第35話 ギルバート侯爵との打ち合わせ

久しぶりにケープに戻ったハヤトとセリーヌは『空飛ぶ船』や『製塩方法』などを侯爵に話をするために午前侯爵邸を訪ねてみる。


貴族街に『万能乗用車』で乗って行き、侯爵邸の門入り口でギルドカードをみせて

侯爵さまに取り次いでくださいと頼んだ。


直ぐに執事が出て来て4人を客間に案内して「少々お待ちください直ぐに侯爵さまが来られます」と言ってドアを閉めた。


間も無く侯爵がドアをノックして入って来た。


「侯爵さま、突然お邪魔して申し訳ありません、少々相談したいことがございまして予約もせずにお邪魔しました」


「いやぁ、ハヤト夫妻だったらいつでも歓迎だぞ」


ドアがノックされお茶が運ばれて来た。


「侯爵様、うちのメイドと執事はまだ紹介していなかったと思いますがメイドのドリス、執事のアレンです。二人ともアンドロイドという人間ではないいわばゴーレム

のようなものですが無敵です」


「ドリスです、侯爵様」


「アレンです、以後よろしくです」


「おお、喋れるのだね?」


「はい、人間と違うのは食べないしトイレも行かないこと以外はほぼ同じです」


「ところで相談とはどういうことかね?」


「実はこのアレンが私の従魔になった事にも関係するのですが、古代文明のダンジョンを制覇した時に得た資料の中に色々便利なものを見つけたのでどの様に処理すればいいのかご相談したく参りました」


「色々便利なものとは?」


「まず一つは『空飛ぶ船』もう一つは『快速魔動鉄道車』と『製塩方法』です」


「『空飛ぶ船だと?』」


「はい、私の『万能乗用車』と若干違う方法ですが揚力という浮かぶ力を魔石で動かして進む原理はほぼ同じです」


「図面を書いて作って確認してあります。後ほど中庭に浮かせて見せましょう」


「ただ、これを戦争の武器として使って欲しくはなく、王都とケープの交通や農作

物の運搬などに使って欲しいのです」


「他の国では真似しても浮かべることが絶対に出来ない様な仕組みになっております」


「それはどういうわけかね?」と侯爵。


「はい、これは古代語で書かれたパスワードを解析しないと魔石が活性化できず揚力を発生させることが出来ません。偶然私は古代人のミイラからその意思を受け継ぐことが出来て、このアレンも従魔に出来たのです」


「それと、製塩ですがこの世界の人は皆岩塩を利用してますが私の生まれた国では

海から塩を生産しています。古代人達も同じ様に海から生産する方法を見つけていた様です」(地球でも約60%が岩塩です)


「ハヤト殿、もしそれが可能になったら塩の価格と流通が大幅にかわるな!これは儂一人のことではなく王様とも打ち合わせをしてどうするか処理しないと!」


「あと『快速魔動鉄道車』ですが、これは馬車よりも数倍速く走る乗り物でここから王都まで1日で移動できる乗り物です」


「ただこの乗り物はレールという鉄で出来た道を作りその上を走るので工事が必要です。一度工事すればすごいスピードでそのレールという道があるところでは『快速魔動鉄道車』は走れて馬車は逆に必要なくなるほどです」


「そんな画期的な文献が古代文明ダンジョンには残されていたのか・・・」


「まずは中庭で『空飛ぶ船』をご覧になって見ますか?」


「おお、そうしよう!乗って空を飛べるのか?」


「はい、お嬢様と奥様と騎士の数人を乗せてケープの上空を散歩してもいいですよ」とハヤトが言う。


「それじゃ、早速準備をしよう」


そう言って、執事にハヤト達を中庭に案内させて侯爵は奥様と娘を呼びに消えた。


ハヤトは中庭に来て【次元収納ボックス】から『空飛ぶ船』を出して地面から50センチ程浮かして、【モデリング】で甲板まで届くタラプを作り、ハヤトの家族4人を甲板に上げ、侯爵様が来るのを待っていた。


