くベッドに潜り、ハヤトはセリーヌの豊かな胸の膨らみを感じつつ意識を投げ出した。


翌日、朝食を食べて早々車を走らせルーベンに向かう。


王都ジュネべの少し手前で街道から少し外れた処で昼食を食べていざ出発という時にオークの群れ7匹が襲ってくる。


やはり少しでも街道から外れると魔物が出やすいのだろう。


ガードマンとアレンが車から降りて、ガードマンは盾で2匹を潰し、剣で1匹の首を切り落とした。


アレンは2匹の首をあっという間に切り落とした後、残り2匹をレーザービームで頭を破壊して殺した。


ハヤトが「きょうの宿代にはなったね!」と軽口を言いながら【次元収納ボックス】に入れて再び車を走らせる。


王都ジュネべを通過してルーベンまではスピードを上げながら走り、夕刻の6時半にやっとルーベンの街に入った。


街に入って最初に目に付いた割と高級感のある宿に一泊ダブルの部屋があるか聞くと空いていると言うので銀貨2枚を渡して鍵を受け取る。


夕食前にギルドに行って今まで倒した魔物の買取をお願いした。


ギルドカードを出したら、いきなり受付嬢が震え出して他の受付嬢が心配して飛んでくる始末・・・。


どうやらルーベンの冒険者ギルドではSクラス以上の人が未だ来たことがなく驚いて焦ったようだ。


ビズモンドの護衛で倒したのも含めてきょうのオークを入れて金貨1枚と銀貨15枚になった。


宿に戻って1階の食堂で夕食を取った。


宿は新しい街なのにかなり人がいてそれなりに混んでいる。


「旦那様が『魔道鉄道車』を敷設して出来た街ですがこんなにも栄えて鉄道を轢いたかいが有りましたね!」


「そうだね、僕としても宿も繁盛している様だし嬉しいよ」


食事も美味しく頂き2階に上がって二人でいつもの様にシャワーを浴びて早目にベッドにダイブした。


部屋に【結界】を施し、音が外に漏れないようにして、夫婦の営みにハヤトはがんばるのだった!


翌朝、久々に朝練を二人で行いシャワーを浴びてから着替えて食堂に降りて行く。


朝食は卵フライにサラダとファングボアのバター炒めと黒パンだった。


2階の部屋に戻って紅茶を飲んでから出発の準備をして階下に降りた。


宿の前には既に『万能乗用車』が二人を待っている。


きょうの運転手はガードマンがやるそうで彼は張り切っている。


ルーベンからナルジェ王国の王都バスタードまでは小都市が2、3箇所有るだけで人口も3万人程度らしい。


先ずはきょうの予定の国境の街ソムレドを目指して街道を北へ走る。


ルーベンを出ると途端に道も狭くなり周りは平原と森が見えるだけの景色だ。


森に入って10分程するとグリーンウルフの群れ25匹に囲まれてしまった。


久しぶりにハヤトが『白兎』を構えて車から降りる。


途端に10数匹のグリーンウルフが尻尾を垂らして逃げて行ってしまう。


それでも12匹のグリーンウルフは唸り声を上げて威嚇して来る。


ハヤトがほんの少し殺気を放つとその12匹もキャンキャンキャンと尻尾を下げて逃走してしまった。


「旦那様、あんな弱小魔物に殺気を放ったら逃げて仕舞うにきまってるでしょ!」

とセリーヌに怒られてしまった。


途中の平原で昼食を取っていると、ホーンラビットの群れが近くに現れ、アレンがレーザービームと剣で全て刈り取り、【次元収納ボックス】に回収する。


ソムレドの街に着いたのが4時半頃、宿を見つけ一泊ダブルで空いているか聞くとダブルは無いがツインならあると言うのでそこを取って銀貨16枚を渡し、鍵を貰って部屋に入った。


ツインの部屋は広く小綺麗な部屋でお風呂もついている。


早速二人でお風呂に入って着替え早目の夕食を食べに食堂に行った。


マナバイソンのステーキに野菜スープ、それにサラダの盛り付けとパンがお代わり自由でなかなかの夕食だ。


宿の客層は冒険者より商人が若干多い感じがする。


このソムレドにはダンジョンは無いがそれなりに魔物が多いので冒険者にも人気があるらしい。


また、カルジェ王国との交易の街でそれなりに商人も多いようだ。


夕食を終えて、二人はソムレドの街を散策して歩いていると近くで男女の言い争う声が聞こえ、女性の悲鳴迄聞こえたので走って悲鳴が聞こえた場所まで行くと、ひとりの女性に3人の冒険者風の男達が手を掴んで無理やり連れて行こうとしているところだった。


