第33話 フェルトンの街で

グランデの街を出て南方の街フェルトンに向かって『万能乗用車』を走らす事30分ほどでフェルトンの城門が見えて来た。


衛兵が魔動車を見て驚いていたが、窓を開けてカードを見せるハヤトに安心した様子で直ぐに街に入れてくれた。


『地図帳』によるとこの地はダーレン男爵という方が統治しているそうだ。


先ずは真っ先にギルドに向かって、受付の女性にカードを見せてお手頃な宿を紹介してもらう。


それはギルドの3軒隣の”癒しの宿”であった。


一泊銀貨1枚でダブルベッド朝食、夕食付き、とっても安い。


『万能乗用車』を裏庭に駐車させてもらい、いつものようにキラービー3匹と銀龍

それにアレンとドリスが車内泊だ。


「1泊お願いします」と言って財布から銀貨1枚を払った。


「朝食は6時から9時半まででラストオーダーは9時まで、夕食は5時から10半までラストオーダーは10時までです。それでは200号室ですのでもう夕食は用意できますがいかがしますか?」


「それでは30分後に降りて来ますのでお願いします」


そう言ってハヤトとセリーヌは200号室に上がり、二人でシャワーを浴びて着替えてから夕食のために降りて来た。


夕食は”イエローテール”の塩焼きで黒パンとサラダと野菜スープで久しぶりの魚料理で食が進んだ。


冒険者ギルドの直ぐそばだけあって、一目で冒険者だとわかる連中が多い。


一人の女性冒険者がハヤト達の席によって来て、


「失礼ですが、貴女は”滅亡の弓”のセリーヌさん?」と聞いて来た。


「ええ、以前はその様な名で呼ばれた時もありますが今は夫と”熱き絆”というパーティーを組んでいますわ」


「ああ、やっぱりセリーヌさん?私は8年ほど前に貴女に助けて貰ったシンディーと申します。貴女は覚えていらっしゃらないかもしれないけどファングウルフに囲まれてまだ初心者の私たち3人の女性が死を覚悟した時に貴女が現れて、20匹近くのファングウルフを弓で全て殺して助けてくれた」


「ええ、思い出しました。あの時の女性3人のお一人?」


「あの時は恐ろしさのあまりろくにお礼ができず大変失礼しました。今こうして生きているのも貴女のおかげですわ。本当にありがとうございました」と丁寧にお礼を言われた。


「シンディーさんは今でも冒険者を?」


「はい、あの時の女性の中の一人と今も組んであと男性二人とパーティーを組んでいます。ランクはまだCランクですが・・・」と言って少し離れたテーブルにいる3人の男女のデスクに目線を移した。