侯爵様ご夫妻と娘さんが来て、タラップを上がって甲板に上がって来た。


一緒に騎士団の団長以下数人が乗り込み甲板に集結した。


すでに50センチほど浮いている巨体の船を見て、全員が驚いている。


「それでは今から上昇して500メートル程浮かせたのち水平飛行します」


そう言ってハヤトは右のスライドを上げていき500メートルほど浮かしてから

水平移動の為左のスライダーを前にスライドした。


ゆっくり動き始め時速30キロ程で侯爵邸を超えてゆっくりと左に旋回してケープの街の中央に向かっていく。


少しスピードを出して走りケープの街を超えて森林や平原まで出てゆっくり戻って

再び侯爵邸の中庭に降り立った。


「素晴らしい乗り物だ!これで王都や他の街と人と物資の運搬をすればこの国はさらに発展するな」


「ハヤト殿、冒険者ギルドのケント殿と皆で王都の王様と公爵様に会ってこの件と

製塩や『快速魔動鉄道車』の話をしてもらえぬかな?」


「構いませんよ!」


「それでは儂はケント殿に連絡して王都にも使いを出すのでいつ王都に向かうかは追ってケントから連絡を入れさせる。それでよろしいかな?」


「はい、『空飛ぶ船』で行くと速度を上げれば2時間ほどで着くはずです」


「いや、そんなに早く飛ばさずとも良いぞ!船上で昼でも食べて午後一番あたりで到着する予定で考えておいてくれ」


「わかりました」


「昼食は私の方で用意しますので総勢何人で行くのかだけ後ほど教えてください」


「そうだ、侯爵様この『遠距離通話器』を持っていてください。私と急遽話をしなければならない時はこれで連絡くれれば私がどこにいようと連絡が取れます」


「おお、これがあれば助かるな、日にちと人数はこれで連絡をするよ」


「そうしてください、それでは我々は船を回収して家に戻ります」


ハヤト達は自宅に帰って行った。


一方侯爵はすぐにギルドに向かいケントに先ほどのハヤトの話と『空飛ぶ船』に乗ってこの街を1周した話を伝え、王都に一緒に行って、王様達との話し合いに参加してくれるよう伝えた。


ケントはすぐに王都のギルドに『遠距離通話器』で伝えて侯爵とハヤト一家と自分が『空飛ぶ船』などの件で伺うが都合の良い日を連絡もらってくれと伝えた。


王様から連絡でいつでもいいのでできるだけ早く来るようにとの回答がケントに送

られて来て、ケントは侯爵にその旨を伝えた。


侯爵は、奥さんと娘さんと騎士団長を含め10名の騎士団総勢14名とギルド長ケントを入れて15名ですぐに出れるとハヤトに伝えた。


ハヤトは「それでは明日の9時に侯爵様の中庭に伺います」と言って、準備に取り掛かった。


まず15名とセリーヌ、ハヤト合わせて約20名分の昼食の準備をしてマナバイソンの300グラムを20名分焼いてスープも野菜コンソメスープを『魔法の鍋』に作り込んで置く。


野菜サラダにドレッシングイタリアン風にして20人分を小皿に盛って置く。


あとはパンを20人分用意して、食後の紅茶をすぐ出せるようにポットに作って

おく。


あとは万が一の場合に備えてケーキを20個用意して全てを【次元収納ボックス】にいれた。


一応先日侯爵邸で使った階段状のタラップも【次元収納ボックス】に入れて準備万端で翌日の出発の朝を迎えた。


9時に侯爵邸の中庭に長さ70メートル、高さ10メートル横幅20メートル程の巨大な船が50センチほど地面から浮いて停止した。


甲板からタラップを下ろして、階段で甲板まで上がれるのでギルバート侯爵、リリアン奥様それと娘さんのクリス様とジェームス騎士団長を含め10人の騎士団と冒険者ギルドのギルマスのケントさんが乗り込んで全員が最初は甲板にいる。


「皆さん最初は甲板でもいいですが上昇してスピードを上げたら個室にお入りください。侯爵様とケント様と騎士団長様は操舵室で操作を見ていただいて結構です。それではゆっくり浮上していきます」


船はゆっくり上昇して最初は300メートル程上空をゆっくりとケープの街を眺められるように進み、ハヤトが「スピードを上げて上昇するので皆さんは個室に入ってください」と言って甲板には誰もいないようにした。


操舵室にはハヤトの家族とギルバート侯爵、ケントギルマス、騎士団長が緊張した面持ちで座席に座っている。


上昇して800メートルを超え1000メートルになりスピードも時速600キロになり雲の合間をすごいスピードで飛び続け11時には王都についてしまった。


王都の中庭に徐々に加工して地面すれすれの50センチにつけてタラップを下ろし、侯爵ご夫妻、娘さん、騎士団長以下騎士団10名、カツヤ一家4名が降りて迎えに出た王様ご一家と弟の公爵ご一家と挨拶を交わし執事に案内されて王宮の大広間に向かった。