「女性が嫌がっているじゃ無いですか!どういう理由か分かりませんがおやめになったら?」


「何だぁお前は?おお、お前もいい女だな、俺たちが今晩可愛がってあげるから一緒に来い!」


セリーヌの手を掴もうとする手を、彼女は逆に関節技で肩から腕を一瞬で外してしまった。


「ギャァ、痛てぇよ腕が外れてしまった!おいお前らこの女も少し痛い目に合わせて今夜は・・・」言いかけた瞬間セリーヌの手刀が男の首を襲い男はその場に倒れこんだ。


二人の男が流石に剣を抜いて「俺たちはDランクの冒険者だぞ、片端になりたく無かったら大人しくしろ」


「貴方達みたいな冒険者が居るから冒険者の評判が落ちるのよ」

そう言うとセリーヌは彼らが目で追えない動きで剣を取り上げ、首筋に手刀を放ち意識を奪った。


三人の男達を縛り上げ、衛兵を呼んでハヤトは衛兵達に王様から頂いた書面を見せ更に冒険者カードを見せて連行させた。


ハヤトが衛兵に見せた書面には“この証書を持ったハヤト夫妻の言は私、ベンジャミン・スミノフ・ブルネリアの言である ”という王様直々のお墨付きのモンモンだった。


衛兵達は自国の最高ランクの冒険者カードを見せられ、王様直々の証書を見て直立不動の姿勢で敬礼していた。


助けられた女性はセリーヌに向かって「危ないところをお助け頂きありがとうございます。何と御礼を言って良いのか・・・、私はジュリエッタと申します。旅の途中で散歩中に絡まれてしまって、怖くてどうなるかと思ったところ本当にありがとうございます」


