隠れハッピー




 テーマパークが大好きだった。

 だから、どこに住んでもいいとなったとき、真っ先に口に出たのがその場所だった。

 ミサキには反対されるかと思ったので、

「いいじゃん」

 と言ってくれたときは、初めて気持ちが通じ合えたように感じた。

 世界が壊滅的な打撃をうけて、うちのクラスで生き残ったのはミサキと私の二人だけ。他にも生き残りはいたのかもしれないけど、瓦礫だらけの町で会うことはできなかった。

 ミサキとは仲良しってわけじゃなかった。でも、こんな状況で初めて出会った人よりも何倍も信頼できる。何より、女子高校生ってだけの理由で親切にしてこようとする人よりもずっと。

 私たちは瓦礫の山から使えそうなものを拾い集めながら、海を目指して歩いた。電車なら一時間くらいの距離でも、地図もなく舗装もされていない道を歩くので、何日もかかってしまった。

 だからこそ、見覚えのあるお城が崩れずに残っているのを見たときは、感動した。

 いつもなら平日ですら人でごった返しているはずのテーマパークも、終末ともなれば閑散としていた。

 私とミサキは、お土産屋から発掘した缶から出てきたチョコを頬張りながら、生活の拠点を整えた。

 寝泊まりするのはお城の中でいい。屋根があるだけでも贅沢なのに、まさかお姫様になれる日がくるなんて。

 ここに向かう途中で、大型ホームセンターを見つけて、そこに住む人たちから、いくらかの野菜の種をわけてもらっていたので、畑を作ることにした。

 慣れない農作業に毎日くたくたになって、ジャングルのアトラクションで夕方に水浴びをすると、すぐに寝てしまう日が続いた。

 それこそ、教室に座っているだけでもお姫様みたいに見えたミサキの真っ白だった肌もすっかり黒く焼けている。

 私たちがつくった畑のなかで、一番うまくいったのが、お城のふもとに作った芋畑だ。

 ジャガイモは偉大である。種芋を植えて放っておけばある程度は育ってくれるし、煮て塩を振ればおいしく食べられる。

「復興できた際には、ここを芋のテーマパークにしよう」と約束して笑い合った。

 マスコットキャラクターは、ジャガイモのジャッキーくん。ミサキをモデルにしたミサッキーは反対をうけて却下された。

「見てこれ!」

 農作業中、珍しくミサキがテンション高めに駆け寄ってきた。

 大きなジャガイモに、小さなジャガイモがふたつくっついて、マスコットの顔みたいになっていた。

 ミサキと二人、顔を見合わせて笑う。

「ハハッ、隠れジャッキーじゃん」

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