大広間で改めてギルバート侯爵様からハヤト一家が王様に紹介され、王様の弟の公爵様からは護衛の時のお礼を再び言われた。


王様は上機嫌で「ハヤト殿ギルバート侯爵や弟からお主の噂を散々聞かされ早く会いたかったのがこのように会えて余は嬉しいぞ!それとセリーヌ殿久しいのう。元気そうで何よりじゃ」


「王様、ハヤト殿から早速話をお聞きください」とギルバート。


「おお、そうじゃったそうじゃった!ハヤト殿頼む」


「はい、先ず私と妻セリーヌが古代都市ダンジョンを制覇した時に得た古代人の資料の中に『空飛ぶ船』と『製塩の方法』と『快速魔動鉄道車』の資料を見つけ読み解きまして図面に落として持って来たのが『空飛ぶ船』です」とハヤトは言葉を続けて、


「この船は古代人は海を走り空を飛んで人や物を高速で運搬して豊かな生活をしていたようです。街と街を結ぶのは『快速魔動鉄道車』が走り人を運び遠くの国々には『空飛ぶ船』が人を運ぶ世界だったようです」


「また塩も岩塩だけではなく海からの製塩で岩塩と同量の塩がつくられていました。これを表に出すと国のパワーバランスが崩れるのでは?と心配はしてますが古代人の叡智を今に伝えて実現してより豊かな生活にするのも必要だと思い発表することに決めたのです」


「先ずは皆さんがこの船に乗って見て古代人の文明の高さを享受して見てください」


「おお、それじゃ乗せてもらおう、宰相と騎士団長、騎士数名も乗ってくれ」


「落ちることはないのだな?」と宰相が心配する。


「仮に落ちても私の魔法で皆さんを【バリア】で守りますから絶対に大丈夫ですよ」


次第に船は上昇し始め300メートル程浮上して水平移動を始めた。


王都を一周してから、更に上昇して800メートル程浮上して王都を外れ南下しあっという間に海岸線迄到達してゆっくり方向転換して王都迄戻り中庭に下降して50センチ辺りで浮上したまま停止した。


タラップを下ろし、王様以下順番に降りて貰った。


再び王宮の広間に皆が集まり、ハヤトの家族以外の皆が興奮した顔で感想を述べあい騒いでいる。


王様の咳ばらいで静まり、王様がハヤトに向かって語り始めた。


「ハヤト殿この度の発見は我が国に多大な利益をもたらすと共に流通革命をもたらす事案である。よって貴殿が今後創り上げていく『製塩方法』及び『快速魔動鉄道車』なる物を国の一大プロジェクトとして貴殿に一任してやり遂げて貰いたい。如何であろうか?」


「王様、身に余る光栄で謹んで承りますがひとつお約束して頂きたい事が有ります!」


「何じゃな?」


「『空飛ぶ船』に関しては兵器としてでは無く是非とも平和利用にお使い頂きたく、その件をしかとお約束願いたいのです」


「勿論じゃ!物資の運搬や人を運ぶ為にのみ使う積もりじゃ」


騎士団長がここでハヤトに質問してきた。


「ハヤト殿、我が国が幾ら平和利用にのみ使用するつもりでも他国が同じ物を創り込んで武器として使用したらどうしますか?」


「その心配は全く有りません。船を浮かせる揚力を得る為の魔石を発動させるにはある部品に古代語のパスワードを刻まないと発動せず船は浮きません。古代語を刻んだ部分には【隠ぺい魔法】と【プロテクション】が掛けられており絶対に解かれる事は無いからです」


「製塩は1週間後にでも出来上がった塩を王都に持ち込みますので海岸の適当な場所をご指定願いますか?」


「それなら 儂の領地のケープから真南の海沿いなら何処でも良いぞ!」と侯爵様が言ってくれた。


「あと『魔動鉄道車』に関してはケープから近くのロゴニー迄鉄のレールを仮敷設

をして、その上を『快速魔動鉄道車』を一度走らせる実験をしてみないと上手く走るのか未だわかりません。上手くいけば王都のジュネべ迄レールを敷いて設置に3日ほど掛けたら鉄道車はケープから王都まで1日で走れるようになるでしょう!」


