第9話 護衛任務初日

ケープの東門を出る時、衛兵はシンシアがギルドカードと依頼書を見せると、我々の馬車と商人達の馬車3台をすんなり通してくれた。


シンシア達の馬車が先頭で進み、商人の馬車3台がそれに続き、ゆっくりと王都に向かって走り出した。


しばらくするとハヤトがこの世界に落ちて来た場所を左に見ながら道を進んで行く。


最初はエイベルとアルフィーが御者台に乗り、馬の手綱を持ち、ハヤトとルイーズ、シンシアが馬車の中にいる。


「ハヤト君はヒーラーなの?」


「いや、元々冒険者登録は”魔法剣士(パラディン)”で登録したのですが【回復魔法】もそこそこ出来るので今回は”回復術師”としてこのパーティーに参加しました」


「ふ〜ん、”魔法剣士(パラディン)”ねぇ!魔法特性は?」


「僕は火が得意ですかね?後はちょぼちょぼで・・・」


「火なの?私は水が得意って、それしかできないけどね!」とルイーズが囁いた。


「シンシアさんといつもペアを組んで居るんですか?」


「そう、同じ村出身の幼馴染だからね」


「ハヤト君は兄弟とかご両親は?」


「僕はおじいちゃんに育てられて兄弟もおらず、おじいちゃんが亡くなって今じゃ一人だけなのであのケープという町まで出て来て冒険者として生きていこうと決めて!それがつい先日のことです」


「だから今回はシンシアさんやルイーズさんの戦い方などを勉強させて貰います」


「坊主、ルイーズの戦い方なんてしょぼいから真似しない方がいいぞ!(笑)」

と笑いながらエイベルが言い放った。


「エイベル失礼ね!アルフィーみたいに静かにして、必要になった時にちゃんと活躍してよね!」


「はいはい、任せてください!」


そんな会話をして2時間ほど経つと平原の道が次第に森の中の道へと変わって行った。 


「ハヤト君森に入ったから少し警戒しながら行くよ、魔物が出る可能性があるからね!」シンシアが言ってくる。


「はい、注意してます」と言いながらハヤトは【サーチ】をずっとかけてケープの町から此処まで来て居るのでなんら変わらない。


しばらく森の道を行くと【サーチ】にオークの群れ8頭が前方100メートルほど先に居る。


ほかの人達はまだ気が付いていない。


「シンシアさん、100メートル先にオークが8頭居るので注意してください!」


「ハヤト君何で分かるのだ?」


「【サーチ】魔法が使えるので・・・」


「そうか、それは助かる」


「ハヤト君うしろの商人達に急いで伝えてくれ」


「わかりました!」と言って、後ろの商人達の馬車に走って伝えた。


馬車が止まりシンシアさん達が馬車を囲んで守るようにしている。


シンシアはオークをやり過ごすか自分達がオークを狩に行くか迷っていると、ハヤトが【ブースト】で一瞬でオークのところに間合いを詰めて『白兎』で8頭を一瞬で首を刈り取り、【次元収納ボックス】に入れて戻って来た。


シンシアやルイーズが驚いて、「ハヤト君、君は”回復術師”ではないのか?」


「【回復術】もできますが元々は”魔法剣士”希望です」


「って、それにしても強すぎないか?それで登録したばかりの冒険者か?」


「はい、一昨日登録をしたばかりの冒険者です・・・」


「ハヤト君、出来たら今後は私の指示に従ってから行動してくれ!貴重な”回復術師”が殺られて居なくなるのは困るからね!」


「先走ってしまって、すみません」と謝って馬車の中に戻って来た。


「さぁ、先を急ぎましょう!」


シンシアがそう言って、オークは討ち取ったので進むことを促した。


2時間ほどしてやっと森を抜けた道の先に町が見えて来た。


「やっとロゴニーの町が見えて来たね!」とルイーズが言った。


「あの町がロゴニーという町ですか?ケープとどちらが大きいのですか?」


「そりゃ、ケープの町の方が全然でかいわよ!だから冒険者のギルマスがケントさんの様にランクの高い人がギルマスで居るのよ!」


「あのギルドマスターの方って強いのですか?」


ハヤトはケントがそこそこ強いと察知して居たが自分と比べて然程でもないと思って

しまっていた。

”へぇー、あのレベルで高いというのかぁ!”と思うハヤトだった。


「ええ、この国のギルドを統括する王都のギルマスとケープのギルマスを兼ねている方よ。ランクもSランクの筈よ」


そんな会話をしていたらロゴニーの門の前に着き、シンシアが兵隊に一言二言いってカードを見せて門を通った。


ハヤトはケープ以外の町に興味深々で御者台から身を乗り出して町を眺めていてエイベルから叱られた!