「どうって事有りませんよ!私はセリーヌ、こちらは旦那様のハヤトさん。あの男達と残念ながら同じ冒険者なの、でもあんな連中ばかりが冒険者だと思わないでくださいね!」


そう言うとハヤトと手を繋いで宿に戻ろうとするとジュリエッタがのこのこ付いてくる。


「ジュリエッタさんどちらに行かれるの?」


「私が泊まってる宿は直ぐそこなんです」と恥ずかしそうに喋る。


聞いてみると同じ宿で彼女もバスタードに居る両親の元に行くとの事で王都迄一緒に行く事になった。


ジュリエッタの話によると自分はブルネリア王国の王都の国立魔法学園の錬金術科を卒業し、親元で魔道具を作って店の手伝いをする為に帰る途中なのだそうだね。


御両親は魔道具屋を営んでいて自分も含めて魔道具の【鑑定眼】のスキルがあるのだそうだ。


ただし人の【鑑定眼】はないそうであくまでも魔道具関係だけの鑑定眼だと話してくれた。


その辺はハヤト夫妻は既に会った時に分かっていたが何も言わないでいた。


宿に戻り部屋に上がると偶然お隣同志で、明日は一緒に朝食を取って国境を越えバッキスの街で一泊して王都のバスタードに行く。


朝食を一緒に食べながらもっぱら喋っているのはジュリエッタでハヤト夫妻は聞き役だ。


「私の最高傑作の魔道具は卒業作品の耐火マントなんです」とセリーヌとハヤトにバックからつかみ出してシワシワになった黒いマントを見せて来た。


セリーヌとハヤトはそのマントを見て”確かに耐火の魔法が付与されているがこの程度では未だ未だうりものにならないな”と見定めている。


それでもハヤトは学生が一生懸命頑張ったマジックアイテムが出来上がった時の喜びは何となくわかるので「すごいですね!苦労したんでしょうね」と言葉を添えた。


朝食を食べ終えて、宿の前に横付けられた『万能乗用車』を見て、震えて声も出ないジュリエッタにセリーヌが優しく声をかけた。


「ジュリエッタさん、馬車じゃないけど馬車よりも乗りごごちは良いわよ。どうぞお乗りなさい」


「ドリス、アレン、ガードマン、昨夜知り合ったジュリエッタさんよ。ナルジェ王国のバスタード迄ご一緒するからよろしくね」


「ジュリエッタです。セリーヌさんに男達から絡まれているところを助けて頂き偶然宿が同じでお言葉に甘えてバスタードまでご一緒させて頂きます。宜しくお願いします」


きょうはドリスがバッキスというナルジェ王国の街まで運転することになった。


前列にアレンとガードマンが座り、後ろの机などがある部分の席にセリーヌ、ハヤト、ジュリエッタが座って紅茶とケーキをジュリエッタに出してあげる。


「セリーヌさん、こここの乗り物は一体ななな何なのですか?中が次元空間まほうが付与されて外見よりすごく広くトイレとお風呂もついてベットもあって・・・そそそれにこの食べ物、初めて頂くお菓子ですがこんな美味しいお菓子をいただくのは生まれて初めてです」


「これは全て旦那様の作り出すお菓子よ。私も最初は驚いたけどやっと慣れて来たところ」


「この馬車は魔法で動いているのですか?」


「これはね、魔石を数個使って車内は君がいうように【次元空間】魔法を付与して作っているよ」


「あのー、ハヤトさんは錬金術師ですか?」


「あははは、僕は冒険者で強いていうなら魔法剣士かな?」


「いえいえ、魔法剣士がこんなすごいマジックアイテムなんか作れませんよ!」


「まぁ、詳細は言えないけどマジックアイテムを活用して僕だけの力じゃないけどね」


「旦那様は古代語も読解できるので古代の魔法スキルも役立てて色々作れるのよ」


「私にとっては見ているだけで勉強になります」とジュリエッタは目をキラキラさせながら運転席や内装を観察しまくっている。


国境越えの手続きも無事終えて30分ほど過ぎたあたりで昼食にする。


ジュリエッタが不審がるのでドリス、アレン、ガードマンは外で待機すると言葉を濁し、キラービー3匹と銀龍を連れて『万能乗用車』の屋根に上がっている。


昼食はマナバイソンのステーキとサラダにコンソメスープとクロワッサンをだす。


火を焚いた訳でもないのに温かくジューシーなステーキにスープが出て来て更にジュリエッタが驚いている。


「ジュリエッタさん、この車には【次元収納ボック】が装備されているので食べ物は入れた状態のまま保存されているのよ」


「もうー、驚きを通り越して奇跡の車ですね!これなら宿も取らずにここで寝れるじゃないですか?」


「でもね、旅はやはり宿に泊まって街を散策したりするのも楽しみよ!野宿の場合はこの車の中でのんびり寝れるけどね」


昼食を終えて再び走り出す『万能乗用車』。


運転はアレンがドリスに代わって運転する。


魔物にも遭遇せず2時間半過ぎにバッキスの街に着いた。


ジュリエッタのお勧めという宿にダブルの部屋一つとジュリエッタのシングル一部屋をとってお金を支払った。


夕食を6時に食堂でジュリエッタと約束して、ハヤト達は先ずはお風呂に入って着替えてコーヒーを飲みながらのんびりとしていた。


「旦那様、ジュリエッタさんのご両親の魔道具屋には興味がありませんか?」


「僕はジュリエッタさんのような娘さんを育てたご両親に興味を持ったな!素直で良い娘さんに育てたご両親だからきっとお店の雰囲気も良いのじゃないかと・・・」


「私も同感ですわ、置かれている商品よりもご両親の人柄がジュリエッタさんを見ていると何となくわかる気がして」


「きっと素敵なご両親なのだろうね!」


「ええ、そう思います」


6時になって階下に降りて来て食堂でジュリエッタを待っていると間も無く降りて来て一緒に夕定食を頼む。


夕定食は日本でいうカレイに似たフラッティーという魚のバターソテーだ。


白身の魚でバターの味に塩胡椒が効いてとても美味しい。


ナルジェ王国は海にわずかに面しているがバッキスからだいぶ距離がありおそらく

アイテムボックスのような鮮度保持が可能な箱で運搬してくるのだろう。


その割には値段もリーズナブルで良心的な宿だ。


食事をしながらハヤトとジュリエッタは共通の趣味の錬金術の話で花が咲いた。


明日はナルジェ王国の王都バスタードに着く。


ジュリエッタのご両親のいる彼女の生まれた場所だ。


魔法学園に入学して以来戻っていないので6年ぶりに両親との再会だそうだ。


明日は『万能乗用車』の速度を速めて早く彼女をご両親の元に届けてあげようと

ハヤトは思いながらセリーヌと床に着いた。

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