「セリーヌさん、あの時のお礼の気持ちです。旦那さんとお二人にお茶をご馳走させてください」と言って宿の女性に紅茶を二人分頼んだ。


「あら、かえって申し訳ないわ!シンディーさんはこちらを中心に活動しているの?」


「いえ、私たちはグランデの”迷宮古代都市ダンジョン”をメインに活動をしているんですよ」


「あら、昨日まで私たちも2日間程潜って来たばかりよ!」


「そうですか、私たちはもう5年ほどそこに潜っているのですが中々階層を伸ばせないでいますよ」とシンディーがいう。


「シンディーさん達は何階層まで行かれたの?」とセリーヌ。


「私達のパーティーは5年間で5階層のボス部屋に行く手前ですね」


「えっ?5年間で4階層なの?」とセリーヌ。


「はい、お恥ずかしいのですが・・・、セリーヌさん達は?」


「私達は、昨日初めて潜って昨日が20階層で今日は半日だけ午後から潜って25階層まで行ったわ」


「ええええ?1日で20階層?」


「それじゃみんなが噂している冒険者4人て、セリーヌさん達だったの?」


「噂になっているか知らないけど、私ら夫婦とメイドに執事の者よ」


「執事?、あの〜セリーヌさんは貴族の方?」


「あははは、違うわようちの旦那様が作った魔道具の人型ゴーレムよ」


「紅茶ごちそうさま」セリーヌがお礼を言ってハヤトと2階の200号室にもどって行った。


自分の席に戻ってシンディーは皆にセリーヌとの話をして3人の男女は驚いていた。


セリーヌとハヤトは部屋に戻って、Cランクのグループが5年も挑んで4階層までしか行けてない事に逆に驚いていた。


翌朝いつもの様にハヤトは庭で朝練をして、部屋に戻ってシャワーを浴び着替えてからセリーヌと一緒に【認識阻害】をセリーヌに掛けて食堂に向かった。


食堂には昨夜のシンディーたちのグループも朝食をとるため食堂にいた。


ハヤトは軽くお辞儀をしてセリーヌと目立たない席にひっそりと二人で座り朝食を頼んだ。


シンディーのグループの男性一人がシンディーと一緒にハヤト達の席に来て「きょうはこの近くのダンジョンにもぐるのですか?」と聞いて来た。


「昨夜この街に来たばかりでギルドにはこの宿を聞いただけでゆっくりこれからクエストでも見ようかと思ってます」とハヤトが答えると、


「宜しかったらここのギルドが統括している”暁のダンジョン”にご一緒に潜りませんか?」とシンディーのグループの男性が提案してきた。


「私たちはご一緒しても、討伐の仕方が他のパーティーとはだいぶかけ離れたやり方で倒して行くので我々のやり方は参考にはならないと思いますわ」とセリーヌが

やんわり否定した。


「セリーヌさん達の邪魔をせずに離れたところで討伐方法を勉強させてもらいたいので、ご一緒というより後に付いて行って勉強させていただければ・・・」とシンディーがなおも食い下がって懇願して来た。


「ここにもダンジョンが有るのですね?」とハヤト。


「はい”暁のダンジョン”と言って20階層までのダンジョンらしいのですが未だ制覇されてないのです。なんでもそのダンジョンには魔物が魔法を放つ魔物がいてほとんどのパーティーがその階層で討ち死にしてしまうか撤退してくると聞いてます」と男性がハヤトに言った。


「セリーヌ、どうする?あまり目立ちたくは無いけど、魔法を放つ魔物って今まで僕らも経験した事ないしね・・・」


「私は旦那様に付いて行くだけですわ、魔法を放たれても『リフレクションの指輪』が有るので私には全く影響はないですし」


「それじゃ、私たち4人が先行するのをシンディーさんのグループが後から来て

戦い方を参考にするという事でご一緒しましょう」とハヤトがOKして一旦部屋に戻り7時に冒険者ギルド前に集合する事になった。


ハヤトとセリーヌはアレン達と宿をでて冒険者ギルドに向かった。


それほど大きくはないギルドだが、ダンジョンが有るという事でそれなりに冒険者達が規模にしては多く受付に群がっている。


シンディー達も来てお互い自己紹介をする。


ハヤトが”熱き絆”のハヤトと妻のセリーヌ、執事のアレン、メイドのドリス、従魔の銀龍とキラービー3匹をそれぞれ紹介する。


シンディーが「”怒りの炎”のリーダーのロードにスリムそれとメアリーと私シンディーの4人です」とパーティーを紹介した。


シンディー達は20センチ程の銀龍を見て驚いていたがハヤト達はスルーして受付に”暁のダンジョン”に潜る旨伝えそれぞれカードを提出して履歴を打ち込みカードを受け取って場所を聞いた。


ギルドを出て、南城門を出て500メートルほど言ったところだと聞いてそれ程遠くないのでのんびりと城門まで歩いて行く。


”暁のダンジョン”の入り口で再度カードを提示してハヤト達が先頭で階段を降りて行く。


【ライティング】を掛けながら暗い階段を降りていき1階層が洞窟の中だ。


キラービーから4人全員にゴブリンの15匹の群れの映像が送られて来た。


「アレン、ドリス処理して死体はそのままでいいよ!」


ゴブリンなどのレベルの低い死体は回収せずにダンジョンの肥やしとするのが常で

あっという間に剣で処理して2階層に進む。


後ろでその剣捌きを眺めていた”怒りの炎”の連中は速度を追えない剣の動きに圧倒されていた。


2階層にはオークの群れが10頭とオークジェネラルが1頭いる。


アレンが3頭、ドリスが3頭、セリーヌが『連射の弓』で4頭を、ハヤトがオークジェネラルを【エアカッター】でほんの数秒で殲滅して回収。


3階層は平原ステージでファングボア3頭にオーガが2体いる。


セリーヌがファングボアを3頭弓で殺し、オーガをドリスとアレンが剣で首を落としてこれまた20秒ほどで討伐終了。


4階層は海のステージで『万能乗用車』にハヤト達がまず乗り込んで潜水し20メートル先にいるクラーケンをレーザービームで葬り、更に100メートル先のシー・サーペントを同じくレーザービームで刈り取って5階層の入り口まで来てセリーヌ達を降ろし、”怒りの炎”の4人を連れ戻して、4人を『万能乗用車』にのせて再度海に潜り出す。