商人達の馬車も後に従い町に入った。


ロゴニーの町で昼食を取ることになって居るらしく、シンシアがギルド横に馬車を

繋いで、近くの定食屋にハヤト達を連れて行く。


「親父さん、またお世話になります!定食五つにエール4杯と果実ジュース1杯」


「おう、シンシアちゃんか、定食五つにエールとジュースね!はいよ!」

と言って、エールとジュースがまず出てきた。 


エールをそのまま飲もうとするので4人を止めて、4人のエールを魔法で冷やしてあげて出すと、その旨さに驚いていた。


シンシアが「ルイーズ、アンタも魔法使いなんだから【クール魔法】ぐらいできないのか?」


「何言っているの、この類の【無属性魔法】は特性がなければ使えないのであまり出来る人間は居ないわよ!」


「それにしてもハヤト君はオークの時といいエールのことといい、結構重宝されるのじゃないか?」


「いやぁ〜、登録したばかりなので未だそこまでは・・・」


「さっき、【サーチ】もできていたよな?魔法はどのくらい出来るの?」とシンシアが聞いてくる。


ちょうどその時定食が届いたので、上手くごまかして定食のマナバイソンの鉄板焼きを食べ始めた。


「此処の定食美味しいですね!」


「美味いでしょ?私たちケープとロゴニーを中心に冒険者をして居るので良く利用するんだ!」


「シンシアさん達は冒険者になってどのくらい経つのですか?」


「私たちは3年目だよ、幼馴染で4人で村を出て王都で冒険者登録して王都からケープ辺りまでの依頼(クエスト)を受けて何とか食っていける状態だね」


「僕は3日目なので色々教えてもらわないと・・・」


そんな話をして居たら、商人達7人もこの店に入って来て近くの席に座った!