「ケープから1日で王都まで行けるのか?と王様が聞く。


「はい、その位のスピードが出る計算です」とハヤトが応えた。


「わかった!ハヤト殿取り敢えず『空飛ぶ船』を王国で買い取るので白金30枚、運転手教育で一人金貨10枚で請け負ってくれまいか?」


「わかりました、侯爵様の騎士団から信頼のおける騎士5名、王様の騎士団から信頼のおける騎士5名計10名を選抜して明日の午前中10時から此処王宮の中庭で

指導いたしましょう!その際、ケントギルマスも覚えられておけばいざと言うときに対応できるのでご一緒に参加してください」


「おお、わかった!俺もこの国に何か有ったときには駆けつけないといかんからな」


「では、そういうことで明日9時に私達は王宮にまた参ります」


「いや、ハヤト殿お主たちはきょうはこのあと此処の皆と昼食をして夕方は侯爵と弟の公爵一家とケント殿も加えて晩餐会を催すので泊まっていってくれ」


「よろしいのでしょうか?平民の私どものような者が王宮のお招き頂いた挙げ句晩餐会などと晴れがましい催しに参加して・・・」


「何を申すか、ハヤト殿は救国の冒険者だ!本来ならば爵位を授与せねばならない程の功績じゃぞ」


「いやいや、私はあくまで普通の冒険者で居たいので陞爵などとんでもないです。そればっかりは勘弁していただきます」


「それでは皆のもの場所を王宮の食堂に移るぞ!」と王様が号令した。


王宮での食事は豪勢を尽くした料理で美味しかったが、セリーヌはハヤトに「ご主人様の料理の方が美味しいですわ」と囁いてきたのにはスルーした。


ケントさんは一旦王都の冒険者ギルドに行って、明日の朝また伺うと言って王宮を

あとにした。


ギルバート侯爵とブレット公爵、ベンジャミン国王一家とハヤト一家が残ってお茶を飲みながら談話している。


国王の娘さんのエミリー王女が「ハヤトさんは古代語を読み解くことが出来るのですか?」と鋭い質問をしてきた。


「はい、生まれたときのスキルで【言語習得】が有りましてこの世界の全ての言葉が昔から理解できました。


公爵の娘さんのクラウディアさんが「ハヤトさんの魔法特性は何なのですか?私は水しか使えないのですが・・・」


「私は一応全特性を持っていますが、特に火と聖魔法と無属性魔法が得意です」


「無属性魔法がお使いになられるの?凄いですわ〜それだけ使える人はこの世界で

何人も居ないですわ!」と熱い眼差しで見つめられてしまった。


「ところでセリーヌ殿はエルフ王国の女王様でおられるが、どこでハヤト殿と知り合ったのかな?」とギルバート侯爵様が聞いてきた。


「冒険者をしていて、同じクエストを受けていて偶然に知り合いパーティーを組もうということになってから親しくしていただいて・・・」とセリーヌが上手く応えてくれた。


ギルバート侯爵様の娘さん、クリスが「セリーヌさんは弓の名手で”滅亡の弓”の2つ名がすでにおありでソロ以外はパーティーを組まないと冒険者の中では有名だったのにどうしてハヤト様と?」と鋭く追求するように聞いてくる。


「確かに主人と巡り会うまでは私より強い冒険者は見当たらなかったのですが、主人の強さは人外で、とても私の敵う相手では無かったのです」とセリーヌ。


ハヤトはクリスからも熱い眼差しをジトーっとぶつけられていた。


「ところでハヤト殿、メイドのドリス君と執事のアレン君は君の従魔だと聞いたが

【召喚魔法】も出来るのかね?」と王様が聞いてきた。


「この二人は【召喚魔法】で呼び出した訳ではなく、ドリスは私が作った魔道具で

アレンは古代人が作った人型ゴーレムを私が古代ダンジョンを制覇したときに支配権が移譲されて私の従魔になったものです」


「二人の性能はほぼ同じでこの世界では無敵に近い存在だと思います」とハヤトが

応えた。


「何と、無敵の男に無敵の奥様が居て、無敵の人型ゴーレムが従魔か!世の中は不公平だな、ワハハハハ!」と王様が笑った。


お茶会も終わって、夜は王族派の貴族達を集めた晩餐会で『空飛ぶ船』と『製塩方法』に『快速魔動鉄道車』の話を王様からお披露目することになった。


ハヤトとセリーヌ達は王宮の2部屋を借りて、ドリス、アレン、銀龍、キラービーは寛ぐことになった。


ハヤトのカードには宰相殿から白金30枚と教育費の10名分の金貨100枚が加算された。


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