”怒りの炎”の4人は『万能乗用車』の【次元空間魔法】にまず驚きその広さ、その性能、能力に声も出せずにいる。


潜るともう1匹クラーケンが出て来たのでレーザービームで打ち取って回収するのを座席からただただ驚きで持って見ているだけだ。


5階層の入り口に8人がたどり着いて、罠を確認してから大きな扉をあけて入っていく。


中にはヒュドラが炎と毒ガスを撒き散らして威嚇してくる。


”怒りの炎”の連中に【バリア】を掛けてあげて、アレンが首を順番に切り落とし、ドリスが切り口をレーザービームで順番に焼いて再生を防ぎながら処理して10分ほどでヒュドラを回収した。


後ろで【バリア】で守られていた”怒りの炎”の4人はセリーヌが言った参考にならない戦い方を目の当たりにして驚きを超えてただひたすら見入っている状態だ。


ボス部屋の宝箱を開けると『ミスリル製の剣』なのでハヤトはシンディーに渡して

僕らには必要のない剣だからとあげてしまった。


6階層から9階層迄ハヤト達は事もなく討伐していき、10階層はボス部屋が岩場

ステージに地竜が2匹いる。


ハヤトが一瞬で1匹の地竜の背中に乗って”掌底破”を打ち殺し、飛び移ってもう1匹の背中にも”掌底破”を放ち瞬殺する。


【次元収納ボックス】にいれて側の宝箱を【サーチ】しながら開ける。


中には『万能ポーション』が入っていた。


これもセリーヌの顔を伺うとニコッと笑って頷くからシンディー達にあげた。


”怒りの炎”の連中は何もせず宝ばかり頂いて恐縮しっぱなしだ!


11階層から14階層迄も然程特徴ある魔物もおらず数分で討伐して15階層の

ボス部屋に来た。


どうやらここがこのダンジョンのメインのようだ。


かなりの禍々しい魔力が扉からでも伝わってくる。


「セリーヌ『リフレクションリング』はつけてるね、アレンとドリス達は問題ないから”怒りの炎”の連中には【バリア】とオマケに【プロテクション】を掛けて万が一に備えておくね」ハヤトがそう言って扉を開けた。


「ほほぉー、8人も良くここまで来れたな!人間どもよ」


”セリーヌ、あれって魔族じゃない?”と念話で聞くと


”旦那様そうですわ、魔族が何で人間界のこの地区にいるのかしら?”


”何にしても討伐するよ!”とハヤトが言って対峙する。


アレンが一瞬の内に間合いを詰めて斬りかかるが何かの結界で跳ね返されてしまう。


「わしの結界を破れる奴などこの世界では魔王様ぐらいだ、馬鹿者ども!」


「そうなの?じゃ、僕が壊してみせるね」とハヤトは『白兎』を久しぶりに構えて

腰を少し低く示現流紅抜刀の構えを取り光の速さで一気に切り裂く。


バリーンと鳴ったと思ったら、結界がバラバラと砕けてしまった。


「なんだとぉ!わしの、わしの結界が・・・」


「なんだぁ、意外とチャチな結界なんだね魔族ってこの程度かな?」ハヤトはわざと相手の魔族をなじって怒らせた。


魔族は「わしは魔族第一位の位を有するオイゲンだ!死ぬ前に良く覚えておけ」


そういうといきなり【ファイアスプラッシュ】をハヤト達に放つが、ハヤトは手で払いのけ、セリーヌがそのままスプラッシュを反射させてオイゲンを襲った。


「なな何で儂の術が効かぬ?これではどうだ?」と言って【ブリザードボム】を放った。


これもハヤトは手で振って消し去り、これもセリーヌが逆に魔族に跳ね返えって魔族は慌てて避けた。


オイゲンはボス部屋に投影されている自分の影を大きくして10メール程の巨大オイゲンを作り出し、ハヤトを包み込むように襲いかかって来る。


黒い影の迫り来る速度をはるかに凌駕したスピードで『白兎』をオイゲンに抜き放ち硬いどす黒い鱗状の体ごと分断した。


あっという間に黒い巨大な影は消え去り、ハヤトの目の前には腹から内臓が漏れ出しているオイゲンの死体だった。


ドリスが切り口をレーザーで焼いて、漏れ出した内臓も灰にして消した。


死体は紫色に変色しハヤトは念のため【バリア】を掛けて回収した。


罠があるので解除してから宝箱を開けると『地図屋」と書かれた白紙の羊革のノートが出て来た。


自分の周囲20キロ以内の詳細の地図が現れると言うことが【鑑定】ででている。


これもハヤト達には既に持っている能力なのでシンディー達にあげた。


16階層から18階層迄はそれなりの魔物だったが、ハヤト達には問題ない相手だった。


19階層には平原ステージでワイバーンが3匹と普通の冒険者では対応できない数だがハヤト達は銀龍君が40メートルのシルバードラゴンになって、3匹のワイバーンの首を加えてハヤトの前に持って来てしまった。


その間5分ほど!