食事も終わり、ハヤト達の馬車を先頭に再びロゴニーの町を出て王都に向かって馬車を進めて行くことになった。


「ハヤト君【サーチ】をしながら進められるかな?魔力が枯渇とか、大丈夫?」


「【サーチ】しながら夜まで大丈夫ですよ!それじゃ、行きましょう」


ロゴニーを出発して午後3時ごろ、前の方から10名程の馬に乗ったのが3名、残りが歩兵の様な連中がこちらに向かってくる。


【サーチ】で強盗とわかった。


シンシ アとルイーズ、エイベル、アルフィーが戦闘態勢を取る。


「ハヤトは回復術師だから私たちの後ろに居て!」


いやぁ、こんな連中さっさと魔法で消しとばして早く進みましょうと言いたいが・・・。



ルイーズが【水球(ウォーターボール)】で賊にめがけて放つが剣であっさり消されてしまった。


あまりにもしょぼい水球だ。


向こうは剣を抜いて向かってくる。


シンシア、エイベルも剣を抜いて応戦の構えだ。


アルフィーが弓を放ち一人の頭を射抜き殺した。


ハヤトが前に出てと思ったら、シンシアが「ハヤト君は”回復術師”だから後ろにいて戦況をよくみてて」


アルフィーがまたも弓を放ち、また一人を葬った。


シンシアとエイベルが盗賊に向かって斬り掛かって行く。


馬に乗った盗賊が弓を構えてシンシアを狙っている。


ハヤトは目立たない様に【空気刃(エアカッター)】を放ち弓を放とうとしている

強盗の首を跳ねた。


ルイーズも【水球(ウォーターボール)】を少し威力を上げて馬に乗って居るもう一人に放った。


【ウォーターボール】を顔に直撃してやっと馬から落ちて死んだ。


もう一人の馬に乗った首領らしき奴がアルフィーの矢を剣で防ぎながらこちらに向かってくる。


ルイーズの魔法では詠唱が長くて間に合わない。


ハヤトが『白兎』を抜いてジャンプいちばん、首領格の首を斬り落とした。


他の強盗の連中も何とかシンシアとエイベルで処理できて、馬3匹が残った。


死体をまとめてハヤトは【火球(ファイアボール)】で一瞬にして骨まで焼き、灰

だけしか残らなかった。


シンシアが「ルイーズの威力と随分違いが有るみたいだわ!」とぶつぶつ言っているがスルーして再び出発した。


次の街に着く前に少し広くなった平原で野営することになった。


森を抜けたので魔物は平原の方が遥かに出てくる確率は少なくなるがそれでも夜間なので厳重な注意が必要だった。


馬車に馬3頭を繋げ、平原の外側に冒険者の馬車、その隣に商人さん達の馬車を横に3台並べて、それを囲む様に我々冒険者と商人達7人が車座の様に座り火を中心に座った。


商人達はそれぞれ荷物を解いて何やら干し肉とパンを食べている。


シンシア達も、それぞれ持ち寄った食材を火で焼いたりして食べて居る。


ハヤトは【次元収納ボックス】から温かいご飯と煮込みとスープを出して食べ始めるとなぜかシンシア以下4人がこちらを睨んで居る。


4人の視線が痛い!


無視して黙々食べて食器を洗ってまた【次元収納ボックス】にいれた。


大雑把に食器を洗っても【次元収納ボックス】に入れて再び出すと全く新品同様に綺麗になって居る。


最初の見張りを新人のハヤトとルイーズが夜中の12時までやり、そこから3時まではアルフィーとエイベルがやり、3時から朝まではシンシアがやることになった

がハヤトは5時ごろには起きるのでシンシアと朝方変わるつもりでいた。


取り敢えず9時からハヤトとルイーズが起きて居る。


ハヤトは【サーチ】をかけて居るので魔物や怪しい輩が来れば直ぐわかる。その話をルイーズにして、少し寝ても大丈夫だと伝えた。


午前12時になりアルフィーとエイベルにバトンタッチして、ルイーズはシンシアが寝てる馬車に入って行った。


ハヤトは中で川の字に寝るわけにもいかず、馭者台に座って【サーチ】を掛けながら座って睡眠をとった。


3時になり、シンシアがアルフィー達と交代した。


ハヤトは4時半ごろに目を覚まし、バスターソードで素振りを5000回、座禅を

組んで魔素を巡回させて解き放つ事を何度も繰り返して最後は『白兎』で示現流紅の型を始めて、まるで日舞の様に華麗に見えるが全く隙が無い。


シンシアはあまりの美しさに見入ってしまった。


ハヤトは【クリーン魔法】で汗を綺麗に拭き取り、早めの朝食を【次元収納ボックス】から野菜サンドと果実ジュースを出して食べ始め、シンシアにも野菜サンドと果実ジュースをあげた。


二人で食べ終えて、シンシアが「ハルト君、私とちょっと模擬戦をしてくれないか?」


「いいですがどうしたんですか? 突然」


「いやぁー、君の剣の型を見ていたら余りに優雅な剣の舞なので模擬戦をして見たくなったのさ!」


シンシアはどこからか模擬刀を持ってきて二人で構えハヤトに向かって斬りかかるがハヤトは軽くかわし、背中をとって勝負有り!


「ハヤト、君は本当に強いな!”回復魔法師”で募集したけど剣士で十分大丈夫だな」


ハヤトは頭を掻きながら「たまたま”回復術師”募集だったので応募したのですが、魔物討伐でも何でも良かったのです」と言って、野菜サンドを追加で二人でたべた。


商人達も起きてきて朝の食事などを準備している。


アルフィー、エイベル、ルイーズも起きてきて朝食をそれぞれ食べ始めた。


「シンシア、朝食は食べないの?」ルイーズが聞いてくる。


「ハヤト君に野菜サンドと果実ジュースをもらったので・・・」


全員食べ終えて馬車は再び王都に向かって動き出した。


昼前に町が見えてきた。グランデという町らしい。ケープについで王国第三の都市だ。


ここでもシンシアが門兵に何やら言ってギルドカードを門兵にみせて、馬車を通してくれた。


グランデのギルドに行って、馬3頭をシンシアが売って、皆の昼飯代にすると言った。


ハルトもオーク8匹をカードを見せて納品して銀貨80枚をカードに貯金した。


カードには金貨20枚銀貨830枚が貯まった。


シンシアに連れられて一軒の定食屋に皆で入って行く。


ハヤトはマナバイソンのステーキ300グラムとスープにパンを頼んだ。


男性陣二人も同じやつを頼み、シンシアとルイーズは魚のムニエル定食を頼んだ。


とても、美味しかった。シンシア達はやはりケープの町から王都の界隈を根城に

活躍して居るだけあって、宿とかうまい店はよく知っていて、詳しい。


シンシアにハヤトが「この国はダンジョンはあるのですか?」と聞いた。


「勿論有るわ、全部で8箇所有るんじゃないかな?」


「でも、単独ではとてもじゃないけど無理よ!」


「どうしてですか?」


「最終階層のコアが有るところは噂によればドラゴンクラスという噂だし、その前に罠が沢山あって、だいたい命を落とすらしいわ!」


「それじゃ、もっと訓練していつかダンジョンにチャレンジして見たいです」


「やめとけやめとけ、お前の様な”回復術師”では100年頑張っても無理だな!」


「僕は”回復術師”ではなくて”魔法剣士”です」


「たまたま【回復魔法】も使えたので遠征がおもしろそうだから参加しただけですよ!」


「ほぉ〜、何か?お前その年で剣も扱えられるのか?」


「はい、そこそこ強いと自負してますが・・・」


「それじゃこの俺と模擬戦やるか?」


「いやぁーもう結果はわかるのでやらなくていいです」


「何だ、その言い草は!」


「だって、エイベルさんはシンシアさんより弱いでしょ?それではいくらやっても

僕には勝てないですよ」


「何だ?シンシアと模擬戦したのか?」


「よーし、本当にお前が強いか確認してやる、俺より強かったら今回の依頼の俺の取り分全てお前にくれてやる」


「やめとけエイベル、お金を取られるぞ!」とアルフィーがいう。


「冗談じゃないぜ、こんな餓鬼に負けてられねえよ!」


そう言って、模擬刀を構えて二人は対峙して、先にエイベルが間合いを詰めてくる。


しかし、目にも留まらぬ速さでハヤトは裏を取り首に模擬刀をポンと当てて勝負あり。


全員が信じられない顔をしていた。


「ハヤト君先ほどは私に手加減していたのか?」


「それでも負けてしまったが、いや、今でもまだ手加減して居るよね?」


「まだ、【身体強化】とか掛けてないので掛けたらもっと皆さんが見えないでしょ?」


エイベルが叫ぶ!「お前、とんでもない怪物だな、それで冒険者に登録して3日めなのか?ランクはいくつだ?」


「ケープを出る前日にBランクになったばっかりです」


それを聞いて、四人の冒険者は、驚愕の顔でハヤトを見つめていた。


取り敢えず皆で昼食を食べ終えて予約していた”鏡月亭”という宿に入った。


商人さん達もこの”鏡月亭”の3階に宿泊するそうだ。手前の三部屋に商人が2人ずつともう一部屋は3人で泊まる。


我々は男3人が一部屋、女性2人が一部屋2階の部屋をとって部屋に入った。


ハヤトは未だ夕食には時間が有るのでベッドでうたた寝をし、アルフィーとエイベルは町に飲みに行った。


ハヤトは全身にシールドを羽織りひたすら寝た。


夕食だと起こされて1階の食堂に降りてゆく。


アルフィーとエイベルは街で飲んで来て既に酔ってご機嫌だ!


ハヤトはお腹が空いていて完食したが街で飲んで来た二人は少し残していたようだ。


明日は目的地の王都に着くので、何か有るのであれば今日の夜中だろうと何となく考えていた。

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