後ろで見ていたシンディー達は20センチの銀龍が巨大なシルバードラゴンに変わった時点でわなわなと震えていた。


3体を全て回収して、再び20センチの可愛い銀龍になってハヤトの肩に止まった。


そしてついに20階層に行く。


大きな白い扉を開けるとそこには黒龍が30メートルの巨体で【火炎咆哮】をはいてハヤト達を威嚇して来た。


ハヤトは【気のシールド(スピリットシールド)】を纏い素手で黒龍の胴体に一瞬で近づき”掌底破”を放つと数トンもあろうかと言う黒龍が10数メートル吹き飛んで動かなくなった。


逆鱗のところから魔石を取り出して完全に息の根を止めた。


そばに有る宝箱を開けると『亜空間(サブスペース)リング』と書かれた指輪が有り、念じると亜空間が開かれてそこに敵対する物が吸い込まれて消滅すると説明が出ている。


ただし莫大な魔力を流し込むため常人の冒険者では不可能で魔力量が最低で1000を超えるものにのみ使えると出ていた。


通常の魔法師の魔力は50〜70程度、多くて80なので、この数値を超える魔力は魔族でもいない。


結局使えるのは魔王かハヤトぐらいだろうか・・・。


これはハヤト達が回収して、ダンジョンコアと共に【次元収納ボックス】に入れた。


転移盤で8人は入口に戻りギルドの素材置き場に討伐した魔物達を収めて食堂で

お昼を頼みながら納品書ができるのを待つことにした。


お昼はマナバイソンのステーキ250グラムで黒パンと野菜スープがついている。


シンディー達が二人に奢ってくれると言うのでありがたくご馳走に預かった。


「それにしても”熱き絆”のパーティーの規格外の戦い方は常人の冒険者には全く

参考にすらならない気がします」とシンディー達が呆れている。


リーダーのロードが「失礼ですが冒険者ランクはどれほどなのですか?」と今頃になって聞いて来た。


「僕らはSランクです」とハヤトが言うと、


「おそらくそのランクでも追いつかないクラスの気がします」とロードが言って


SSSクラスが存在するならおそらくそのクラス以上だと思うとハヤト達に言った。


「何もしない私たちが貴重なマジックアイテムの宝物を頂いてよろしいのでしょうか?」とシンディーが言うと、


「良いのよ、私たちには必要のないものだから」とセリーヌが笑いながら言った。


食事が終わる頃納品書が出来て、ハヤトが受付嬢にダンジョンコアと地図それと納品書を提出した。


「少々お待ちください、4名様のカードをお預かりしますが、もうひとつのチームの方達は如何いたしますか?」


「我々は”熱き絆”の戦い方を勉強のためついて行っただけですので結構です」とリーダーのロードが伝えた。


「わかりました、それではハヤト様のパーティー”熱き絆”が”暁のダンジョン”を制覇した旨、履歴に登録しました。清算金は白金45枚金貨55枚銀貨60枚銅貨95枚となります」


ハヤトは財布にそれを入れた。


冒険者ギルドをハヤト達は出る予定でシンディー達に聞くと彼らのパーティーはもう少しクエストを受けてスキルアップをしたいのでと言い、ここで別れることにした。


ハヤト達はまだ時間が有るので他の街に向かうかもう1泊ここで過ごすかハヤトはセリーヌに聞いてみる。


この街のダンジョンも制覇したので違う街で地味なクエストを受けましょうと言うので『万能乗用車』に全員が乗り込んでハヤトは【マッピング】でここから一番近い街を検索した。


車のサーチパネルにも表示が出て、フェルトンの街から東に50キロほど行くと

人口7万人ほどの小都市デルミロという街が有る。


「セリーヌ、あまり大きな街じゃないけど7万人ほどいるから村よりは大きい街だね、そこに向かうね」


「旦那様、了解です」


「マスター、お願いします」とアレン。


「ご主人様、お願いします」とドリス。


「それではレッツゴー!」ハヤトがハンドルを握って時速40キロで動き出した。

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